[ 国際学部 ]連続講演会 講演録(2014年度)

第59回 神戸市長 久元 喜造 氏講演

2014年11月27日

久元 喜造 氏

久元 喜造 氏

第59回国際学部連続講演会は、神戸市長 久元 喜造 氏を講師としてお迎えし、11月27日(木)に開催されました。この講演会は、国際学部開設5周年記念シリーズ第2弾およびグローバル人材育成推進事業の一環として、関西学院大学産業研究所の協力を得て実施されました。約140名の学生・一般の方々がこの講演会に参加しました。(司会:国際学部教授 鷲尾友春)

演題は、「オリンピックに向けて、神戸をさらなる国際都市にするためにはどうすればいいか」でした。久元市長は、神戸市の国際化のあゆみをお話されてから、神戸のその地位が、震災後、低下し、海外での神戸の知名度は我々が考えている程は高くないと、自己評価されました。その後、グローバル経済の発展に伴う国内外での都市間競争が激化する中、今後、神戸が国際都市としてどのような形でさらなる発展を為し得るか、「国際性」に関して他都市との新たな差別化をどうすればできるか、神戸独自の強みを活かしながら単なる友好親善にとどまらず、海外と神戸の間の人や投資の流れを積極的に創出することができるか等々の課題を説明されました。具体的な取り組みとしては、経済発展が著しい「東南アジア地域」に注目し、(1) 相互利益型・課題解決型の都市間交流の推進、(2) 効果的な海外へのシティプロモーション、(3) 「国際都市」として、真に海外に開かれた街への進化等、の必要性を言及されました。

講演終了後、久本市長と学生達との対話が続きましたが、市長の意向で、学生達とフロアーからの質疑応答にいつもより長い時間が充てられました。「神戸がユネスコのデザイン都市として選ばれたことによる経済効果について」、「神戸の観光戦略について」、「国際都市としてビジネス面を強化していく際に、地元の中小企業の支援政策はあるか」「アジア系外国人居住者がより暮らしやすくなるための政策について」、「神戸空港の利用率増加について」等々、たくさんの質問が学生から寄せられました。久元市長は、1つ1つの質問に対して理路整然と回答され、また学生からのアイディア提案にも耳を傾けてくださり、活発な意見交換が実施されました。

第58回 駐日オーストラリア大使 ブルース・ミラー 氏講演

2014年10月28日

ブルース・ミラー 氏

ブルース・ミラー 氏

第58回国際学部連続講演会は、ブルース・ミラー駐日オーストラリア大使を講師としてお迎えし、10月28日(火)に開催されました。この講演会は、グローバル人材育成推進事業特別講演会、高等学部商科開設100周年記念講演会として、経済学部・商学部・国際学部が共催し、関西学院大学産業研究所の協力により実施されました。グルーベル院長をはじめ、約115名がこの講演会に参加しました。(司会:国際学部教授 鷲尾友春)

ミラー大使は、お父様から「外国語を学ぶならアジアの言葉を」と勧められて日本に興味を持ち、シドニー大学で、松井教授(現同大学名誉教授)から日本語、日本文学を学び、1982年、関西学院大学文学部に1年間留学されました。自らの海外留学体験をふまえながら、流暢な日本語で「留学先としてのオーストラリア」をテーマにご講演されました。講演中、ミラー大使は、留学先を選ぶにあたって、「留学先の教育制度やその質」および「留学先と日本の経済関係」に注目することを助言されました。オーストラリアの大学教育の質については、オーストラリア政府がしっかり管理しているので、バラつきがなく高い水準を保っていること、また、オーストラリアの大学は、アジア太平洋地域を中心に優秀な留学生が集い、実用的な英語力をつける教育と将来につながるグローバルネットワークを広げることができると述べられました。オーストラリアと日本の経済関係においては、オーストラリアは日本の一次エネルギーの30%を供給し、日本の土台を支えている重要なパートナーであり、7月には2国間経済連携協定が締結され、あらゆる経済分野で両国は緊密に連携し拡大していることをお話されました。

