「私たちはこう生きる」執筆者インタビュー

[ 編集者:国際学部・国際学研究科       2021年10月22日   更新  ]

なぜ大学在学中に本を書く事にしたのですか?

私たちはこう生きる

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私たちがこの本を共同執筆しようと考えたきっかけは、コロナ禍にオンライン授業が開始され、大学生活が一変したことでした。私は入学前から目指していた国際社会貢献活動に参加できなくなり、友達にも会えない日々が続く中で、自分が大学に入学した意味は何だったのか…。それを忘れてしまいそうになった時期がありました。
その時、出会った教育学者の伊都猛先生から 「海外に行ったり、大学の授業を受けたりすることでしか何も学べないの?与えられる場 に行くんじゃなくて学びは自分で掴みに行くものでしょ。本当に今、何もできない世の中 ですか?」と声をかけていただきました。私はその言葉にハッとし、入学前に描いていた「途上国の子ども達に教育を与えられる人になる」という夢をもう一度思い出しました。そして日本に留まっている現在の状況の中でも描いた将来の姿に近づく方法を考えました。
すると友人との飲み会のような刹那的な楽しさだけで終わっていいのか、と自分の大学生活に疑問を感じました。もちろん今までも授業は真面目に取り組んできたつもりでしたし、福島県野菜の安全性を示すイベントの企画・開催をしたり、関西学院大学高等部での出前授業をしたりするなど、課外活動も行ってきました。しかし当時は、留学(国際社会貢献活動)に行けないまま大学生活が終わる現状だけを見て、海外での実践経験が積めなければ、社会に貢献する力がつけられないのではと根拠のない不安を感じていました。そんな悩みを抱えていた時、周りの先輩方と過ごす中でオンライン授業以外にバイトも、遊びもできない今こそ、誰もやらないことを毎日少しずつ積み重ね、何かを成し遂げるチャンスなのでは、と前向きに考えられるようになっていきました。
そこで、自分達がどんな大学生活を過ごし、得た経験を通してどう生きたいか、どんな人間になりたいのかを自分と向き合い考えて、真剣に綴ることにしました。

この本のこだわりポイントはどこですか?

西山 由佳さん

執筆者の一人 西山 由佳さん

1つ1つにこだわりを持って執筆をしたのですが、今回は大きく3点をご紹介したいと思います。1つ目は内容です。2020年の8月ごろから執筆を始め、完全な内容に仕上がるまで半年の時間をかけました。この本は伊都先生がこれまでに先生の教え子に向けて書かれたメッセージに対して、私を含めた執筆者たちが各々自分のなりたい姿を重ねて人生の哲学を綴ったものです。そのため、まずは個人作業で執筆するのではなく、自分が担当したい先生のメッセージに対して何を感じ、どのような経験を重ねたのかをメンバー全員に共有し合う所から始めました。心を開いてお互いの想いや経験を語り合うことに本当に多くの時間を割きました。何度もメンバー同士で原稿を読み、お互いの内容についてコメントし合う時、メンバーそれぞれの想いを汲んだコメントをつけ合えたと思います。書いているメンバー間での信頼感があったからこそ、家族の話や自分の悩みの話などを赤裸々に書くことができたと感じています。
また、この本では自分の目指す生き方や人生のビジョンについて書いているので、メンバーから内容についての指摘をされる時、自分の生き方について考えさせられることもありました。しかし、毎日朝から晩まで作業して、私よりも私のことを理解してくれているメンバーだと実感していたので、納得してお互いの指摘に向き合うことができたと思います。
お互いにコメントをつけ合いながら、自分の生き方そのものを振り返るこの期間は、内容を改善するだけでなく、自分の内側とじっくり向き合う時間にもなったと感じていて、私たちが大事にしていた時間でした。そのため妥協は許さず、半年間、何度も原稿を互いにチェックして全員が納得できるまで話し合いを続けました。

