日本の言語教育政策と日本手話:「国語 vs. 外国語」から脱却できるか?

[ 編集者:手話言語研究センター      2016年7月29日 更新 ]

日本の言語教育政策と日本手話:「国語 vs. 外国語」から脱却できるか?
オストハイダ テーヤ 法学部教授

 琉球諸語、アイヌ語、韓国・朝鮮語、日本手話、日本語 …、日本は豊かな多言語社会です。このような「日本諸語」はもとより、近年日本に移住してきた外国籍住民(いわゆる「ニューカマー」)の言語も日本の多言語社会を構成しています。それに対して、単に「国語」対「英語」のように図式化されている日本の言語教育は決して豊かなものではありません。この教育が養う言語観も極めて単純です。まず、「日本人=日本語人」と思わせながら日本語以外の言語を「外国語」とし、そして英語を全ての人間が話せるべきである「世界標準語」とするだけです。
 日本の子どもの大多数にとって、小、中、高等学校の学習課程で出会う言語は国語と英語のみです。それ以外の言語を開講する学校もありますが、教育目標および内容に関して、学習指導要領は単に「英語に準じて行うものとする」と述べています(※)。時流に乗って、第二言語教育を「複言語」教育として語るなら、まずはこのような言語観を問い直す必要があります。つまり、第二言語教育の課題は、日本の子どもに英語以外にもドイツ語やフランス語などを学ばせることではありません。むしろ、日本の諸言語のうち義務教育で考慮されている言語は国語だけであることを鵜呑みにしないこと、そして外国語 =「国外語」(日本国内で使用されていない言語)という前提から脱却することが日本の言語教育政策の急務です。
 学校教育の一環として日本の少数言語や移民言語について知ることは決して「時間の無駄」ではありません。それは、国内の多言語状況の認識と尊重および少数言語の継承と維持につながる役割だけではなく、将来に実際に「使える」知識でもあります。例えば、教育、医療、行政、サービス業など、日本社会の各領域において、中国語、韓国語、フィリピノ語、ポルトガル語などのような移民言語はもとより、日本の少数言語のなかで話者数が最も多い言語である日本手話も、実際に応用できる場面が多く、それらの言語における運用能力は就職の際にも評価されるに違いありません。
 以上の事情を考えれば、関西学院大学人間福祉学部が日本手話を選択必須科目として提供していることは大変有意義な取り組みであると分かります。日本手話の学習を通して、日本の少数言語とその話者に対する知識・関心を高めることは、かつての国語政策によって抑圧されてきた少数言語の復興と維持のみならず、身近に存在する文化的多様性への認識にもつながります。余談になりますが、日本手話を導入した結果、人間福祉学部の学生と教職員が言語科目の名称に戸惑っているようです。現在まで、日本の大学において「第一」「第二外国語」という概念しか存在していなかったためか、当学部は、必須の英語を「第一言語科目」、そして選択必須の言語科目(従来の「第二外国語」科目)を「第二言語科目」と呼ぶことにしました。普段は母語のことを「第一言語」、そしてそれ以外に習得する全ての言語を「第二言語」と呼ぶことが一般的ですので、もう少し適切な名称が見つかるまで戸惑いが続くでしょうが、この問題自体も国内の多言語事情に対する従来の日本における教育政策の無関心を示唆しています。日本の学校で国内の少数言語を「国語」の次に学べる日が来るのでしょうか。

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※ 文部科学省(2009)『高等学校学習指導要領』p.90を参照。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/kou/kou.pdf

(投稿日:2016年7月29日)