[ 国際学部 ]連続講演会 講演録(2017年度)

第76回 元 ドイツ大統領 クリスティアン・ヴルフ氏講演

2017年11月20日 本学名誉博士号を授与

クリスティアン・ヴルフ氏

ドイツ連邦共和国元大統領 クリスティアン・ヴルフ氏

関西学院大学は11月20日、ドイツ連邦共和国元大統領のクリスティアン・ヴルフ氏による講演会「激動の時代のドイツ・欧州情勢」を、西宮上ケ原キャンパスの関西学院会館で開きました。教職員と学生約300人が熱心に耳を傾けるなか、ヴルフ元大統領は、ナショナリズムや排他主義が台頭する国際情勢を引き合いに出し、「流行を追いかけ、迎合するのではなく、真実を追求してほしい。挑戦することを恐れないでください」と語りかけました。

クリスティアン・ヴルフ氏

講演するクリスティアン・ヴルフ氏

ヴルフ元大統領は最初に、これまでの日本との交流を振り返りながら、「女性と接する機会が少なかった。日本の社会、特に財界や政界の最上層部で男性が支配的だからではないかと推察する」とユーモアを交えて話したあと、日本とドイツは「連携関係を築き、友情を育まなければならない。それは皆さんの役割」と期待を込めました。

そのうえで、世界には「変化の風」が吹いているとし、イランの核合意やユネスコからの米国の脱退、英国のEU離脱など情勢の変化やその原因について分析。「世界は一層の国際協力を必要としている」と訴え、「他者の見方に寄り添ってみる共感(エンパシー)が必要で、豊かさを最も享受している先進国の私たちが率先して行動することが大切。国際問題の解決には多くの国が関与し合意形成していくことしか解決策はありません」と強調しました。

クリスティアン・ヴルフ氏

学生からの質問に答えるヴルフ氏

これからの国際社会で重要なこととしては、「民族の多様性、宗教の多様性、文化の多様性を受け入れる社会を志向すること。差異と多様性に対応するには、開かれた受容性と寛容さが求められる」と説明。「地球温暖化の進行を止め、生物の多様性を維持し、森林の伐採を持続可能な林業に移行させていかなければならない」と述べました。さらに、自身の親の世代は二つの世界大戦を経験し、今以上に深刻な課題に取り組んだこと、欧州共同体を推し進めた偉大な先人達は国民に批判されても、正しいと思ったことを決断し実行したことを紹介。「若いみなさんにも、同じように断固として勇気をもって進んでほしい。最初は気に入られなくても、本当に重要なことを主張してほしい」と訴えました。

その後、国際学部、総合政策学部の学生らから「自国第一主義、右傾化が進むなかで、ドイツの果たすべき役割は?」「難民を受け入れることの利点と課題、受け入れた難民に期待することは?」といった質問が出されました。これに対し、ヴルフ氏は自らの考えを交えて答えながら、「それぞれの国で独自の文化やアイデンティティがなくなることを心配している。独自性を保ちながら、他国のいいところは受け入れ、よいものにしていくことが大事だ」と話しました。 講演会の前には、これまでの政治家としての活動に加え、日本とドイツの賢人会議である「日独フォーラム」の委員で、知日家として日独関係の強化に尽くした業績等を鑑み、ヴルフ元大統領に、村田治学長から本学名誉博士(政治学)の学位が授与されました。

村田治学長から名誉博士の学位を授与されるヴルフ氏

村田治学長から名誉博士の学位を授与されるヴルフ氏

クリスティアン・ヴルフ氏

1959年生まれ。1986年オスナブリュック市会議員、1990年弁護士、1994~2003年ニーダーザクセン州議会議員、2003~10年同州首相、2010~12年ドイツ連邦共和国大統領。現在、日独フォーラム委員、欧州北アフリカ諸国連合(EMA)名誉総裁。
州首相時代には、第一次世界大戦時にドイツ人の俘虜収容所があった徳島県との姉妹交流を活発に展開。2011年の東日本大震災時にはドイツ国民に募金を率先して呼びかけ、日独修好150周年記念で同年10月に日本を公式訪問した際には福島県を訪問し、被災者を慰労した。

第75回 元 アジア開発銀行上級資源エコノミスト 近藤敏夫氏講演

2017年11月20日

近藤 敏夫 氏

近藤 敏夫 氏

第75回国際学部連続講演会は、元アジア開発銀行上級資源エコノミスト、近藤敏夫氏を講師としてお迎えして、2017年10月25日(水)に図書館ホールにて開催しました。「“究極の国際就職”を目標にして職業人生設計を」と題して開催した本講演会は、講師と参加学生が相互に質問を投げかけあうという、国際就職を目指す学生にはまたとない機会となり、午後3時から午後4時半の終演時間間際まで活発に質問が交わされ、国際公務員への関心の高さがうかがえました。(司会:国際学部 丸楠 恭一教授)

