2019.09.27.
手話通訳研修事業を開催しました

開会の挨拶

開会の挨拶

去る9月15日(日)、手話言語研究センターと兵庫県手話通訳士協会の共催事業「あなたの知らない手話通訳の世界 ~シンポジウムと模擬法廷通訳演習~」を、甲南大学岡本キャンパスにおいて開催しました。3連休の真ん中にも関わらず、午前の部(定員100名)、午後の部(定員60名)ともに定員に達し、大勢の方にお集まりいただきました。

渡辺顗修先生

渡辺顗修先生

この「手話通訳研修事業」は、手話言語研究センターとしては初の事業となります。専門領域に特化した手話通訳について議論ができる場、技術研磨ができる場を提供したいという思いから本事業を立ち上げ、そして長年にわたり法廷通訳に特化した手話通訳士現任研修を実施されている兵庫県手話通訳士協会との共催がこの度実現しました。そして、いつもその手話通訳士現任研修の講師をされている、ご自身も弁護士の、甲南大学法科大学院教授の渡辺顗修(ぎしゅう)先生の力をお借りすることができました。何度も会場下見やリハーサルを重ね、手話言語研究センターとしても今年度大きなイベントの1つとなりました。

水野真木子先生

水野真木子先生

まず午前のシンポジウムは、金城学院大学教授の水野真木子先生をモデレーターに迎え、5人のシンポジストにご登壇いただきました(シンポジストについての詳細は一番下をご覧ください)。日頃手話通訳を利用している、ろう当事者(竹内氏)、同じく手話通訳を利用する聴者の弁護士(渡辺先生)、その双方の橋渡しをする手話通訳者(酒井氏、多賀氏、池上氏)という、異なった立場のシンポジストが集い、「コミュニティ通訳」という大きな枠組みの中で、「人権を保障する」という意味での通訳の責務や、「異なる言語を持つ双方を調整する」という意味での通訳の責務、そして、「支援者」ではない手話通訳者がどこまで双方の間を取り持つのが許されるかについて議論が交わされました。

日頃手話通訳として現場に出ておられる参加者の方は、共感できる部分がたくさんあったでしょうし、これから手話通訳を目指そうとしておられる参加者の方は、現場の声をたくさん聞くことにより、自分が目指す手話通訳像が浮かび上がったのではないでしょうか。

シンポジウムの様子

シンポジウムの様子

栗林亜紀子先生講義

栗林亜紀子先生講義

午後からは法廷通訳演習です。
まずは、弁護士の栗林亜紀子先生より、「二つの手続き –民事と刑事」というテーマで、民事事件と刑事事件それぞれの手続きや裁判での流れをご説明いただきました。
特に印象に残ったのは、手話通訳などの、いわゆる「通訳人」の持つ役割についてでした。
特に刑事事件においては、ろう者と直接のやり取りをしてはならず、通訳行為に徹するということ、そして、話者の話した内容を「忠実に、正確に」訳すことが大変重要であり、内容の増減、変更、省略などはしてはならないということでした。

法廷通訳演習の様子

法廷通訳演習の様子

その後、事前に通訳演習にお申込みをいただいた参加者の方々が順番に、与えられた場面に沿って通訳演習を行いました。例えば「黙秘権」の説明1つにとっても、ただ説明文通りに手話に変換するのではなく、その概念を正確にろう者に伝えるための等価訳が求められます。
演習は甲南大学内にある法廷教室で行われ、本物そっくりの雰囲気に、通訳者の方々も、傍聴席で様子を見ておられた参加者の方々も幾分緊張されている様子でした。

法廷通訳演習の様子

法廷通訳演習の様子

各場面での通訳演習が終わると、ろう者の評価者として、午前に引き続き竹内幸代氏、そして本センターの前川和美が、通訳者にコメントやアドバイスをし、またろう者の被告人役の方や弁護士の渡辺先生および栗林先生からも、法廷の場面で通訳者に求めること(立ち位置は自分で決めて交渉する、勝手に被告人とやり取りをしてはいけない、など)についてのアドバイスがありました。

法廷通訳演習の様子

法廷通訳演習の様子

朝の10時半から夕方の4時半という長丁場でしたが、改めて手話通訳が担う責務や目標言語への通訳スキルについて、参加者の皆様と一緒に考える貴重な時間になったのではないかと思います。

本イベントにご登壇いただきましたすべての皆様に感謝申し上げます。
また、法廷通訳という非常に高度な知識と振る舞いが求められる場で通訳演習にご参加いただきました皆様、お疲れ様でした。
そして、今回は午前の部、午後の部ともに、締切日を待たずとしてお申込みが定員に達しました。改めて皆様の「手話通訳」に対する関心の高さが伺えました。
ご参加いただきました皆様、本当にありがとうございました。
そして、今回定員の関係でお越しいただけなかった皆様、次回のイベントでお会いできることを楽しみにしております。
最後に、本イベント共催の兵庫県手話通訳士協会の皆様に感謝申し上げたいと思います。

※アンケートの内容は後日アップいたします。

~登壇者一覧(敬称略)~
午前 シンポジウム 
<シンポジスト>
・渡辺顗修(ぎしゅう):甲南大学法科大学院教授、弁護士
・竹内幸代:西宮市聴力言語障害者協会ろうあ部会 手話奉仕員養成講座講師
・酒井智子:伊丹市設置通訳者
・多賀真理子:看護師、手話通訳士、「聴覚障害者の医療を考える会」
・池上睦:兵庫県手話通訳士協会会長

<モデレーター>
水野真木子:金城学院大学文学部教授、「法と言語学会」副会長

午後 手話通訳演習
<講師>
・渡辺顗修(ぎしゅう):甲南大学法科大学院教授、弁護士
・栗林亜紀子:弁護士
<評価者>
・竹内幸代:西宮市聴力言語障害者協会ろうあ部会 手話奉仕員養成講座講師
・前川和美:関西学院大学手話言語研究センター 研究特別任期制助教