講演終了後には、学生とフロアーからの質疑応答が行われました。「EPAの締結はTTPにどのような影響があるか」、「移民政策における問題点について」、「オーストラリアの教育から日本の教育が取り入れるべきことはなにか」、「アジアとの関係を改善していくために私たち学生にできることはなにか」、「大使が考えるグローバル人材とは」、など英語・日本語で多数の質問が寄せられました。最後にスペシャルゲストとして参加された大使の恩師である松井教授からも鋭い質問もあり、会場の雰囲気が大いに盛り上がった質疑応答となりました。

ミラー大使が大切になさってきた「人との交流・対話」を感じることができる大変良い講演会でした。

第57回 駐日ウガンダ大使 ベティ・グレイス アケチ=オクロ 氏講演

2014年10月27日

ベティ・グレイス アケチ=オクロ氏

ベティ・グレイス アケチ=オクロ氏

第57回国際学部連続講演会は、ベティ・グレイス アケチ=オクロ駐日ウガンダ大使にお越しいただき、10月27日(月)に開催されました。アケチ=オクロ大使は、国際学部がアフリカからお招きする初めてのゲストです。この講演会は、グローバル人材育成推進事業特別講演会、高等学部商科開設100周年記念講演会として、経済学部・商学部・国際学部が共催し、関西学院大学産業研究所の協力により実施されました。ご講演と質疑は英語で行われ、約130名が参加しました。(司会:国際学部教授 鷲尾友春)

ご講演は “Africa-Japan Relations with special reference to Uganda” と題され、アフリカ全体についての背景知識から、アフリカと日本の結びつき、ウガンダの歴史・経済・文化・自然の紹介まで、大使は幅広くお話しくださいました。

「広大なアフリカ大陸には、現在54か国、10億を超える人々が住んでいます。言語は2,000以上、歴史的にも文化的にも非常に多様性に富んだ地域です。アフリカは紛争、戦争、病気、奴隷貿易、植民地主義に苦しみ続けましたが、1960年代半ば頃までに、ほとんどの国が独立を果たしました。日本とアフリカの関係は歴史が長く、17世紀にまでさかのぼることができます。第2次世界大戦後に経済を立て直した日本は、独立を獲得したアフリカ各国と1960年代に外交関係を築き、その後、アフリカ地域における国連平和維持活動への参加や、政府開発援助を通した技術・資金援助を行うようになります。現在は、アフリカ開発会議/TICADの枠組みを中心に、日本とアフリカ諸国との関係はさらに強まっています」

「私の国ウガンダは『アフリカの真珠』と呼ばれ、豊かな自然に恵まれた美しい国です。現在の人口はおよそ3,700万人で、国民1人当たりのGDPは1,500米ドルと依然低いですが、肥沃な土壌が育む農産物の輸出や観光産業などが国を支えています。天然資源も豊富で、銅やコバルトなどの鉱物資源に加え、近年原油が発見されました。ウガンダでの投資機会は拡大していますし、分野も農業、情報通信、観光、エネルギー、建設など、多岐にわたっています。また、その地理的位置、温暖な気候、市場規模、潤沢な若い労働力など、投資環境としてもウガンダは優れています。あまり知られていませんが、ナイル川の源流はウガンダにあります。そのためウガンダは水資源にも恵まれており、今後、太陽光や風力に加え、水力発電の可能性も拡大するでしょう。文化的にも舞台芸術から文化遺産まで様々あり、魅力に溢れています。ウガンダはマウンテンゴリラが生息する3ヵ国の1つですが、野生動物が住む国立公園、ウォータースポーツ、バンジージャンプなど、アドベンチャーや観光資源も多彩です。日本のみなさんには、ぜひウガンダに来てほしいと願っています」

ご講演後は、ウガンダから本学への留学生を含む学生パネリストおよび会場から、日本がウガンダを支援する上で重要な点、将来のリーダーである若者に求めること、ウガンダ国内の汚職問題への取り組み、長年続いた内戦の傷跡から立ち直るための手当て、TICADがもたらした具体的効果、ジェンダーの平等を促進するための方策、天然資源の活用方法など、多くの質問が寄せられました。