2つ目のこだわりはこの本の内容は全部手書きで綴っているところです。先生が先にご出版されていた書籍「百年の桜」も上下巻共に「文字にその人の想いが宿る」という信念から手書きで執筆されていました。その言葉を聞いた時、私たちも自分たちの想いが1番まっすぐに伝わると思う、全ページ手書き、手作りのページのレイアウトやフォーマット、挿絵で執筆することを決めました。それによって、読者の皆様が私たちに共感したり、勇気づけられたりできると嬉しいと思いました。私たちのことをより近しく思って欲しいと願い、まずは私たちが読んでくれる人を思って書こうと考えました。自分たちの個性や想いが伝わるように、手書きで載せる字の練習も原稿作成と合わせて約3ヵ月ひたすら練習しました。

3つ目のこだわりは、発売直前で決定した書籍データの和紙加工についてです。本書は大学受験やこれからの人生を考える高校生から、卒業後の進路に悩む私と同じ世代に至る、多くの人に読んでいただきたいと考え、できるだけ安く販売できるようにKindleで出版することを決めました。しかし、執筆中はレイアウトや色味、文字の読みやすさについては普通紙で原稿のチェックをするという方法で確かめていました。本の原稿がすべて完成した後、全てデータ化して原稿をタブレットでチェックすると、画面が紙より白く表示されるため、読むのに目が疲れるという新たな課題が見つかりました。しかし、この問題を発見したのは出版予定日の3日前でした。3日間で全てのページを編集し直すのは不可能でしたし、読み手が読みやすい明るさに画面の明るさを調節できることから、既存の原稿で出版しようという結論に至りましたが、先生に報告した際にこのように言葉をかけていただきました。
「妥協の産物は作らない。本当にこだわり抜いた物だけが人の心を動かすことができる」
この言葉に、今まで応援してくださった方々、出版を楽しみにしてくださっている方々に私たちのまっすぐな思いを伝えるためには、画面の明るさなど少しの読みにくさもノイズになると考え直し、最後まで良い書籍を作ることにこだわることを決断しました。少し勇気が必要でしたが、出版日をずらして全てのページの背景を編集し直し、和紙の素材に変更することで、読者の方々がどんな明るさの設定で読んでくださっても読みやすいデザインを実現することができました。
このように、これから私たちの本を手に取ってくださることを考え、読者の皆様と正面から向き合える本を作れるようにさまざまなポイントにこだわりました。
ぜひ読んでいただきたいです。

書籍の執筆、出版を通じてどのようなことを学びましたか?

何より大きいのは、大学生でも本気でやれば大人が見ても認めてくださるような何かが作れるという点です。
私たちの活動を知り、紀伊國屋書店梅田本店さんが本の流通について勉強会をしてくださいました。お忙しい中、貴重なお時間をとっていただき、本の出版から流通のルートや、自費出版のメリット・デメリットを教えていただき、私たちの本がどのような形で出版されるのが理想か一緒に考えてくださいました。
また、本学の広報室の方もSNSでの広報についての勉強会を特別に実施してくださったり、広報誌で取り上げるためのインタビューも実施してくださったりました。その中で大学生活の過ごし方についてお話させていただきましたが、「関学で本当に良い大学生活を送っていらっしゃいますね」と言っていただき、まさにその時が私たちの本で誰かの心が動いたと感じた最初の瞬間でした。
電子書籍での出版が近くなると、関学出版会の方は特別に関学出版会の製本機で、製本版『私たちはこう生きる』を作ってくださいました。実際の紙の書籍としていつか出版したいという私たちの想いを聞いてサンプルを作ってくださり、製本作業に立ち合わせていただくことができました。
本の執筆を始めてから、製本作業、出版を通して得た多くの経験から、大学で得た学びをもとに大学生が社会で挑戦することや、新たな出会いの中で情熱を共有した人と一緒にものを生み出せるかどうかは、常に自分次第であると強く感じました。 自分から行動して学びを掴み、それをもとに次の学びの機会を生み出し続けられる人になるための訓練は、海外に出たから得られるものではなく、自分がどのように学ぶかにかかっていると気づくことができましたし、一生懸命な姿は必ず誰かの心を打つのだと実感しました。
私たちの活動を応援してくださった皆様、沢山の学びの機会をくださり本当にありがとうございました。