スタッフ紹介

[ 編集者:手話言語研究センター      2024年4月1日 更新 ]

センター長 松岡克尚 人間福祉学部教授

幼児より難聴があり、現在も補聴器を使用しています。小学生の時にはじめて手話で会話している様子を見て「これはいったい何だ?」と魂消た記憶がありますが、ずっと普通校でしたので手話に接する機会は結局なく、そのまま成人してしまいました。将来は障害者福祉の勉強をしたいと思い、そのコースがある関学に進学しましたが、フロイトの精神分析の洗礼を浴びて、精神障害者のソーシャルワーク支援を専門にするようになりました。その後、障害学を学び、精神障害だけではなく障害全般についてのソーシャルワークを研究するようになり、必然的に聴覚障害との関連で手話との関わりが生まれてきました。それでもそれはあくまで研究や大学教育の範疇の話であって、手話を使えない自分がよもや手話言語研究センターの一員になるとは露ほどにも思わなかったです。でも、なった以上はこれも何かのご縁と思い、本学の片隅に灯ったこの明かりがさらに輝きを増し、あるいは光を保ち続ける上で、ささやかなお手伝いができればと思っています。よろしくお願いします。
【プロフィール】 関西学院大学大学院社会学研究科博士課程後期課程社会福祉学専攻修了、1996年より四国学院大学社会学部社会福祉学科専任講師、助教授を経て、2004年関西学院大学社会学部社会福祉学科助教授、2008年関西学院大学人間福祉学部准教授、2011年より同学部教授。2019年より手話言語研究センター長。
【研究テーマ】 「インペアメント文化とソーシャルワーク」「ソーシャルワークにおけるネットワークの意義」「ソーシャルワークと多職種連携・多機関連携」「手話教育と文化的コンピテンス」など。

関西学院大学「研究者データベース」

センター副長 今西祐介 総合政策学部教授

ヒトをヒトたらしめている特質の一つに言語があります。世界には約6000の言語があり、これらは表面的には非常に異なる側面を持ちます。しかし、抽象的なレベルで考察してみると普遍的な規則・原理に基づいて成り立っていることが分かります。私は生成文法という言語理論に基づき、様々な言語を分析することにより、人間言語の普遍的側面を解明しようと努めています。更に、消滅危機言語のフィールドワーク研究にも取り組んでいます。多くの言語学者の試算では、今世紀の終わりまでに少なくとも半分の言語が消滅してしまうと言われています。私はこれまでに主に音声言語の研究をおこなってきました。特に、中米グアテマラにおいて現地調査をおこない、消滅危機言語であるカクチケル語を中心にマヤ語族の研究に従事してきました。最近では、奄美群島・喜界島で話されている喜界語の研究・調査も開始しました。ユネスコは2009年に、日本においても消滅危機言語が8つ存在し、喜界語はその一つであると報告しています。ユネスコの報告には含まれていませんが、日本手話も消滅危機言語であると指摘する研究もあります。これまでに私は、音声言語の研究で得られた知見を基に、日本手話の統語的研究(特に、文末指さしに関する研究)をおこなってきました。今後も、言語の普遍性と多様性を理論的にどのように説明できるのかという問題意識を持ちながら、音声言語と手話言語の比較研究を進めていく予定です。
【プロフィール】 2014年マサチューセッツ工科大学(MIT)言語・哲学科博士課程修了(Ph.D. in Linguistics)。関西学院大学総合政策学部助教、専任講師を経て、2019年より同学部准教授、2022年より同学部教授。2016年~2022年度、当センター研究員。2023年度より現職。2019年より大阪大学非常勤講師。
【研究テーマ】 「自然言語の格および一致に関する研究」「自然言語の能格性に関する研究」「日本手話の文末指さしに関する統語的研究」など。

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下谷奈津子 主任研究員 特別任期制助教

19歳のとき、偶然手話サークルの案内を見て入会したのが手話との出会いでした。当時はまだ「手話は言語である」という認識が社会に浸透しておらず、ろう者=障害者という見方が一般的であった時代。私もその一人でした。ですが、いざろう者と交流してみると、私たち聴者と何ら変わりないのです。当事者と直に接することがいかに大切であるか、ということに気づかされました。その後「日本手話は日本語とは異なる言語である」という事実を知り、衝撃を受けたことは今でも忘れられません。ピアニストになる夢もどこへやら、ますます手話について知りたくなり、気づけば手話の世界にどっぷり浸かっていました。
あれから25年経ち、手話やろう者についての正しい理解を社会に広める立場、そして手話言語学の研究をする立場になりましたが、ろう者のこと、手話のことが完全に理解される社会になった、とはまだ言えません。手話言語研究センターの事業や研究を通して「なぜ手話が言語であると言えるのか」を広く、そして深く伝えていければと思っています。
最後に「手話やろう者のことは、ろう者に聞け」-私がいつも大切にしている言葉です。ろう者の声を大事にしながら、様々な情報を発信していければと思っています。
【プロフィール】Gardner-Webb大学アメリカ手話学科学士課程修了、香港中文大学大学院言語学科修士課程修了。2016年度~2018年度、当センター専門技術員。2019年度より研究特別任期制助教、2023年度より現職。また、手話通訳士として国内外で活動している。
【研究テーマ】「成人聴者の日本手話習得プロセス」「日本手話におけるプロソディ(韻律)」など。