「海外からの貿易、投資を奨励しています。道路やエネルギー面でのインフラ整備を加速し、産業の発展と雇用創出につなげたいと思います。TICADの取り組みは保健や農業、教育など様々な分野にその効果を見ることができますが、沿岸部と内陸を結ぶ広域輸送回廊の発達により、物資の輸送も格段に向上しました。女性の活躍を促すためにも、今後は家事を助ける技術やインフラの拡充を目指します。例えば調理に必要な水や燃料の調達にかかる時間を減らすことができれば、女性たちはその時間を他の活動に使うことができるようになります。国・地域の政府機関には一定の女性の登用が求められますが、これが民間部門にも拡大するよう働きかけを行っています。ウガンダを出て留学中の若者には、卒業後に国に戻りなさいと声をかけたいと思います。学びを持ち帰り、地域コミュニティや国の成長を支える人材としてウガンダで活躍してほしいからです。汚職問題についてはオンブズマン制度を導入し、その一掃に努めています。今後さらに改善していくことでしょう。内戦の影響を受けた子供たちには、反政府勢力の兵士としての活動を罪に問わない法律の整備を行ったり、教育や職業訓練を提供することで彼らが社会に戻れるよう支援をしています。アフリカの天然資源については、それに投資するビジネスがアフリカの国々、人々に可能な限り利益をもたらすような法的枠組みの整備を進めています」

「アフリカを1つの国・地域と認識している人は少なくありません。しかし、アフリカは大陸であり、そこには54の国々がそれぞれに多様な特性を持っています。アフリカは決して1つの国ではありません。TICADを通してウガンダと日本は結びつきをさらに強めています。日本のみなさん、『アフリカの真珠』ウガンダへようこそ!ご訪問をお待ちしています」

第56回 駐日ラトビア共和国大使 ノルマンス・ペンケ 氏講演

2014年10月14日

ノルマンス・ペンケ氏

ノルマンス・ペンケ氏

駐日ラトビア共和国大使ノルマンス・ペンケ氏をお迎えし、第56回国際学部連続講演会を10月14日(火)に開催しました。この講演会は、グローバル人材育成推進事業の特別講演会、高等学部商科開設100周年記念講演会、EUIJ関西学術セミナーとして、経済学部・商学部・国際学部・EUIJ関西共催、在大阪ラトビア共和国名誉領事館、関西学院大学産業研究所の協力により行われました。関西学院の創立125周年記念行事のひとつでもありました。グルーベル院長はじめ学生、関西日本ラトビア協会関係者や卒業生を含む約120名の参加者があり、盛況の講演会となりました。(司会:国際学部教授 鷲尾友春)

演題は、「ラトビアのサクセスストーリー:可能性と歴史への挑戦」でした。ペンケ大使は、ラトビアの観光案内をはじめ、歴史や文化、経済、政治に至るまで幅広い内容を映像とパワーポイントで大変わかりやすくご説明されました。まず、中世にキリスト教の布教や、交易の拠点などで栄えながらも周辺の国々に侵略・支配され、1918年の独立宣言後も1940年からロシアに50年にわたって占有され、1991年8月にバルト3国の800キロにもおよぶ「人間の鎖」運動を経て武力によらず独立を回復させた歴史を語られました。次に、経済面では、リーマンショックでアイスランドが財政破綻し、ラトビアもGDPが20%減少したが、その後の政策でEUトップレベルの経済発展を実現していることをお話されました。政治面では、独立回復後の最大の課題は、再び他国の支配を受けないことだと強調され、国際連盟が失敗に終わった教訓からNATOが生まれたが、ラトビアがNATOに加盟したのが2004年、今またウクライナ・クリミア問題で世界が危機を迎えている状況であるため、EU28か国で対抗しなければならないと述べられました。最後に、ユネスコの文化遺産で1983年から5年ごとに開かれているラトビアの「歌と踊りのフェスティバル」などの文化をご紹介され、「次回の“歌と踊りのフェスティバル”は独立100周年の2018年。大人気となるので今からご予約を!」とユーモラスに講演を締めくくられました。

講演終了後には、学生とフロアーからの質疑応答が行われました。ウクライナ問題についてラトビアではどのように報道されているか、美しい国を実現するための特別な政策は何か、グローバル化時代に日本で大学生活を送る学生達がラトビアから学べることは何か、UN-Woman(男女平等と女性の地位向上のための国連機関)理事会の会長を務められた大使からみてラトビアでの女性の地位はどうか等々、その後もEUの将来や課題等の質問が学生から寄せられました。質問の1つ1つに対して、ペンケ大使は冷静に分析され、ご自分の考えを盛り込んで丁寧に回答されました。その回答の中で、他国の支配を受けている間もラトビア人がラトビア語を守り通したことを語られたことが印象的でした。

