2025.03.27.
2024年度 懸賞論文/龍象奨学金の選考結果と講評について

懸賞論文

選考結果
選考
結果
部門 学生氏名 演習担当者
氏名
論文題目 論文題目(副題)
入賞 個人執筆部門 小泉 一颯 村上ゼミ 電気自動車の環境評価 ライフサイクルで見る電力構成比の差異による環境負荷の分析
入賞 共同執筆部門 青木 幹太 村上ゼミ 物流問題とユーザーインターフェースの需要分析 ECサイトのコンジョイント分析
松田 啓
劉 康為
佳作 個人執筆部門 桑原 慶 國枝ゼミ 信用制約と日本の地域経済 大阪府・兵庫県のデータを用いた清滝・ムーアモデルの実証分析
佳作 個人執筆部門 赤井 勇斗 黒川ゼミ 自家用有償旅客運送制度が地価に与える影響に関する統計的因果推論  

 経済学部では、学生による優れた研究を表彰するため、1985年から懸賞論文制度を設けている。本年度は8つのゼミより、個人執筆部門に15本、共同執筆部門に3本、計18本の応募があった。昨年度と比較すると、個人執筆部門への応募はやや増えたが、共同執筆部門については応募が大幅に減少した。
 応募論文の内容については、問題意識、分析手法、独創性、完成度などいずれも高い水準にあったといえる。また、今年度の特徴として、多くのゼミから応募があったため、多様な研究課題が扱われていたこと、ほとんどの論文で実証分析が行われていたことなどが挙げられる。
 選考委員会で審査した結果、個人執筆部門については入賞論文1本、佳作論文2本、共同執筆部門において入賞論文1本を選出することとした。以下、各部門の入賞論文、佳作論文について簡単に紹介したい。

【個人執筆部門】

 入賞論文である「電気自動車の環境評価−ライフサイクルで見る電力構成比の差異による環境負荷の分析−」では、電気自動車等の特定の車種を普及促進させる経済政策が、本当に脱炭素につながっているのかという問題意識の下、燃料生産から走行に至るまでのライフサイクルを通した炭素排出量を定量化することにより、ガソリン車・ハイブリッド自動車と電気自動車の環境優位性について比較・検討している。独自に作成したデータをもとに実証分析を行い、電気自動車の環境優位性は地域の電源構成に大きく依存し、電気自動車の普及政策が本来の目的とは逆の(高炭素型の選択を促す)可能性があるとことを示した本論文の結果は大変興味深いものであり、研究の独創性、論文の説得性の点で高く評価された。

 佳作論文の一つである「信用制約と日本の地域経済―大阪府・兵庫県のデータを用いた清滝・ムーアモデルの実証分析―」では、日本の地域経済は土地担保に関連した信用制約に直面しているのかについて理論的かつ実証的に分析を行っている。独自に導出した消費関数を大阪府と兵庫県のデータを用いて推定した結果から、大阪府では1987年以前、兵庫県では1990年以前において土地担保に関連した信用制約に直面していたということを見つけ出し、その意欲的な内容が高く評価された。

 もう一つの佳作論文である「自家用有償旅客運送制度が地価に与える影響に関する統計的因果推論」は、2006年に開始された自家用有償旅客運送制度(自治体ライドシェア)が地価に与えた影響を、傾向スコアマッチングを用いた差の差分析によって政策評価した論文である。実証分析では、石川県七尾市、兵庫県福崎町、岐阜県恵那市の3自治体を取り上げ、七尾市と恵那市では制度導入による地価の上昇は観測されなかったのに対し、福崎町では地価の上昇が見られたことを確認している。論文の着眼点や独創性が高く評価された。

【共同執筆部門】

 入賞論文の「物流問題とユーザーインターフェースの需要分析」では、近年急成長するアパレル製品のECサイトに対する需要を、物流問題やユーザーインターフェースに注目して分析を行っている。論文では、物流業界の供給が不足する「2024年問題」に対して、消費者の需要コントロールに関する議論が不足しているという問題意識の下、アンケート調査に基づくコンジョイント分析によって消費者の選好を定量的に明らかにしようとしている。需要側をコントロールすることで、「2024年問題」に伴う需給ひっ迫を緩和できる可能性があることを示した結果は興味深いものであり、論文の明確な問題意識と共に高く評価された。

(懸賞論文選考委員会委員長 古澄英男)

龍象奨学金

 経済学研究科では、研究科在学者及び研究員の研究助成を目的として、龍象奨学金を設けている。本年度は1名の応募があり、選考委員会による論文審査の結果、奨学金支給を決定した。以下、当該論文について簡単に講評する。

 本多真紀「土地付注文住宅の資本コスト―2010年代の推計―」では、土地付き新築戸建てを所有した場合における、家計が直面するコストと、家計が受ける住宅税制の効果について、資本コストの観点から理論的かつ実証的に分析を行っている。本論文の貢献として、(1) 家屋と土地の住宅税制の総資本コストを計測することによって、住宅税制の政策効果を評価したこと、(2) 土地を含めた資本コストを用いて限界実効税率を計測することで、家屋と土地を合わせた住宅全体に対する個別税制の効果を計測したこと、(3) 資本コストに家屋価格と土地価格を反映させたことにより、価格変化の影響が資本コストに与える影響を実証的に示したことなどが挙げられる。これらは当該研究分野における重要な貢献であると考えられ高く評価された。

(龍象奨学金選考委員会委員長 古澄英男)