原田ゼミ3回生でのゲストスピーカー胡桃澤伸氏による授業(2021年11/15)の報告

[ 編集者:経済学部・経済学研究科      2021年11月24日   更新  ]

日暮龍之介

はじめに

 2021年11月15日、原田ゼミ3回生は精神科医で劇作家の胡桃澤伸(くるみざわ しん)氏を招き、ゲストスピーカーとして講義をしていただいた。
 それに先立ち、私たちはゼミの授業にて、胡桃澤氏が登場する「決壊――祖父が見た満州の夢」というドキュメンタリー番組(信越放送、2018年)を視聴した後、手塚考典『幻の村――哀史・満蒙開拓』(早稲田出版、2021年)を読み、事前学習を行った。満蒙開拓や、伸氏の祖父である河野村村長 胡桃沢盛(くるみざわ もり)についての知識を十分に深めた。

ゲストスピーカー胡桃澤伸氏2021.11.24①

「決壊」でかつての開拓の地(中国吉林省)を訪れる場面

 なお付け加えると、ドイツ経済思想をメインとする原田ゼミでこうした学びへと至ったのは、19世紀前半のドイツの最大の経済思想家フリードリヒ・リスト(1789~1846年)が当時ドイツ南部への開拓の必要性を説いていたことを学習したのが発端であった。貧農が土地をもつ農民になるために周辺地域を開拓することは、現実にはどうなるかを認識するためである。

1. 「決壊――祖父が見た満州の夢」について

 まず胡桃沢伸氏の自己紹介から始まった。胡桃沢氏が現在精神科の医者であり、かつ河野村の胡桃沢盛の孫であることを言われた。その中で、ご自身が自分のことを先生と呼ばずに「さん」付けで呼んで欲しいとおっしゃった。そのため以下では「胡桃澤さん」と書く。
 その後、ご自身が出演しているドキュメンタリー「決壊――祖父が見た満州の夢」について話してくださった。まず、テレビ出演のオファーをもらったとき引き受けるのには覚悟がいった、とのこと。なぜなら、祖父盛の日記を読むことは苦しかったからだ。当時の満州の現地の人を訪問し、お話を聞いているときが辛く、自分の祖父がどれだけ残虐なことを彼らにしていたかを実感したと言われた。
 『幻の村』の著者で「決壊」のディレクターの手塚考典氏について話された。手塚氏はインタビューで伸さんがしっかりと答えるまで黙っていた人だとのこと。そのため、中国での滞在中は盛のことを常にしっかり考えなければならなかった。それを今でも思い出すと手に汗を滲むほど辛かったと言う。厳しいところに追い込まれないと人間は本当のことを喋らない。そして私たちに向けて、今後私たちが生きていく中で、このように厳しいやり取りをする場面があるときが必ずあり、そのような場合しっかりと相手の質問を理解し、正直に答えることが重要である、と説いてくれた。

ゲストスピーカー胡桃澤伸氏2021.11.24②

手に汗がにじむほど辛いインタビューだったと言う胡桃澤伸さん

2. 番組で放送されなかったことについて

 このドキュメンタリー番組で放送されなかったことについて語っていただいた。まず、胡桃澤盛の本当の人物像についてである。番組内では盛の戦争に対する苦悩などが彼の日記を通して描かれていた。しかし、番組では放送されなかった部分の日記は沢山あったという。その中で伸さんが読んでいてとても辛かったという部分は、いかに盛が戦争賛美者であったかが分かるように書かれていた部分である。戦争賛成への決まり文句のような文章が長く書かれていた部分があったという。盛は決して平和主義者ではなかったのだ。ドキュメンタリー映像を見ただけでは知ることのできなかった盛の一面について知ることができた。また、盛が「自殺」という形で責任を取ったことは美しくない、と批判した。私もそれにはとても共感した。
 そして伸さんは、番組内で映る自分が視聴者に暗い印象を与えてしまっていることを否定し、盛が侵してしまった過ちや、盛が自殺してしまったという事実が、かえって自分の生活を豊かにしている、と語った。それはこの悲惨な事実を考えた続けることでお芝居を作り、自分の表現活動に役立っているからであるとのことである。また、今回のようなゲストスピーカーとしての講義や講演会を通じた様々な出会いがあることも生活が豊かになった要因であると言われた。盛の事実によって悩むことが増えたが、それなそうしたことは楽しいと言われた。私はこの話がとても印象に残った。
 盛についての悲惨な事実を知り、後ろ向きになるのではなく前向きに考えられる姿勢に感銘を受けるとともに、こうした考え方はとても生きていく上で重要である、と感じた。この様に伸さんはドキュメンタリー番組の裏話や満蒙開拓移民についてのお話をすると同時に私たちに向けてのメッセージを数多く残してくれた。これらを今後の生活に役立てて行きたいと思う。

3. 集団自決の地についての追悼について

 番組の最後に、伸さんが集団自決の地を訪れ、死者を弔う場面がある。日本と中国の戦争の事後解決がついていないという点から、本当は公には行ってはいけない行動なのだそうである。河野村の集団自決の弔いは放送局の後ろ盾もあり行うことができたが、それ以外の村の集団自決の弔いはできなかった経験もあった、とのこと。死者の弔いができないことはとても辛いことだ、と語っていた。
 その後、私達ゼミ生の質問に伸さんは回答してくれた。恐らく答え辛い質問もあっただろうが、真剣に回答してくださった。それにより、私達の知識もとても深まった。

ゲストスピーカー胡桃澤伸氏2021.11.24③

私達ゼミ生の質問に誠実に回答する伸さん

おわりに

 今回、胡桃澤伸さんをゲストスピーカーとして招いた講義を通じて、満蒙開拓移民についての知識を深めることができたと同時に、胡桃澤盛さんの人物像や戦争の悲惨さを改めて知ることができた。この様な悲惨な事件を繰り返さないことはとても重要である、と感じた。今回の講義で伸さんが私たちにおっしゃっていただいた数々のメッセージも忘れずに、今後生活を送っていきたいと考えている。