第55回 戦略国際問題研究所(CSIS)上級アドバイザー エドワード・ルトワック 氏 慶応大学法学部教授 田所 昌幸 氏講演

2014年10月9日

エドワード・ルトワック氏と田所昌幸氏

(上)エドワード・ルトワック氏
(下)田所昌幸氏

米国戦略国際問題研究所(CSIS)上級アドバイザー エドワード・ルトワック氏と慶応大学法学部教授 田所 昌幸氏を、本学東京丸の内キャンパスにお招きし、第55回国際学部連続講演会を10月9日(木)午後6時半~午後9時まで「日本のアジアでの立ち位置」をテーマに開催しました。(司会:国際学部教授 鷲尾 友春)。

この討論・講演会には、東京在住の関西学院大学OBの方々や、ポスターによる案内に応募された一般参加者、合計約50名と、上ヶ原キャンパスからはSkypeを活用して約20名の国際学部生が参加し、お二人の講演に対して、活発な質疑を行いました。

ルトワック氏といえば、世界に名を知られた戦略家。その彼は、日本が抱える数多くの課題の中から、人口問題と対中関係の二つに焦点を充て、特に前者(人口増)に関して、一人の女性が2.2人以上の子供を産む必要があるが、この出生率を上回っている国はスウェーデン、フランス、イスラエルの3か国ぐらいで、これらの国々では、政府が保育に並々ならぬサポートを行っていると指摘されました。人口減少への対応策として、よく移民導入が語られるが、ルトワック氏は、日本はHigh Trust Societyで、移民増大はこの社会特質を崩すので勧めはしない、と論じられました。田所教授も、ルトワック氏の主張に大筋賛成でしたが、日本には既に外国人労働者がかなり入ってしまっている、その意味で、実質的には、移民の導入はかなり進んでしまっている、との現実認識も示されました。

また、田所教授は、少子高齢化は日本が先端を走っている問題だが、世界の国々も、遅かれ早かれ、同じ状況に直面するし、またこの問題が2020年までに解決されるとは思えない、それよりはむしろ、日本独自の社会課題として、議論のフォーカスを日本の公的債務比率の高さ、それ故に、外的ショックへの耐久性の弱体化に当てられました。

中国問題に関しては、ルトワック氏は、同国が、世間の見方と違って、国際問題への対処能力に乏しい、と指摘されました。日本、ベトナム、フィリピンへと、自己の勢力圏を延そうとして、結果、逆に、それらの国々と対立する羽目になっている。これらは、その全てではないにしろ、中国の対外姿勢を担う各部局が、決して一枚岩ではないためだとも示唆されました。

具体例として、習国家主席のインド訪問の際、中国の軍隊が両国の間で国境線が確定していないラダックに無断侵入した事例を挙げ、習主席がインドの首相に平和と協力を訴えている時、自国の軍隊がインドとの間での紛争地に侵入する、現在の中国とは、こんなことが起こる国なのだ、と指摘されました。また、ルトワック氏は、習主席の指示で軍隊が撤退するまでに3日もかかっている、と中国共産党のガバナンスが効いているのか、疑念の念すら呈されました。

お二人の講師のプレゼンが終えた後、香港や台湾の民主化デモなどに関して、上ヶ原の国際学部生達から質問が出され、更にその後、東京丸の内キャンパスの聴講者からも、日本の集団的自衛権行使容認や、中国の経済減速が共産党の一党独裁体制の正当性にどの程度悪影響が及ぶか等、質問が相次ぎました。

本年は国際学部開設5周年目。本学部では、これを記念して「2020年(東京オリンピック開催年)を迎えるに当たって」と題する、シリーズのミニ講演会を都合3回、従来からの連続講演会のフレームの中で、開催することにしています。今回は、そのシリーズ第一弾にもあたります。また、本講演会は、関西学院創立125周年記念としての催しでもありました。

