2023.03.16.
関学大・群馬大合同シンポジウム「高等教育機関が担う次世代手話教育の可能性」を開催しました

基調講演の場面

基調講演の場面

 2月19日(日)に群馬大学との合同シンポジウム「高等教育が担う次世代手話教育の可能性」をオンラインにて開催しました。 このシンポジウムは、基調講演・話題提供・パネルディスカッションの3本立てで行われました。

  基調講演では「手話教育・研究は高等教育の情報保障ニーズを満たせるか?」というテーマで、文部科学省大臣官房総括審議官の井上諭一氏よりご講演いただきました。ろう、聴覚障害の学生や大学での情報保障の状況などのデータに基づいて、今後どれだけ手話通訳者の養成に力を注いだとしても、様々な専門分野で学ぶ学生に十分な情報保障を提供することは、現状のままでは量的にも質的にも困難であるとご説明いただきました。一方で、AI(ディープラーニング)により自動翻訳技術が飛躍的に進展していることから、それに画像認識技術と手話言語学研究の成果を掛け合わせることで、自動学術手話通訳の実現も夢ではないこと、そして、それを人間の通訳士がフォローする形にできれば、高等教育機関における手話通訳不足の問題は解決できる
のではないかというお話がありました。ほかにも、サイバネティック・アバターのお話
など、未来を感じられる示唆に富んだ講演をしていただきました。

話題提供の場面

話題提供の場面

 基調講演の後は、松岡克尚 関西学院大学手話言語研究センター長と金澤貴之 群馬大学手話サポーター養成プロジェクト室リーダーによる「意思疎通支援者養成における法制度の検討」と題した話題提供を行いました。本学の松岡センター長からは、手話言語条例の制定状況や障害者権利条約の対日審査結果の勧告内容、障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法といった法制度に関わる最近の動きに加えて、社会福祉士制度の歴史や養成の仕組みについて情報提供がありました。また、群馬大学の金澤プロジェクト室リーダーからは、手話通訳を取り巻く制度や通訳者養成に関する複雑で多岐にわたる内容を、クイズ形式で分かりやすく解説いただきました。

パネルディスカッションの場面

パネルディスカッションの場面

 「高等教育機関における手話通訳者養成」と題したパネルディスカッションでは、初めに5名のパネリストからそれぞれ事業報告、実践報告がありました。 まず、関西学院大学手話言語研究センターの森本郁代センター副長と前川和美研究特別任期制助教から、関西学院大学でのナチュラルアプローチによる手話教育の取り組みや手話言語研究センターが設立されたことの意義などの報告があり、次に群馬大学手話サポーター養成プロジェクト室の中野聡子准教授が、群馬大学の日本手話・手話通訳教育において「専門職としての手話能力の欧州基準」(2016)を参照しつつカリキュラムや授業の改善を行ってきたこと、またトランス・ランゲージングを導入した指導実践について報告されました。また、社会福祉法人全国手話研修センター 手話事業課の髙井惠美氏からは、厚生労働省委託事業である「若年層の手話通訳者養成モデル事業」の取り組みについて報告があり、2022年度は4大学で実施されたことや、オンラインや集合(対面)授業を併用して行われた結果、予習が習慣化したといった学習効果についてのお話と、今後の事業計画についても説明されました。 最後に、社会福祉法人聴力障害者情報文化センターの飯泉菜穂子氏より、元世田谷福祉専門学校手話通訳学科長の立場から、世田谷福祉専門学校での取り組みについてこれまでの教育実践に基づいてご説明いただきました。入学1年目で手話検定1級を100%近い割合で取得していたという実績がありつつも廃科となった実状をふまえて、持続可能な教育環境の担保のためにはエビデンスの構築が重要であることも示唆していただきました。 パネリストからの報告後の討議では、高等教育機関であり研究機関でもある大学では、人材育成の実践により研究を深化させ、その成果を教授法の開発やカリキュラムの構築に活かしてさらに人材育成をするという循環を生みだすことができるといったお話や、今回のように様々な機関が連携していくことが重要であるという発言などがあり、活発な意見が交わされました。

当日は250名を超える方にご参加いただき、高等教育機関が担う役割についての関心の高さを改めて実感しました。

  1. 以下、参加者から寄せられた感想の一部を紹介します。
  2.    ・高等教育機関における教育や、テクノロジーの現状、また問題点、課題についてさまざまな方からのお話を伺い、大変勉強になりました 
  3.    ・手話に関する教育や研究のみならず、AI、第二言語習得、教員養成、福祉行政など、関連領域へのインプリケーションに富む内容になっていた点が非常によかった  
  4.    ・基調講演のような、未来をみすえた構想が必要だと思いました。実現のためには教員の養成と共に、先進技術との協働がとても重要だと思いました

お忙しい中、ご参加いただいた皆様、登壇してくださった皆様、ありがとうございました。