2016.07.29.
手話って世界共通?
手話って世界共通?
平 英司 手話言語研究センター専門技術員・「日本手話」非常勤講師
手話にまつわるコラムを掲載するこのコーナー。今回のお話は「手話って世界共通?」についてです。初対面の人に自己紹介で「手話の研究をしている」というと、「手話って世界共通?」と聞かれることがよくあります。手話は世界共通ではありません。
しかし、手話が世界共通であると思っている人は多いようです。関西学院大学で「日本手話」という科目を履修する学生たちに毎年、一番初めの授業で手話に関するアンケートをとっており、今まで計570人の学生から回答を得ました。そのうち4人に一人(138人:24.1%)が「手話は世界共通である」とし、3人に一人(206人:36.2%)が「手話はほぼ世界共通である」という問いにYESと答えていました。「日本手話」という科目を選んだ学生達でさえこのような状況ですから、社会において多くの人たちがそのように思っているのだと考えられます。
これは、「手話はジェスチャーであるため、誰もが見て分かるものだ」という誤解からきているのでしょう。ジェスチャーだって世界中地域によって異なるわけですが、手話は世界各地のろうの人達のコミュニティーの中で使用され培われてきた言語です。音声言語でも世界共通言語を作り、世界中の人がそれを用いることが困難なのと同様に、手話は世界共通ではありません。日本には日本手話という日本固有の言語が存在しますし、英語が用いられているイギリスとアメリカでも、アメリカではアメリカ手話、イギリスではイギリス手話という別の言語が用いられています。
また、手話が世界共通ではないと認識したとしても、「世界共通だったら便利なのに」という声も、特に聞こえる人たちの中から聞かれます。私も学生時代、英語が苦手で音声言語について「世界共通だったら良かったのに」とか「ほんやくこんにゃくがあればいいのに」とか思ったことはありました。しかし、現実的にそのような事が可能だとは思っていませんでしたが、こと手話となると「手話は誰もが見て分かるジェスチャーだ」という誤解のもと、本気でそのように思われてしまう節はあります。手話が言語であるということを取り上げたある報道番組で、最後にコメンテーターが「世界共通の手話をみんなが使えばもっと素敵な世の中になると思います。」と発言していたのを聞いたこともあります。
世界共通手話を開発(もしくは、別の手話言語に統一)するということは日本手話を使用しなくなることを意味します。現在、世界中で言語の消滅が懸念されています。ユネスコ(国連教育科学文化機関)の平成21年の報告によると、世界の約6000言語のうち2500に上る言語が消滅の危機にあると言われています。この6000言語は音声言語に限ったもので手話言語についてはリストアップされていないのが、私としては物足りないのですが、とにかく言語の多様性の確保、少数言語の保護が課題となっています。
日本手話という日本固有の言語を守るためにも、日本手話の研究や教育の発展が望まれます。関西学院大学では、日本で初めて大学機関において手話言語研究のセンターが始動し始めました。今後も、日本手話の研究発展のため、応援のほどよろしくお願いします。
と最後は、宣伝になってしまいました…。