第54回 外務省国際文化交流審議官 齋木 尚子 氏講演

2014年6月30日

齋木尚子氏

齋木尚子氏

外務省 国際文化交流審議官 齋木 尚子 氏(現在:外務省 経済局長)をお迎えし、第54回国際学部連続講演会を6月30日(月)に開催しました。この講演会は、グローバル人材育成推進事業の特別講演会、高等学部商科開設100周年記念講演会として、経済学部・商学部・国際学部の共催により実施されました。グルーベル院長はじめ約200名の参加者があり、大盛況の講演会となりました。(司会:国際学部教授 鷲尾友春)

演題は、「パブリック・ディプロマシー」。パブリック・ディプロマシーとは、伝統な外交~国と国の直接交渉~を補完するものとして、近年、非常に重要と認識されており、外国の国民・世論に直接働きかけていく外交のこと。世界における日本のプレゼンスを高め、日本の国益を守るために、より良い環境を醸成し、親日派・知日派を増やし、世界に日本への理解を深めていく。齋木氏は、そのためにこそ、パブリック・ディプロマシーが重要であると論じられました。

講演中、齋木氏は、米国の対日世論調査の結果を引用し、日本が最も信頼できる国となっていると強調されました。また、齋木氏は、ASEAN7か国の調査でも、日本は最も信頼できる国とみられており、且つ、最も重要なパートナーと位置付けられていると指摘されました。さらに、英国のBBCの調査でも、世界に良い影響を与えている国として日本が長い間1位を占めていたが、現在は日本の経済の低迷もあって4位に後退している、と紹介されました。

日本が何故好意的に見られているかの理由として、齋木氏は、東北大震災で、被災者が他人を思いやり、秩序を失わなかったことに世界が魂を揺さぶられたことや、古典・伝統文化、マンガ、J-POPなどのクールジャパンの影響、無形文化遺産となった和食などが世界に受け入れられていることなども挙げられました。また、世界無形文化遺産の保護に関しても、人間国宝の指定などの重要性を主張し、各国がこうした分野の必要性を認識するよう日本が世界をリードしてきたと紹介され、おもてなしの心が評価されて誘致した2020年のオリンピックでは、スポーツを通じて世界の平和の実現に向けて、日本が大きな役割を果たすことが期待されている、と付け加えられました。齋木氏は、加えて、日本政府が、知的・人的交流、草の根交流の促進のため、留学生を双方向で倍増させようとしていることを強調されました。安全保障・経済などのハード・パワーが外交には不可欠ではあるが、双方向の文化交流を中心とするソフトパワーも、これからの日本外交にますます重要となると述べられました。

ご講演後には、学生代表・会場参加者とのディスカッションが行われ、「外交官を目指されたきっかけは何か。」、「ASEAN各国の人々が日本を最も重要なパートナーとみている理由はなにか。」、「将来、例えば2020年のパブリック・ディプロマシーはどのようなものになっていると思われるか。」、「中小企業の技術力も日本の力と考えるが、文化の他には何が強みと考えておられるか。」、「日本人自身が日本の文化を理解していないように思うが、その状況を打破するにはどうすればよいか。」、「様々な国際機関に多くの資金を拠出しているが、日本はそれに見合ったポジションをとれていないのではないか。また訪日外客数が少ない原因に何があるとお考えか。」など、多数の質問が寄せられました。齋木氏は、これら多岐にわたる質問に対して、様々な視点を交え、理路整然と解説して下さいました。

第53回 在マリ日本国特命全権大使 松原 昭 氏講演

2014年6月27日

松原昭氏

松原昭氏

駐マリ共和国日本国特命全権大使 松原 昭氏をお迎えし、第53回国際学部連続講演会を6月27日(金)に開催しました。この講演会は、グローバル人材育成推進事業の特別講演会、高等学部商科開設100周年記念講演会として、経済学部・商学部・国際学部の共催により実施されました。(司会:国際学部教授 鷲尾友春)

「変貌するアフリカと日本」という演題で、将来の巨大な市場として注目される一方、イスラム過激派の武装集団に翻弄されるアフリカがテーマ。本学出身の松原大使のご講演とあって、図書館ホールに約150名が集まりました。

