2017.07.05.
「国際フォーラム ~手話言語研究の新たな知見~」を開催しました

 去る7月2日(日)、東京の国際ファッションセンターにて、当センター開設以来初の学術的イベント「国際フォーラム ~手話言語研究の新たな知見~」を開催いたしました。申込締切日を待たずに定員(100名)を超えるお申し込みをいただき、締切日後も数々のお問い合わせをいただきました。いかに手話言語研究に対する意識や関心が高まってきているかが伺えます。

基調講演をされる デボラ・チェンピクラー氏

基調講演をされる デボラ・チェンピクラー氏

 基調講演として、世界唯一の「ろう・難聴学生のための総合大学」であるアメリカ・ギャロデット大学言語学部教授で国立民族学博物館外国人客員研究員の Deborah Chen Pichler (デボラ・チェン-ピクラー)博士をお招きし、「Learning a Sign Language(手話言語を学ぶということ)」というテーマでお話をいただきました。手話習得者、と一口に言ってもその背景は多岐に渡ります。音声言語と手話言語どちらも第一言語として獲得するコーダ(ろうの親を持つ聞こえる子どものこと)、2つの異なる手話をどちらとも第一言語として獲得するろう者、1つの手話を第一言語として獲得し、その後に2つ目の手話を第二言語として習得するろう者、そして音声言語を第一言語として獲得した後に手話を第二言語として習得する聴者。それぞれの習得過程や表出エラーの出現にどのような特徴が見られるか。また音声・手話言語にかかわらず「第二言語習得」の普遍的な要素があるとすればそれは何か、などなど。

 音声言語とは異なるモダリティ(伝達手段)を持つ手話言語の習得過程を研究する事で、今まで音声言語習得研究だけでは見えてこなかったこと、社会的背景からもたらされる現象、そして改めて、「手話」と言う視覚言語ならではの特性も再確認できるような、とてもエキサイティングな内容でした。
 参加者からは、「環境や第一言語により言語の習得に差が出たり、効果的な方法が違うということが分かり、貴重な講演だった」「新たな認識が増えて良かった」など、たくさんの感想をいただきました。

左から松岡和美氏、遊佐典昭氏、デボラ・チェンピクラー氏

左から松岡和美氏、遊佐典昭氏、デボラ・チェンピクラー氏

 続いてのパネルディスカッションでは、「Sign Language Learners(手話言語習得者)」と題し、先のDeborah Chen Pichler博士、松岡和美教授(慶應義塾大学)、遊佐典昭教授(宮城学院女子大学)、Martin Dale-Hench(マーティン・デール-ヘンチ)氏(日本ASL協会)にご登壇いただき、今西祐介当センター研究員の司会のもと、それぞれの立場から手話言語に特化した習得プロセス、手話言語の習得が容易な点/難しい点、第二言語習得研究の今後の展望についてお話を伺いました。お一人お一人ご専門分野が少しずつ違うという面白い組み合わせで、手話学習者としての見解、言語習得における社会的交流がもたらす利点について実験データを得た脳科学者の立場、あるいは手話指導者としての見方など、異なる複数の視点から熱い議論が交わされました。

マーティン・デール-ヘンチ氏

マーティン・デール-ヘンチ氏

 参加者の皆様もご自分の研究や言語学習と照らし合わせながら聞き入っておられたのではないでしょうか。「様々なご専門からの活発な議論が刺激的だった」「手話言語に対する考えが変わった」「第二言語としての手話の研究を今後も進めていただけることを楽しみにしている」など、こちらもたくさんの感想をいただきました。

 更に今回は日本財団ソーシャルイノベーション本部より、石井靖乃氏にもお越しいただきました。最後のご挨拶のなかで、「日本財団は日本の手話言語学がもっともっと盛り上がって行く様に支援を続けていきたいと考えています。そのために、今日のような素晴らしいフォーラムが、継続的に開かれるように協力していきます」と力強いお言葉を頂戴いたしました。

 4時間という長丁場だったのにもかかわらず、「もっと聞きたかった」という声が多数聞かれたということは、皆様が期待されていた以上の知見が得られたのではないかと、私たちも望外の喜びです。お越しいただきました皆様、本当にありがとうございました。また定員を超えてしまったためにお越しいただくことが叶わなかった皆様にはお詫び申し上げます。後日当フォーラムの内容をまとめた冊子を作成いたしますので、そちらをご覧いただければ幸いです。

 また、この国際フォーラムで大きな仕事を丁寧にこなしてくださったろう通訳の皆様、フィーダー通訳の皆様、日英通訳の皆様、要約筆記の皆様にも、この場をお借りして感謝申し上げます。ありがとうございました。

 またこのような国際フォーラムの開催実現に向けて、スタッフ一同準備を進めてまいります。今後ともご支援・ご指導のほど、どうぞよろしくお願いいたします。