関西学院大学「研究者データベース」

           

前川和美 主任研究員 特別任期制助教

ろうの両親の元に生まれました。生まれつきろうであったかは今でも不明ですが、当時世間では「聴こえないってかわいそう」など、「ろう者=障害者」という見方が主流でした。そのためか、自身も聴こえないことを否定的に捉えていたのですが、20歳の頃、木村晴美氏・市田泰弘氏による「ろう文化宣言」が発表されたのをきっかけに考えが一転。「ろう者」としてのアイデンティティーに目覚め、あるがままの自分を受け入れられるようになりました。その後、ろう児に日本手話で学べる環境を作りたい!と、フリースクールを立ち上げました。ろう児のためのスクールだったのですが、その中で聴こえる親御さんから手話指導の依頼が来るようになりました。確かにいくらろう児が日本手話を獲得できたとしても、家庭内で手話が使えなければ意味がありません。ですが、当時は手話指導について全く知識を持ち合わせていませんでした。そこで、NPO法人手話教師センター主催の手話教授法講座を受けることにしました。そのような時、タイミング良く関西学院大学人間福祉学部で日本手話が開講され、非常勤講師として手話指導に携われることになりました。指導を通して言語学の知識の必要性を感じ、その後大学・大学院と進むことにしました。そこで目にしたことは、手話通訳などの情報保障の不十分さや、手話やろう者に対する理解の足りなさでした。そんなころ、本学の手話言語研究センターの募集を見て、これも何かの縁だと思い、迷わず応募しました。
今後、自然言語である「日本手話」の研究・継承や、ろう者・聴覚障害者への正しい理解を広めるため、様々なことを発信していければと思っています。
【プロフィール】兵庫教育大学大学院学校教育研究科修士課程修了(特別支援教育)。2019年度より研究特別任期制助教、2023年度より現職。また、NPO法人手話教師センター理事として活動している。
【研究テーマ】「ろう児をもつ親への手話指導に関する研究」「大学における日本手話クラスの現状と課題」「難聴児の手話学習」「日本手話のモダリティ表現に見られる証拠性」「空間と意味 日本手話の顕在的代名詞の予備的研究」など。

関西学院大学「研究者データベース」

森本郁代 研究員 法学部教授

私は、人と人との相互行為がどのようにして成立するのかを、会話分析という方法論を使って研究しています。音声言語では、音の強弱、ピッチ、イントネーションなどの音声特徴が、相互行為の資源として利用されますが、手話言語ではどのような資源が利用されるのかに関心があります。また、これまで音声言語による相互行為の研究によって明らかになってきた、会話中の順番交替や、理解や聞き取りの問題に対する対処、発話と発話の連なりの組織化が、手話言語ではどのように実現されているのかを明らかにしていきたいと考えています。
相互行為は、言語だけでなく、参与者の身体やジェスチャー、その場の物理的環境など、「今、ここ」で利用可能な多様な資源を用いることで行われています。会話分析は、そうした資源を人々がどのように使って相互行為を行っているのかを明らかにできる強力な方法論です。手話による豊かな相互行為のありように、少しでも迫っていけたらと思っています。
【プロフィール】 大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程修了(博士(言語文化学))。独立行政法人情報通信研究機構専攻研究員を経て、2006年関西学院大学法学部専任講師、2007年同学部准教授、2011年同学部教授。2016年より2023年3月まで手話言語研究センター副長。
【研究テーマ】「ろう者、聴者、手話通訳者による相互行為」「手話の相互行為における順番交替」など。
 

関西学院大学「研究者データベース」

山田一美 研究員 工学部教授

専門は応用言語学(第二言語習得、第三言語習得)です。第二言語(L2)学習者、第三言語(L3)学習者の目標言語の知識や習得過程を研究しています。外国語習得を説明する際には、普遍性と多様性という2つの側面から考えてくことが求められます。言語習得に共通したシステム(普遍性)が存在する一方で、母語、L2、習得環境などの個人差(多様性)も影響しているからです。わたしは主に言語学の観点から、何が原因で学習者は文法的な、あるいは言語使用の誤りをしてしまうのか、また、習熟度が進んでいくにつれて、L2/L3がどのように習得されていくのか、学習者からデータを収集し検証しています(実証研究)。 言語習得のメカニズムを解明するためには、音声言語だけではなく、手話言語の検証も必要です。これまで私は、空主語や空目的語などの文中で音形を持たない要素を、学習者がどのように解釈しているのか、なぜそのような解釈なのか、言語理論や外国語習得理論に照らし合わせて説明を試みてきました。この文中で音形を持たない要素が、手話言語では一体どのように解釈され、言語学的にどのようにとらえられるのか、言語習得の理論との整合性などを考えながら、音声言語における音形を持たない要素との比較研究を進めていけたらと思います。