大使は、「社会に出ると大学に来る機会がない。4年間、いろいろと考える時間は大事だったと思う。」と語られたあと、会場にアフリカのイメージを問いかけられました。貧困、資源開発、海賊・・・と声は上がりましたが、「日本人にはアフリカは遠いが、ヨーロッパからは庭先。関わりはとても大きい。日本企業も有望な市場と考えはじめている。ナイジェリアでは鉄腕アトムが生まれ変わって人気。開発途上のイメージが強いアフリカでも、かつて少数民族が大量虐殺されたルアンダが、今、IT・ハイテクの豊かな国に変貌している。アジアは人口減少を迎えるが、アフリカの人口急増、中間層の拡大が続き、巨大な市場へ成長すると期待されている。一国一票の国連では、54か国の大票田のアフリカが発言力を増している。豊富な天然資源と将来の巨大市場を確保すべく、欧米各国に加えて、中国、韓国の進出も急。一方で、イスラム過激派に翻弄されてフランス軍に治安をゆだねなければならないマリのような国もある。格差拡大、人材不足、世界のエイズ感染者の67%がサブサハラ以南に集中し、人種、女性差別も深刻。多くの難題に苦しむ現実がある。こうした中で、5年ごとに日本で開催されるTICAD(アフリカ開発東京会議)は昨年で5回目。日本政府がサブサハラ地域に今後5年間で10億ドルの支援を表明するなど、その役割、成果にアフリカ各国からの期待が高まっている。日本も、アフリカ各国への関わりは急速に大きくなっていく」と述べられました。

会場から「日本がアフリカのために何ができるか?」との質問があり、「アフリカ各国は、支援よりも投資を求めるようになっている。日本の経済界からはアフリカへのODA関心が高くなっている。しかし、武力紛争やテロが頻発する地域への直接支援は難しい。国際機関などを通じた支援にならざるを得ない。インフラ整備、人材育成、格差是正などに貢献が期待されるが、とりわけ深刻な女性差別の解消のために職業訓練に貢献していきたいと考えている。」、「部族、宗教対立で生まれた恨みや憎しみの克服は容易ではないが、外国の支援に頼るのではなく、自分たちの問題は自分たちで解決していく姿勢が重要。」、「アフリカでも中国の反日キャンペーンが展開されているが、戦後から日本が世界に果たしてきた貢献をアピールし、日本理解の促進に努めている。」と述べられました。

また、外交官となったのは、「東大闘争などで社会と大学が断絶していたとき、ヨーロッパに行き、とくにフランス文化にあこがれ、3年間の民間勤務を経て入省した。」、「新卒者の採用は日本だけ。国際機関も大学院以上の学位と専門職務の経験者が採用される。専門性が必要だが、日本政府の派遣で国連に勤務し、その後、より高いポストに挑戦する方法もある。公募でも内部の人が採用されやすい。」、「関学生は表に出ようとしない、存在の影が薄い。どんどん活躍してほしい。続く人が出てくることを期待している。」と、学生へのエールで講演を締め括られました。

第52回 日本アイ・ビー・エム株式会社 代表取締役社長 マーティン・イェッター氏講演

2014年6月12日

マーティン・イェッター氏

マーティン・イェッター氏

日本アイ・ビー・エム株式会社代表取締役社長マーティン・イェッター氏をお迎えし、第52回国際学部連続講演会を6月12日(木)に開催しました。この講演会は、グローバル人材育成推進事業の特別講演会、高等学部商科開設100周年記念講演会として、経済学部・商学部・国際学部の共催により実施されました。ご講演と質疑は英語で行われ、学生約120名が参加しました(司会:国際学部教授 鷲尾友春)。

“What will we make of this moment? – as the next leader in the new era”(次世代のリーダーとなるみなさんに期待すること)をテーマに、イェッター氏は、とどまることなく変化する世界が生み出す機会について、身近な例を交えお話しくださいました。

「100年以上の歴史があるIBMでは、170の国々で43万人が働いている。情報・通信の変化は速く、新しいIT技術が次々と生まれ、社会に大きな影響をもたらしている。こういった変化は新しいものと思われがちだが、蒸気・電気・石油がかつて社会を劇的に変えたのと同様のことを、私たちは今再びITを通して経験しているに過ぎない」