まず、近藤氏は国際公務員を目指したきっかけとして、17歳当時に、國弘正雄氏(元参議院議員、アポロ11号の月面着陸を伝えるテレビ中継番組における同時通訳者)に国際公務員になることを勧められた出会いについてあげられました。国際機関から帰ってきたご自身の今の責任として近藤氏は、国際公務員という職業を日本人に紹介するということ、国際公務員になるためには、複数の専門的視野から多角的に物事を見る目(複眼点)と、国際的な説得力が必要であるということを強調されました。また、国際機関は日本人が生来持つ気質:思慮深く(considerate)、頼りになり(reliable)、従順で(obedient)、礼儀正しい(polite)を大変評価しており、“crop”と名付け自信を持つべきと激励されました。宗教的中立の立場から、日本人としての活躍の場は国際機関では大変多く、この、”crop”精神で、2段階ほど自己表現力を上げた人材が最も望まれる人材ではないかと述べられました。また、明治維新以降福沢諭吉が主張した”脱亜入欧“ではなく、近年は、もっとアジアに目を向けて、”再入亜接欧米“、アジアに軸を置き、欧米ともよい関係を維持していくという意味を込めて、この言葉を行動指針の基礎にする提案をされました。日本がこれまで乗り越えてきた、資源・環境・教育・防災問題の解決などは、特に日本人の得意分野として専門的視野に入れていくことについてもふれられました。

国際公務員になるための具体的なアドバイスとして、まず、大学卒業後にすぐには就職できないこと、大学卒業後には一般企業、または公的機関での就業経験、さらに、大学院での修士課程修了は必至条件とのことから、国際公務員への就職は35歳を目標に定めることと定義がありました。先に触れられた、複数の専門的視野から多角的に物事を見る目(複眼点)と、国際的な説得力の構築の場として、英語圏の大学院への進学も推奨されました。大学院での専攻は、大学で学んだ専門とは違うもの、または同じ専門でも違う角度から学ぶために、異なった研究科への進学への可能性の示唆や、理想的な形として、就職した企業や、公的機関からの派遣で大学院に進学する道の提案もありました。 参加の学生は、近藤氏のエピソード満載の講演に、笑い声あり、感嘆の声あり、熱心に聞き入っていただけではなく、後半には質疑応答の時間もお取りいただき、活発に質問を投げかけていました。

第74回 元 在アメリカ特命全権大使 加藤 良三 氏講演

2017年6月1日

加藤 良三 氏

加藤 良三 氏

第74回国際学部連続講演会は、元 在アメリカ特命全権大使の加藤良三氏を講師としてお迎えして、2017年6月1日(木)に関西学院会館レセプションホールにて開催しました。「トランプ政権と日本の将来」と題して、関西学院大学産業研究所の協力により開催した本講演会への参加者は学生・一般の方を含めて約300名に上り、このテーマへの関心の高さがうかがえました。(司会:国際学部 渥美裕之教授)

まず、先の大統領選挙について、クリントン氏優勢の世論を覆したトランプ氏当選を、「世論」の信頼性を考えなおす契機と捉えたことや、選挙戦中のトランプ氏は民衆が作り上げた「ホログラム」(ある種の虚像)だったため、失言や反対派の活動による影響は少なかったが、大統領就任後は「実体」とならざるを得ず、何らかの形でダメージを負う可能性があるとの見解を述べられました。続いて、トランプ氏が尊敬する4人の大統領(リンカーン、アイゼンハワー、ニクソン、レーガン)の成果や特徴とトランプ氏との共通点・相違点を、御自身が直接会われたニクソン大統領についての印象などを交えながら説明されました。

次に、日米関係について「同盟は運命共同体ではない」というド・ゴール元フランス大統領の言葉を引き合いに、同盟を結ぶとは、冷徹な計算に基づいて自国の国益を最大にできるパートナーを選ぶことであり、同盟維持には双方の努力が必要であることを説かれました。

最後に、日本の将来について、日本は軍事面での「グローバル・パワー」ではないが、人道的援助などを通じて世界に貢献する「グローバル・ネーション」として活躍できるという考えを示され、御自身が永年お好きな野球に喩えてお話を進められました。自国の環境には満足しているが非常時に身を挺して国を守る気はない日本人の傾向に警鐘を鳴らし、今後は観客席から眺めるだけの存在ではなく、選手としてフィールドに出る必要があり、さらには練達の二塁手のように多様な能力を身につけて国際社会を率いていく存在になっていかねばならない、と学生達を鼓舞されました。

質疑応答では多くの手が挙がり、関西学院の大学生として人間の底力を作るリベラルアーツを身に付けるにはどうすればよいか、トランプ氏が率いるアメリカの将来はどうなると予想されるか、傍観者ではなくプレーヤーになるために自分達が今できることは何か、といった質問がありました。加藤氏は、質問への回答を通じて、リベラルアーツは大学での勉強だけを指すのではなく、人間関係や留学などから幅広く学ぶことができ、その中から自分が一番興味関心を持った分野を極めていけば、それが自分の武器になることを教示されました。学生達は真剣な表情で耳を傾け、質疑応答終了後も直接お話をしたい学生が加藤氏をとりまくほどの熱心さでした。