[ 国際学部 ]連続講演会 講演録(2019年度)

第81回 ソフトバンク株式会社専務執行役員 青野 史寛 氏講演

2019年7月10日

青野史寛氏

青野 史寛 氏

2019年7月10日(水)に開催された第81回国際学部連続講演会では、ソフトバンク株式会社専務執行役員である青野史寛氏をお招きし、「ソフトバンクの未来戦略と未来の主役たちへ」と題してご講演いただきました。会場であるG-IS303教室には約300名の学生が集まり、最新技術がもたらす新しい未来に胸を高鳴らせながら、青野氏のお話を熱心に聞き入っている様子でした。(司会:国際学部 渥美裕之教授)

最初に、青野氏はソフトバンクでは、これまでに、PCソフトの流通・インターネット・ブロードバンド・スマートフォンを含めた様々な事業を展開してきたことを述べられました。また、これらの事業は時代の変化に合わせて行われているものであり、そこには一貫して「情報革命で人々を幸せに」というソフトバンクの企業理念があるのだとあわせて説明されました。スマートフォンは顕著な例で、国内でいち早く導入したのがソフトバンクでした。米アップル社がiPhoneを発売した2008年当時、「日本では誰も使わないだろう」と他の企業から囁かれる中、「いつでもどこでもインターネットを使えるように」を信念に持っていたソフトバンクはその最新技術にいち早く目をつけ、2010年にはソフトバンクユーザーのみでスマホ保有率9.7%を達成させました。2019年現在ではそれが79.2%まで上がり、スマートフォンは現代人の生活に必要不可欠なものになりました。青野氏は、変化を恐れていては時代の波に乗り遅れてしまうので、その変化を正しく見極めることでチャンスを掴むことの大切さを力説されました。

次に、青野氏は新時代の進化の鍵は、AIにあると断言されました。AIは人類の英知を超え、ゲーム・医療・メディア・教育・法律を含めた様々な産業をデジタル化させることにより、人類史上最大の激変をもたらすとされています。その例として、青野氏はAIによる車の自動運転化について紹介されました。安全で効率的な運転を実現させることはもちろん、ライドシェアが新たな交通インフラとなった現在、世界中を走行する車から得られる莫大な情報を使って、交通状況を最適化したり行方不明者を探索したりするなど、AIの社会貢献について説明されました。医療の現場においても、AIによる血液生体検査が従来の組織細胞を採取して行う検査に比べ、安く・早く・安全に癌の早期発見を可能にするので、全米のがんセンター全27施設では既に導入されているとのことです。「人生100年時代」が可能となった今、AIによる医療のさらなる発展が「人生200年時代」も実現させるのではないかと青野氏は言及されました。このようにAIによって各産業が再定義されている中、ソフトバンクはこれをチャンスだと捉え、多数の企業と協調することにより、変わりゆく時代において価値のある会社で在り続けるのだと雄弁に語られました。

最後に、青野氏は働くことについて説明されました。青野氏の原点は学生時代まで遡り、高校生時代に年中休まずに働き続けたこと、大学生時代のアルバイトで年収700万円稼いだことにあると述べられました。当時徹底的に働き稼いだこと、そして大きな仕事を任されるようなったことが、現在も仕事をするうえで大切な軸になっているのだそうです。また、あしなが育英会での活動を通じて、人のために何ができるのかを考え始めたことで自身の価値観が養われたのだと言及されました。これが転機となり、大学卒業後1985年にリクルートに就職されました。人事・社長室などでご活躍された後、1994年にHHR(現リクルートマネジメントソリューションズ)に転籍されます。そして、コンサルティング事業で成功されていたのにも関わらず、2005年に当時1000億の赤字を出していたソフトバンクへの入社を決心されます。普通なら取らないだろう選択肢なのにも関わらず、青野氏がなぜその道に進まれたのかというと、自身に確固たる軸と価値観があったからだそうです。青野氏はこれらの経験を踏まえて、学生たちに対して、社会に出る前に自分の軸について考えてほしいと伝えられました。また、何事にもチャレンジをしたり沢山の人と交流したりすることで、自分の価値観を養うことも大切だと説明されました。講演の締めくくりに、絶え間なく変わりゆく社会の中でも必要とされる人物でいるために、志高く頑張ってほしいと未来の主役である学生たちにエールを送られました。

