2022.10.03.
サインネームのあれこれ

サインネームのあれこれ
矢野 羽衣子 手話言語研究センター客員研究員 

 ろうコミュニティでのあるある、「サインネーム」についてご紹介します。

 「サインネーム」の手話表現は「/手話/名前/なに/」になりますが、音声言語でいうところの「あだ名」に当てはまるそうです。サインネームの前に自分の名前を紹介してから、手話表現はこれです、と表すことが多いです。音声言語のあだ名と同じく、ろう者全員がサインネームを持っているわけではありません。

 いきなりですが、私のサインネームは、後頭部を掻く表現を使います。小さい時に頭を掻く癖があったため、その仕草がそのままサインネームになり、大人になっても使い続けています。自己紹介でサインネームを表すと、ほとんどの人にびっくりされるか、「なぜ?」とサインネームの由来を聞かれることが多いです。「『頭を掻く』だと清潔感がなく、違和感が多いから他の表現に変えるのはどうですか?」とアドバイスをいただくこともあります。でも、私はこのサインネームが自分にはピッタリで、むしろ変えられると違和感を感じてしまいます。

 このように「サインネーム」はその人の特徴や癖を見て決めることも多いです。客観的に見て失礼になる特徴や「悪い癖」であっても、本人が不満でなければサインネームとして使うこともできます。「悪い癖」、私の例も当てはまるでしょうか?感じる人はそれぞれです。他には、例えば川遊びで誤って崖から落ちて服が濡れてしまった人は「崖から落ちた」というサインネームになってしまったりします。たった一度の失敗でも、周囲の方々の記憶に大きなインパクトの残るできごとであれば、悲しいですがそっくりそのまま、それがサインネームになってしまう人もいるのです。逆に、本人の特徴や癖がなければ、同じ名前の方のサインネームをコピーして使う方もいらっしゃいます。
親のサインネームがそのまま子に引き継がれて使われることもあります。さらに細かく言えば、サインネームの表現が同じでも、親から子に引き継がれたあとに由来が変化するという例も見られます。例えば、勤勉で記憶力が良かったことから、親のサインネームが「(両手で)/覚える/」で、お子さんにも同じサインネームが引き継がれていましたが、実はお子さんは勉強嫌いだった、というケースです。それでも、このお子さんはスポーツが大好きで、今までの試合結果を事細かに記憶することに長けていたので、周りの人は「確かに記憶力良いもんね」とサインネームの由来を実際のお子さんの様子からうまく判断していたようです。

 サインネームがいつ付けられるかは人それぞれで、サインネームがあっても使いたくない方もいれば、途中で変わる方もいらっしゃいます。生まれた時にすぐサインネームを付ける家族もいますが、それもしっかり考えないといけないなと思うこともあります。本人に隠れてサインネームがつけられる場合もあります。もしかしたら私のサインネームがないなと思う人はこっそり付けらてるかもしれませんよ。周りに確認してみてくださいね。改めて、みなさんは、ご自分のサインネームをお持ちでしょうか?