2021.11.01.
【原田ゼミ】3年生でのゲストスピーカー宮本憲一先生による授業の報告

今坂優志

はじめに

 2021年10月25日、3回生原田ゼミでは、大阪市立大学および滋賀大学の名誉教授である宮本憲一先生をゲストスピーカーに迎え、授業が行われた。宮本先生は公害問題や環境問題を取り上げた環境経済学者としてたいへん名高く、『社会資本論』(1967年)や『都市経済論』(1980年)をはじめ数々の名著を出しておられる。また我々の研究テーマとの関連では、かつてドイツ古典派が唱えた「社会的使用価値論」を現代において提唱されている点で重要であり、お忙しいなか、講義していただけたことに感謝の意を申し上げたい。

ゲストスピーカー宮本憲一先生2021.11.1①

宮本先生自身がご準備されたスライドのタイトルページ

1.公害問題を通して見えた環境経済学への道について

 講義は、産業化および資本主義の進行によって現代が地球温暖化や新型コロナウイルスによるパンデミックに直面していることを問題視するところから始まった。経済学はGNPを増大することを福祉の向上の基礎として捉えてきたが、今日の2大危機(温暖化・パンデミック)によって、とくにそうした新自由主義の発送は完全に行き詰ったと宮本先生は言う。そうした先生の問題意識は、戦後の重化学工業化とともに始まった公害問題を出発点とするものである。

ゲストスピーカー宮本憲一先生2021.11.1②

公害問題が横行していた当時の実態を話す宮本先生

 当時、先生は重化学工業および公害の拠点であった四日市のコンビナートに調査に訪れたが、企業や県庁は事実を隠蔽すべくまともに取り合ってくれなかったという。また市場経済学は市民の生活や景観の維持を問題としておらず、そうした企業や県ならびに経済学の不正義な態度では公害の被害が全国に波及し、経済学が重大な政策上の誤りを生むことを先生は危惧し、公害問題の調査や告発、さらには新理論の策定をするに至ったという。
 その後、著書を通して公害の実態を世に知らしめ、その甲斐もあって市民運動が起こり、それが政府の開発政策を防止したケースもあった。

2.社会的使用価値論について

 このパートでは経済学が偶然性や誤った情報に左右されやすい交換価値に基づいて財・サービスが評価されていることを問題視し、社会的に使用価値が高いものが評価されない市場の非完全性について述べられた。また社会的な使用価値を持っていても——教育や福祉ひいては地球環境のように——市場では供給できない、あるいは供給困難な財・サービスがあり、こうした財・サービスが市場で評価されないことが問題であると先生は述べた。この行き過ぎた市場原理主義の誤りはやはり地球環境の危機やパンデミックをもたらすこととなるため、社会的な使用価値を公共財の供給の基準にするべきだと先生は言う。

ゲストスピーカー宮本憲一先生2021.11.1③

Savasによる財・サービスの分類の図(ご準備されたパワーポイントより)

3.「容器の経済学」と宇沢理論との比較

 先生は従来の環境を外部性とみなす経済学では人類の共同社会を維持できないとして、地球環境や環境破壊を経済学の対象にしなければならないと言う。資本主義を野放しにすると各企業が利益を追求して深刻な都市問題を誘発するため、都市を維持すべく自治体による都市政策が必要であると考え『都市経済論』(1980)を、さらに共同社会の頂点に立つ「国家」や「環境」と資本主義の関係を明らかにすべく『現代資本主義と国家』(1981)や『環境経済学』(1989)を出版した。これらの共同社会的条件を、宮本先生は「容器の経済学」と呼ぶ。
 またドイツ古典派とも近い数理経済学者・宇沢弘文氏の理論との共通点と相違点についてもご説明いただけた。両者とも市場価値ではなく使用価値から分析し、フロー分析でなくストック分析をする点では共通している。一方で宇沢氏と宮本先生は共同社会的条件の部分で異なっており、宮本先生が社会資本、都市、国家、環境を共同社会的条件とするものの、宇沢氏の社会的共通資本は社会資本、制度、自然の3要素を総合概念としている、とのことである。
 以上、約1時間にわたりお話しいただいた講義は、若者世代への地球環境を守る運動への参加を呼びかけでもって終わり、その後の質疑応答に関してもひとつひとつ丁寧にお答えいただけた。

おわりに

 昨年度の研究演習が始まって以来、学んできたドイツ古典派に通ずる理論を——オンラインではあるものの——直接ご本人から聴くことができて、本当に貴重な経験であったと思う。また実際に目で見られた当時の四日市の惨状や書物だけでは完全に把握しきれない理論の細部を、質問へのご回答などを通してお聴きすることができ、たいへん勉強になった。宇沢理論との比較やSDGsとの関連は今後も——もしかすると卒論を通して研究していきたいテーマのひとつであるので——今回の講義をしっかりと役立てたいと思う。
 最後にお忙しいなか、細やかな資料もご用意いただき、貴重なお話をしていただいた宮本憲一先生に重ねてお礼申し上げたい。