【プロフィール】英国エセックス大学大学院言語・言語学科博士課程修了(Ph.D. in Linguistics)。2010年関西学院大学理工学部専任講師、2013年准教授、2019年同学部教授、2021年より工学部教授。2023年より本センター研究員。2023年9月より1年間、英国サウサンプトン大学応用言語学科に留学予定。
【研究テーマ】「英語/スペイン語を母語とする日本語学習者の項削除の習得」「日本語母語話者の中国語の空要素の習得」「日本語を母語とする子どもの英語冠詞の習得」など。

関西学院大学「研究者データベース」

平英司 客員研究員  国立民族学博物館 人類基礎理論研究部プロジェクト研究員

客員研究員の平英司と申します。僕が手話に出会ったのは、大学1年の時です。それから、たくさんのろうの方に出会い、いろいろなことを学ばせていただいています。手話に出会った当時、学生だった僕は、ろう者や手話について知ることで、この社会について、人について、言葉についてなど、いろいろなことを考えることができました。
もちろん、今でも多くのことを学ばせてもらっています。ろう者の世界を知ることで、世界が広がり、人生が広がったと実感しています。そういうわけで、ろう者と聴者が共存する場、手話言語や音声言語が共存する場でどんなことが起きるのかに興味を持ち、研究のテーマにしています。
【プロフィール】国立障害リハビリテーションセンター学院手話通訳学科卒。関西学院大学言語コミュニケーション文化研究科修士課程修了(言語教育学)。同校博士課程満期退学。2018年度~2022年度、当センター専門技術員、2024年度より現職。関西学院大学人間福祉学部非常勤講師(担当科目名「日本手話」)。教育、研究活動のほか手話通訳士、(公社)兵庫県聴覚障害者協会認定通訳者等、手話通訳者としても活動している。元、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構、障害者職業カウンセラー。
【研究テーマ】「日本手話と日本語のバイリンガル、バイモーダル」「手話通訳に関する課題分析」など。

研究業績

中島武史 客員研究員 兵庫教育大学 特別支援教育専攻 准教授

客員研究員の中島武史です。私は聞こえない父と聞こえる母のもとに生まれたコーダです。聞こえる弟もいます。ろう者の親戚が何人かいます。コーダのいとこもいますが、当時はこの用語を知りませんでした。地域のろう者コミュニティにも親に連れられて参加していました。日本語を第一言語として生活していますが、手話は自分の周りに常にあり自分も長く使用している言語です。大学卒業後は、ろう学校で勤務しながら研究を続けています。私の関心は、社会のなかでの手話言語と音声言語のパワーバランスや、ろう教育、コーダの言語使用と言語意識、ろう者と他のマイノリティとの異同など、大きく言って社会言語学的なテーマにあります。手話言語研究センターでは、そのうちコーダに関する研究に取り組んできました。生活の中で視覚言語である手話と音声言語である日本語のどちらも使用することが多いコーダのような存在はユニークで、一口に日本と言っても多様な人たちが共に暮らしていることがわかります。本センターのように、視覚を媒介する言語である手話言語を研究する場が日本の高等教育のなかにあり続けることは、日本社会の多言語性や多様性を確認し、そこにある世界を広く周知するためにも重要だと思っています。ぜひ、手話言語研究センターのイベントにおこしください。きっと今までにはない刺激をえられるはずです。
【プロフィール】 関⻄学院⼤学大学院⾔語コミュニケーション⽂化研究科博士前期課程修了(修士/⾔語科学)。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程修了(博士/言語文化学)。兵庫教育大学 特別支援教育専攻 准教授。
【研究テーマ】「コーダの言語使用・言語意識と心理」「ろう児のリテラシー」「ろう教育の社会言語学」など。

矢野羽衣子 客員研究員

私は愛媛県の、瀬戸内海に位置する大島という島の出身です。祖父母、両親を含む家族全員がろう者の中で育ちました。地元では聴者の島民も手話を使って生活しているという環境がありました。5歳までは聴者ろう者関係なく、みんなが手話を使うと思っていて「手話はろう者の言語」ということも知りませんでした。5歳でろう学校に入学して初めて「聴者は手話がわからないんだ」ということに気付いた、という経緯があります。  手話言語研究に興味を持ち始めたのは、大島の宮窪町では聴者ろう者関係なく使う「共有手話」がきっかけで、以前より不思議に思っていたことがありました。例えば日本手話とはちがうことに興味を持ったのと、珍しい手話があるんじゃないか、と思ったことです。先頃やっと研究発表ができ、とても嬉しく思っています。それだけでなく、私の祖父母は無就学、さらに沖縄や鹿児島などにも無就学のろう者の方々がいらっしゃいます。もしかして、その方々も(宮窪で暮らした私の祖父母のように)、聴者と一緒に、聴者も手話を使って生活していた様子があるのではないか、と興味を持ち研究を始めました。
【プロフィール】国立大学法人筑波技術大学大学院技術科学研究科情報アクセシビリティ専攻修士課程修了。総合研究大学院大学博士課程在籍中。
【研究テーマ】「消滅危機言語の記録として不就学ろう者や離島で生活するろう者の手話表現コーパスの構築」など。