第80回 元通産大臣・TOKYO自民党政経塾塾長 深谷 隆司 氏 講演

2019年5月30日

深谷 隆司 氏

深谷 隆司 氏

第80回国際学部連続講演会記録(2019年5月30日 13:30~15:00)

第80回国際学部連続講演会は、元通産大臣であり、現在はTOKYO自民党政経塾塾長である深谷隆司氏を講師としてお迎えし、2019年5月30日にG-IS303教室で開催しました。「通商産業行政の実際-通産大臣時代の経験から-」と題して、産経新聞社の協力を得て開催した本講演会には、約280名の学生が集まり、熱のこもったお話に耳を傾けました。(司会:木本圭一教授)

冒頭の自己紹介で深谷氏が83歳であることにふれられると、孫世代となる学生たちからは驚嘆の声がもれ、随所にユーモアを交えたエネルギッシュなお話しぶりにどんどん引き込まれていきました。
まず政治家を志した原体験を語られました。満州で敗戦を迎え、天国から地獄へ突き落され味わった絶望、その1年後に命からがら引き揚げてやっとの思いでたどり着いた日本、そして祖国の土に頬をつけて泣く人々の姿を見たことで、当時11歳だった深谷氏は初めて愛国心を感じ「この国のために役立とう」と心に決めたそうです。
政治家を目指し早稲田大学に入学、志を同じくする学生が集う「雄弁会」では、後に首相となる海部俊樹氏、森喜朗氏、小渕恵三氏らと切磋琢磨します。そこでの人脈は、海部内閣で郵政大臣、村山内閣で国家公安委員長と自治大臣を歴任することにつながります。
大臣の就任会見では「図らずも」という言葉がよく使われるが、自身の場合はすべて「図って」なったもの。逓信庁での経験、台東区議や東京都議としての経験や専門性をふまえて自ら希望し、「雄弁会」で培った人脈をいかしてその座を得られたことは、非常に幸運だったと振り返られました。
小渕内閣で通産大臣となり、中小企業の発展を命じられたことも、浅草に地盤をもつ自身に期待を寄せられてのことだったと述べられました。日本経済の屋台骨を担っているにもかかわらず不遇であった中小企業の置かれている状況を改善するため、36年ぶりに中小企業基本法を抜本的に改正したこと、また、バブル崩壊後の貸し渋り、貸しはがし問題に苦しむ中小企業に対し、総額30兆円規模の中小企業金融安定化特別補償制度を実施したことを成果として挙げられました。この臨時特例措置では3軒に1軒が5000万円の融資を受け、一万社以上が倒産を免れ、十万人が失業を免れたそうです。
次に、通産省のもうひとつの主要な役割として、通商貿易の円滑な発展の促進を挙げられました。出席した数々の国際会議の中で、カフジ油田の採掘権更新をめぐってサウジアラビアのアブドラ皇太子に面会した際の交渉(2000年)や、アンチダンピング問題をめぐってアメリカと渡り合ったWTO会議での交渉(1999年)について、舞台裏でのロビー活動や、首脳をはじめとする要人同士の緊迫した駆け引きも交えて経験談を披露されました。互いに国益のために真剣に戦っている外交の場では、時に啖呵を切って一歩も譲らない姿勢を示すことも必要で、まさに戦場であると述べられました。
今後社会人になる学生に対しては、「今は働き方改革で長時間労働よりも生産性を高めることが求められている。しかし国際競争は依然厳しいものであるから、勤勉さという日本人の美徳を維持しながら、時代に合った働き方を模索していかなくてはならない。頑張れば頭角を現すことができるという点では若い人たちにとって良い時代だと思う」との考え方を示し、「これからの時代はあなたたちの時代。頑張って!」とのエールで90分の講演を締めくくられました。