「たとえば今、世界中でデータが新たな『天然資源』となっている。データという日々増え続ける『原材料』をどうしたら効果的に活かせるか?石油の場合、1バレル(約160リットル)のうちガソリンとして使われるのは47%、残りの53%は様々な製品へと形を変えている。つまり、原材料は加工して初めて価値が創出されるということ。同じことがデータについても言える。どのように分析・加工して価値を生み出していくのか?そこにイノベーションや豊富なビジネスチャンスが生まれる」

ご講演後は、イェッター氏と学生の間で活発なディスカッションが行われ、日本という環境についてイェッター氏が最も難しく感じたこと、ソーシャルメディアの使い方、情報環境の複雑化とプライバシー保護、日本の学生が『内向き』である現状、人間の能力とコンピュータの能力、グローバル・リーダーの定義・必要な資質など、テーマは多岐にわたりました。

「過去の成功は将来の成功を保証するものではない。現状に甘んじることなく、前に進み続けること。『ワイルドダック』(=飼いならされていない野生の鴨、IBMが実践する理念の一つ)の精神で常に挑戦し自ら決断する姿勢を持ち続けてほしい」と学生を激励くださいました。

第51回 駐日インド大使 ディーパ・ゴパラン・ワドワ氏講演

2014年4月15日

ディーパ・ゴパラン・ワドワ氏

ディーパ・ゴパラン・ワドワ氏

駐日インド大使ディーパ・ゴパラン・ワドワ氏を講師にお迎えし、第51回国際学部連続講演会を4月15日に開催しました。駐日インド総領事アシーム・ラジャ・マハジャン氏にもご出席いただきました。ご講演・ディスカッションとも英語で行われ、学生・教職員約100名が参加しました。この講演会は、グローバル人材育成推進事業の特別講演会として、経済学部・商学部・国際学部の共催により実施されました(司会:国際学部教授 鷲尾友春)。

“India and Japan Relationship”と題したご講演で、ワドワ大使はインドと日本の関係を振り返り、それがいかに変化し成熟してきたかについてお話しくださいました。

「インドと日本は地理的には距離がありますが、仏教という接点に始まり自然・祖先への敬意といった価値観を共有しながら、それぞれの意識の中に相手国への親密感を抱いてきました。19世紀に入るとインド綿の貿易が始まり、両国間に初めてビジネスの接点が生まれました。その後大戦を経て、インドと日本は必要なときに必要とされる支援を互いに行ってきました。この相互支援は、1949年、インドが日本に象を贈ったときに始まりました。敗戦後の苦しい時期、日本の多くの人々が象の姿に笑顔を見せました。1950年代には、インドはアジア諸国の中で初めて、日本によるODA(政府開発援助)を受け入れました」

「経済的にも政治的にも互いを重要な戦略的パートナーと考え共に歩むと同時に、インド・日本の二国間の枠組みを超えて、地域・世界にどのような貢献ができるのかを考えてきました。今後も政治、経済、エネルギー、環境、防衛・安全保障など様々な課題について、多層構造の対話の構築を共に進めていきます」

「両国の間で最も重要なつながりは、言うまでもなく人と人の結びつきです。特に若い世代同士の関係構築により力を注いでいきたいと思います。大学間の交流も広め、若者が互いへの理解を深められるような環境を作り、それぞれの文化を認め合うことを目指していきます。例えばインド映画産業は『ボリウッド』と呼ばれ世界的に有名ですが、日本ではまだあまり知られていないようです。また、日本文化についてもインドはもっと学ぶべきです。人と人、文化領域での相互理解を今後さらに強めていきたいと考えています」

ご講演後には、学生代表・会場参加者とのディスカッションが行われ、インドの環境政策の現状、企業の汚職問題、インド・中国の外交関係、女性のエンパワーメントの推進、福島第一原子力発電所事故がインドの原子力政策に与えた影響、現在のインド・日本間のビザ取得状況など、幅広い質問が寄せられました。ご講演中、「日本で学んだことの一つは時間の管理をきちんとすることの重要さです」と笑いながらお話しされた大使は、一つひとつの質問に対し、時間に厳しい司会者が求めた時間内に簡潔にお答えくださいました。