2019.10.18.
第2回手話学コロキアム(研究講座)を開催しました
去る10月6日(日)、手話言語研究センター主催で「言語の海を航る」と題し、第2回手話学コロキアムを開催しました。6月に行なわれた「言葉の森にでかけよう」に続く第二弾になります。このコロキアムは、手話研究に関心を持つ手話使用者の方々が増えてもらいたいとの想いのもと、今年度から新たに始めた事業になります。今回は、兵庫教育大学の鳥越隆士先生と筑波技術大学大学院修士課程の矢野羽衣子先生をお招きし、ご自身のフィールドワーク研究についてお話をいただきました。前回も盛会でしたが、今回も35名(内、ろう者10名)のご参加をいただき、非常に活発な学びの場になりました。
まずは、矢野羽衣子先生よりご自身が生まれ育った愛媛県大島の宮窪地域や奄美大島古仁屋地域の手話についてフィールドワークのご経験をお話いただきました。手話を引き出すためのツールによっては相手に不快な思いをもつことや地域の自然な手話を収録したくても、相手をみて日本手話に合わせてしまう状況があることなど、実際にフィールドワークを行う中での経験談をきくことができました。そして、最後に「フィールドワークをすることにより不就学ろう者や地域共有手話使用者の生活や考え方について、自分が学ぶ機会にもなり成長につながった」とフィールドワークの感想を述べられていました。
次に兵庫教育大学の鳥越隆士先生より、手話との出会いやその後、フィールドワークをするに至った経緯からお話いただき、老人ホームや教育現場、沖縄の離島と幅広くフィールドワークをなされてきたご経験をお話いただきました。それらのフィールドで得られた知見は、ホームサイン、手話の喃語や幼児語などろう児の手話言語の獲得、難聴学級での難聴児たちが手話を使用する状況など、いずれも示唆に富むものばかりでした。実際にフィールドに入らないと得られない様々な情報をお聞きし、フィールドワークの面白さや重要性を再認識させていただきました。
その後、グアテマラ(カクチケル語)や喜界島(喜界語)でフィールドワークに取り組んでいる今西祐介(本学総合政策学部准教授、手話言語研究センター研究員)がモデレーターとして入り、鳥越先生、矢野先生のミニトークを行いました。フィールドワークの難しさについて、矢野先生からは、手話を引き出すために例文を提示しても、それが馴染みのないものであれば「そもそも、そんなことはない」と一蹴されてしまい、言語を引き出す手法に苦労をするという話があったり、鳥越先生からは聞こえる者として、社会のマイノリティーであるろう者に接する際の信頼関係の構築の難しさや、フィールドワークの成果をどのように還元すればよいのかという研究の終わり方の難しさなど、フィールドワーカーの生の声をお聞きすることができました。トークが進むにつれて、少数言語を対象とする研究の中で、日本語や日本手話の影響が否めないのが現実であり、それも含めてその地域の言語となっている事実を言語学者としてどのように受け止め、分析をすすめていくかといった研究のスタンスの根本に関わる問題提起までなされました。
ミニトーク終了後、参加者全員でディスカッションの時間を設けました。聴者のグループとろう者のグループに分かれていただき、30分で講師が入れ替わるという形で、活発な質疑やコメントが交わされました。ご参加いただいた皆様ありがとうございました。
矢野先生が講演された「ろう者自身の言語学者が少なく、ろう者が主体となって研究に参加する必要性がある」という言葉が印象的でした。ろう者の皆さん、一緒に手話研究を盛り上げていきましょう。また聞こえる聞こえないに関係なく、ひろく手話に関する研究に関心が高まっていくことを期待したいと思います。
鳥越先生、矢野先生、素晴らしいご講演をありがとうございました。また、手話通訳の皆さん、長時間にわたる情報保障お疲れ様でした。
手話学コロキアムは、今年度はこれで終了です。次年度にはまた新しい内容を企画して参ります。ご期待いただければ幸いです。