2014.11.01.
戦略国際問題研究所(CSIS)上級アドバイザー エドワード・ルトワック氏と慶応大学法学部教授 田所 昌幸氏が講演

エドワード・ルトワック氏と田所昌幸氏

(上)エドワード・ルトワック氏
(下)田所昌幸氏

米国戦略国際問題研究所(CSIS)上級アドバイザー エドワード・ルトワック氏と慶応大学法学部教授 田所 昌幸氏を、本学東京丸の内キャンパスにお招きし、第55回国際学部連続講演会を10月9日(木)午後6時半~午後9時まで「日本のアジアでの立ち位置」をテーマに開催しました。(司会:国際学部教授 鷲尾 友春)。

この討論・講演会には、東京在住の関西学院大学OBの方々や、ポスターによる案内に応募された一般参加者、合計約50名と、上ヶ原キャンパスからはSkypeを活用して約20名の国際学部生が参加し、お二人の講演に対して、活発な質疑を行いました。

ルトワック氏といえば、世界に名を知られた戦略家。その彼は、日本が抱える数多くの課題の中から、人口問題と対中関係の二つに焦点を充て、特に前者(人口増)に関して、一人の女性が2.2人以上の子供を産む必要があるが、この出生率を上回っている国はスウェーデン、フランス、イスラエルの3か国ぐらいで、これらの国々では、政府が保育に並々ならぬサポートを行っていると指摘されました。人口減少への対応策として、よく移民導入が語られるが、ルトワック氏は、日本はHigh Trust Societyで、移民増大はこの社会特質を崩すので勧めはしない、と論じられました。田所教授も、ルトワック氏の主張に大筋賛成でしたが、日本には既に外国人労働者がかなり入ってしまっている、その意味で、実質的には、移民の導入はかなり進んでしまっている、との現実認識も示されました。

また、田所教授は、少子高齢化は日本が先端を走っている問題だが、世界の国々も、遅かれ早かれ、同じ状況に直面するし、またこの問題が2020年までに解決されるとは思えない、それよりはむしろ、日本独自の社会課題として、議論のフォーカスを日本の公的債務比率の高さ、それ故に、外的ショックへの耐久性の弱体化に当てられました。

中国問題に関しては、ルトワック氏は、同国が、世間の見方と違って、国際問題への対処能力に乏しい、と指摘されました。日本、ベトナム、フィリピンへと、自己の勢力圏を延そうとして、結果、逆に、それらの国々と対立する羽目になっている。これらは、その全てではないにしろ、中国の対外姿勢を担う各部局が、決して一枚岩ではないためだとも示唆されました。

具体例として、習国家主席のインド訪問の際、中国の軍隊が両国の間で国境線が確定していないラダックに無断侵入した事例を挙げ、習主席がインドの首相に平和と協力を訴えている時、自国の軍隊がインドとの間での紛争地に侵入する、現在の中国とは、こんなことが起こる国なのだ、と指摘されました。また、ルトワック氏は、習主席の指示で軍隊が撤退するまでに3日もかかっている、と中国共産党のガバナンスが効いているのか、疑念の念すら呈されました。

お二人の講師のプレゼンが終えた後、香港や台湾の民主化デモなどに関して、上ヶ原の国際学部生達から質問が出され、更にその後、東京丸の内キャンパスの聴講者からも、日本の集団的自衛権行使容認や、中国の経済減速が共産党の一党独裁体制の正当性にどの程度悪影響が及ぶか等、質問が相次ぎました。

本年は国際学部開設5周年目。本学部では、これを記念して「2020年(東京オリンピック開催年)を迎えるに当たって」と題する、シリーズのミニ講演会を都合3回、従来からの連続講演会のフレームの中で、開催することにしています。今回は、そのシリーズ第一弾にもあたります。また、本講演会は、関西学院創立125周年記念としての催しでもありました。

特別講演会「2020年オリンピック開催を目途に日本はアジアで立ち位置をどう再構築すべきか」パンフレット PDFファイル   [ 394.35KB ]PDFリンク

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