日本手話クラスが開設された経緯

[ 編集者:手話言語研究センター      2016年7月29日 更新 ]

日本手話クラスが開設された経緯 
松岡 克尚 人間福祉学部教授

 関西学院大学人間福祉学部(以下、本学部)は、2008年4月に社会学部社会福祉学科を母体にして、さらにはそれと、スポーツ健康科学、産業研究といった学内シーズを融合する形で発足しました。社会福祉学科、社会起業学科及び人間科学科によって構成されています。本学では9番目にできた学部で、もうすぐ創設10周年を迎えます。
 本学部創設以来、言語科目として「日本手話Ⅰ~Ⅳ」が開講されています。本学部では、英語を必須科目(第一言語科目)にしておりますが、さらには複数の言語を選択必須科目(第二言語科目群)として位置づけています。英語、中国語、朝鮮語、独語、仏語、西語に加えて日本手話がその選択肢の中に用意されており、本学部の入学生はこれらの中から一つを選択することになります。音声言語の中に手話言語が同列で位置づけられているところが、本学部の言語教育の特色になっています。本学部には毎年300名の新入生を迎えますが、そのうちの約90名が日本手話クラスに配属されます。配属は原則、本人の希望によりますが、希望者が多い年度は抽選になり希望者全員が履修できない年もあって、申し訳なく思っています。
 本学部のディプロマ・ポリシーにも触れられていますが、「人間と社会とその交互作用に関する基本的知識」を取得することが本学部のミッションの1つです。この文章に登場する「人間、社会」とは、共に決して単一属性でもって語ることが出来るようなものではありません。それぞれともに実に多様な存在であることを考えれば、自ずと多様性尊重を涵養することが本学部のミッション達成には欠かせなくなります。この基本的な考え方は、本学部のキー・コンセプト(3つのC)の1つである「包括性(Comprehensiveness)という言葉(アドミッション・ポリシーで言及されています)や、学部カリキュラム・ポリシーにある「多様な文化に関心を持ち、それを理解する態度を身につけている」にも反映されているものです。
 ご存じのように言語を学ぶということは、単にコミュニケーション手段としての当該言語を習得していくことのみではなく、その言語の背景にある文化、習慣、あるいは社会、歴史などをも学んでいくことにつながっていきます。最終的には、本学部の入学生は合わせて2つの言語を選択し、それらの言語を軸に当該文化を学ぶことになります。英語がグローバル・スタンダードになっている状況を受け止めつつも、言語とそれを軸にした生活、文化面での多様性についても留意し、その観点からなるべく多くの言語=文化が選択できるように配慮することとし、それが第二言語の選択肢をなるべく広くしようという発想につながっていきます(第二言語に英語を選択することも可能ですので、その場合には「英語漬け」になることもできます)。
 そのように考えると、次のような認識は多様性理解を図る上で重要になってきます。すなわち、日本社会においても音声言語の日本語とは異なる言語(日本手話)があること、私たち日本人の足下であるこの日本社会であっても決して単一の生活習慣、文化、世界認識で染まっているようなものではなく、むしろそこには豊かな多様性が認められるという事実です。そのことを、受験生、本学部の学生達に気付いてもらうことも意図して、本学部ではその創設時に日本手話を言語科目の選択肢に含めた次第です。そのことは、1995年のユネスコのサラマンカ宣言や2006年の障害者権利条約の手話言語の位置づけ方からも影響を受けたことは間違いありません。そうした国際的な流れにいち早く応えていこうという熱意が新学部創設時に見られたことは、今から考えても大きかったと思っています。
 以上が、理念的な面から見た本学部における日本手話クラス開講の動機ということになりますが、それに加えて手話教育に関してこれまでの「実績」が本学にあったことも、この新しい学部に日本手話を導入することの後押しになりました。そのことは次回に触れることとします。
 なお、このコラムの内容は、コラム担当者の個人的な視点でまとめたものであって、本学部としての見解を示したものではありません。

(投稿日:2016年7月29日)