2023.10.20.
ろう者と聴者の、協働スペースを考える

ろう者と聴者の、協働スペースを考える
前川 和美 特別任期制助教 手話言語研究センター主任研究員

 手話言語研究センターは、2016年に開設してから今年(2023年)で7年の歳月が経とうとしている。開設当初は、5名の研究員のもと、専門技術員2名と事務職員1名の計3名が事務室に常駐していたが、今では主任研究員2名、専門技術員1名、事務職員2名の計5名がセンター内で日々業務をこなしている。

 さて、センターはこの7年間で2回引っ越している。最初はせいぜい4人くらいが座れるスペースしかない一室だったのだが、その後大学図書館内にある、少し広めの一室に引っ越したのち、現在は共同研究室に事務室、そして会議室の3部屋をいただき、フロアの大半を占めるぐらいになった。何より嬉しいのは、2023年度より大学の常設機関になったことに伴い、センターが入っている建物の前に「手話言語研究センター」という看板が立ったことだ。些細なことかも知れないが、館内のフロアマップやウェブサイトにも名前が載るようになったのは、センターの存在が大学に認められた感じがして嬉しい。

 話を戻して、私がこのセンターに入ったのは、大学図書館へ1回目の引っ越しが済んだときからだった。私以外、全員聴者という職場環境だったので、こちらから要望を伝え、様々な工夫を取り入れてきた。
まず、私の席をまわりが見渡しやすい場所に配置していただいた(見取り図1参照)。
また、離れている人を呼ぶために呼び鈴を用意してくれたり、パトライトを付けてもらったりした。

 そして2回目の引っ越しの際に、新たな工夫や対処が必要になった。
これまでは一部屋にスタッフが全員いたので、出入りが視覚的にわかったのだが、今は部屋が分かれてしまったので、隣の事務職員の様子が分かりにくくなってしまった。また来客があったり、別館にいる研究員や上司が隣の事務室に出入りする際に気がつかないことも増えた。聴者の同僚が共同研究室に在室している時は伝えてもらっていたが、私が1人だけの時はそれができず、コピーなどで事務室に行った際に上司がいておどろくこともあった。

 解決策として共同研究室のドアを開けっぱなしにし、共同研究室の入り口から入ってきてもらうようにした(見取り図2参照)。
そうすると、宅急便をはじめ様々な業者、来客も共同研究室から入ってくるようになり、様子が見えるようになった。また、挨拶を交わす機会も増えた。
私もセンターに到着したら、事務室に顔を出し、挨拶をするようにしている。事務職員も、昼休憩や用事でセンターを不在にする際、共同研究室を通って出てくれるようになった。
しかし私がパソコン作業に夢中だったり、ドアとは逆の方向を見ていたりして、それに気付かないこともある。そうすると、わざわざ私の机まで来てくれることになり、なんだか申し訳ない。また、突然姿が視界に入ってきて驚いてしまう。

 そこで、ろう文化の一つである「照明をパチパチ点滅させる方法」を伝授した。最初は戸惑っていたようだが、最近はずいぶん慣れてきたなぁと思う。おそらく聴者にとっては考えられない行動なのだと思うが、ろう者のなかでは当たり前の事だということを、より一層理解していただけたと思う。最近の悩みは窓だ。ブラインドが付いているのだが、時間帯によってはどうしても隙間から光が差し込んできて眩しい。撮影にも影響が出るので、現在遮光カーテンを取り付けてもらうようお願いしている。

 これからも、ろう者と聴者が一緒に気持ちよく働ける職場となるよう、気になることが出てきたら一緒に話し合い、改善して行ければと思う。
あなたの職場で工夫していることがあれば、是非教えていただきたい。