2021.04.22.
(金村進吾助教らによる研究)細胞のタンパク質品質管理機構に関する新たな知見

【概要】
 細胞内の小胞体には、新しく作られたタンパク質に、構造を安定化するためにジスルフィド結合を導入する仕組みがあります。これを担っているのがPDIファミリー酵素です。PDIファミリー酵素の一つであるP5は、癌などの疾患や小胞体ストレス応答、血液凝固といった様々な生理機能と関わることが報告されていましたが、全体構造が不明なため、詳しいメカニズムは十分に理解されていませんでした。
 東北大学 学際科学フロンティア研究所の奥村正樹助教、 金村進吾研究員(現 関西学院大学 理学部 助教) 、松﨑元紀研究員(現 徳島大学 先端酵素学研究所 助教)、東北大学 多元物質科学研究所の稲葉謙次教授(生命科学研究科、大学院理学研究科化学専攻 兼任)、徳島大学 先端酵素学研究所の齋尾智英教授、韓国基礎科学支援研究院の李映昊教授、自然科学研究機構 分子科学研究所の秋山修志教授らの研究グループは、X線結晶構造解析およびX線小角散乱(SAXS)を組み合わせることによりP5がユニークな構造モチーフを介して二量体構造をとることを発見しました(参考図)。
構造情報から二量体を形成できない変異型P5を作製したところ、P5自体の立体構造が不安定化し小胞体ストレスセンサーの制御能が低下しました。加えて、カルシウムによるP5のタンパク質凝集抑制機能(分子シャペロン活性)の制御が低下することも明らかとなりました。これらの結果から、P5が十分に機能を発揮するには二量体構造が重要であることが解明され、本成果は医学的にも重要な知見をもたらします。
 本研究成果は、2021年4月14日16時(米国時間)に 「Structure」誌のオンライン速報版 で公開されました。

<論文情報>
タイトル:A unique leucine-valine adhesive motif supports structure and function of protein disulfide isomerase P5 via dimerization
(プロテインジスルフィドイソメラーゼP5が持つユニークなロイシン-バリン接着モチーフは、二量体化を介してP5の構造と機能を支えている)
著者名:Masaki Okumura, Shingo Kanemura, Motonori Matsusaki, Misaki Kinoshita, Tomohide Saio, Dai Ito, Chihiro Hirayama, Hiroyuki Kumeta, Mai Watabe, Yuta Amagai, Young-Ho Lee, Shuji Akiyama, and Kenji Inaba
掲載誌:Structure, USA
DOI:10.1016/j.str.2021.03.016
https://www.cell.com/structure/fulltext/S0969-2126(21)00114-3

<参考図>


図1 P5二量体の全長構造と新規の接着モチーフ
(上図)三つのチオレドキシン様ドメイン(a0、a、b)から構成されるP5は、a0ドメイン中に存在する接着モチーフを介して二量体構造をとることがわかった。また、これら三つのドメインが可動性に富んだリンカーにより連結され、様々な配置をとることがわかった。
(下図)a0ドメイン中の接着モチーフは、五つのロイシンおよびバリン残基から構成され、これらの残基は脊椎動物を通じて非常に広く保存されていた。また、その近傍でもイオン結合などの相互作用により、二量体構造が安定化していることが示された。この接着モチーフの相互作用様式は、これまで見つかっているロイシンジッパーなどの二量体化モチーフとは大きく異なっていた。

<リンク>
関西学院大学

関西学院大学研究活動情報

日本経済新聞