2017.07.25.
手話言語研究センター講話会(関西)を開催いたしました

 去る7月23日(日)、今年度の関西での講話会を、「講話会 ~近代聾史について知ろう~」と「ワークショップ ~日本手話を楽しもう~」の二部構成で、関西学院大学梅田キャンパスにおいて開催いたしました。蒸し暑い中でしたが、それでも手話やろう者の歴史に関心のある方、日本手話学習に関心のある方など、約50名の方にお集まりいただきました。

~新谷嘉浩氏 「近代聾史について知ろう」~

~新谷嘉浩氏 「近代聾史について知ろう」~

 まず、第一部では、近畿聾史研究グループ代表の新谷嘉浩氏から、日本におけるろう児教育の黎明期における手話やろう者の様相(具体的に大きく分けると、1) 古河太四郎と手話について、2) 明治期のろう者のコミュニティについて、の2つ)についてご講演いただきました。

 古河太四郎と言えば「京都盲啞院の創設者」としてご存知の方もいらっしゃると思います。講演では、古河氏と手話との出会いにまつわる伝説秘話や、ろう児に日本語の読み書きを教える際に用いた「手勢(しゅせい・しかた)法」について、残されている貴重な資料とともにお話しくださいました。「手勢」とは、古川がろう者どうしでコミュニケーションを取っている様子を注目して、それが音声日本語で何を意味するのかを解釈したものがベースになっており、「手勢=手話」ではないこと、つまり巷間言われるように「古川が手話を創出した」という説には疑問符が付くことが強調されていました。

~貴重な資料も見せていただきました~

~貴重な資料も見せていただきました~

 また、明治期におけるろう者のコミュニティとして、当時の新聞などから髪結業を営んでいたろう者がいたことが分かっており、そのなかには大層有名なろうの髪結い夫婦がいたこと、またこうした髪結いのろう者などの無就学者は「手真似(てまね)」を用いてコミュニケーションを取っていたことがわかっており、そこから盲唖学校以外の場でも「手話」が既に使われており、ここでも「古川太四郎=手話創出者」説は首肯できなく、むしろこの「手真似」こそ日本手話のルーツである可能性を読み解くことができました。

 参加者からは、
「滅多に聞ける話ではなかったので新鮮だった」
「もっと詳しく伺いたかった」
との感想をお寄せいただきました。

対談をする新谷嘉浩氏(左)と今西祐介当センター研究員(右)

対談をする新谷嘉浩氏(左)と今西祐介当センター研究員(右)

 続いて、新谷氏と当センターの今西祐介研究員の二人で、参加者の方々に事前に書いていただいた「質問票」の内容を紹介しながら話を進めていきました。その中で、比較的最近誕生した「ニカラグア手話」を元に、手話(言語)は自然に発生するものだという再認識や、話者が非常に限られている日本手話を今後守り抜いていくために今何が必要か、についての話が繰り広げられました。新谷氏が最後に述べた「聾史を知るには、例えば盲史にまで範囲を広げて調査をする必要がある。そこから当時のろう者の様子が見えてくることもある。自分で世界を狭めないことだ。また、貴重な資料を後世に伝えるためにも、みんなで共有する場を持つべきだ」という言葉が非常に印象的でした。
 こちらについては、参加者から、
「言語学専門と歴史専門の対談はなかなか見れないので、面白かった」
「まだまだ研究する深さがある学問だと思った」
との感想をいただきました。

~小北悦子氏による日本手話ワークショップ開始!~

~小北悦子氏による日本手話ワークショップ開始!~

 そして第二部では、関西学院大学教育学部で日本手話の指導にあたったご経験を持つ小北悦子氏による日本手話のワークショップをおこないました。手話未経験者から初心者レベルの方々に集まっていただき、「色」に関する手話を学んだあと、グループ対抗で、お題に出された図形の「色」と「形」を伝える「伝言ゲーム」をしました。習ったばかりの「色」の手話を使いながら一生懸命形を伝えようとする参加者。うまく伝わったグループは大喜び。反対にに「あれ、形が逆になった~」「意外に難しい~」という声も聞かれました。

~日本手話の特性について解説~

~日本手話の特性について解説~

 ワークショップの最後には、小北先生からの解説がありました。その日に学んだ「物の形や様態」は『CL(類別詞」』と呼ばれ、例えば本の厚さや本の並べ方など、日本手話では細かく表現することができるそうです。わずか1時間という短い時間でしたが、手話ならではの魅力が十分に伝わったようでした。 
 参加者からは、
「ゲームで楽しく学習でき楽しかった」
「CL(類別詞)の具体的な指導が参考になった」
などの感想をいただきました。

 十分な教育を受けられなかったろう児のために、様々な工夫を凝らして教育を施した明治の教育者たち。そして髪結場などにろう者が集まり、そこでは手話が用いられ、語り継がれていき、今こうして「言語」としての地位を確立しつつある日本手話。新谷氏や小北氏の手話を見ていると、その手話1つ1つに、先人の惜しまぬ努力やろうコミュニティーのルーツが見えてくるようでした。

 お暑いなかお越しいただきました皆様、本当にありがとうございました。
また、この講話会を支えてくださった、手話通訳の皆様、本学キャンパス自立支援室の要約筆記を担当いただいた学生サポーターの皆様にも、この場をお借りしてお礼を申し上げます。

 講話会(東京)は、10月15日(日)に開催予定です。詳細が決まりましたらアップいたしますので、どうぞお楽しみに!