2024.01.10.
語り方(見せ方)の違い

語り方(見せ方)の違い
内山 宏美 手話言語研究センター専門技術員

 先日、オンラインでのイベントに参加しました。
そのイベントは、ろう者と聴者が参加し、話者もろう者・聴者それぞれが担当するもので、進行はすべて手話で進められていました。話者はパワーポイント等で画面を共有しながら、それぞれのスライドにそって話を進めていく、というものでした。

 ろう者の話者は、まずスライドを表示させると、参加者全員がそれを見た(共有した)かどうか少し時間をとり、全体を見まわしてから語り始めていました。一方、聴者の話者は、スライドが表示されると同時に話し始める、というスタイルでした。一般的に、聴者が音声で話をする場において、そしてすべての聴衆が聴者だった場合は、声で進行されますので、音声言語(聴覚)を使って場が作られていきます。聴者は聴覚と視覚とを使って情報を処理していて、場が無音(無言)になることをあまり好ましくないと感じているような気がします。それに対して、ろう者は視覚を中心に状況を把握し、理解しているため、同時に2つの情報(この場合は、手話を見て話を理解することと、スライドを見てその内容を理解すること)を「見る」ことを自然と避けているのではないかと感じました。
ろう者と聴者、関係なく日本手話が共通言語である場でしたが、語り方にそれぞれの特徴がよく表れているというのは、非常に興味深い発見でした。また、今回のことで、同時に二つの情報を「見る」ことが、こんなにも負荷のかかる、難しいことなのだと、身をもって体感しました。

 スライドの作り方に関しても、ある一定の特徴があるように感じました。ろう者の作成するものは、イラストや図を使って視覚的に負荷のかかりにくいものが多く、聴者の作成したものは、長い文章などで構成されていることが多い気がします。文章でまとめられている資料は、後で共有される場合にはとてもありがたく、私もよく活用させてもらっていますが、その場で確認する資料としては、他にも見るもの(この場合は手話での語り)がある場合には、参加者にとって、追い付くのが大変になることがあるのだと思いました。

 どんな人が参加していても、今、この場に起こっていることを、参加者全員が負担に感じないよう工夫を凝らすことは、とても重要なことだと思います。講演会のようなイベントだけでなく、複数の参加者が順に発言するような会議等の場で、手話通訳や要約筆記等の情報保障がある場合には、発言者が手を挙げて、名前を言ってから発言するように、とよく言われますが、話に夢中になると、つい忘れてしまうことが多いようです。

 読みやすいスライドを作成することや、スライドの切り替わりに少し時間をとってから話を進めること、そして発言時に自分が誰だか名乗ってから発言すること、等、ほんの些細な工夫で、ろう者だけでなく、聴者にとっても分かりやすく、誰もが参加しやすい場を作ることができるのではないでしょうか。