経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約の選択議定書(社会権規約選択議定書)(抄)

[ 編集者:人権教育研究室       2011年7月21日 更新 ]

採択 二〇〇八年一二月一〇日
   国際連合総会第六三回会期決議六三/一一七附属書
署名
効力発生
日本国

前文

この議定書の締約国は、
 国際連合憲章において宣明された原則によれば、人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等のかつ奪い得ない権利を認めることが世界における自由、正義及び平和の基礎をなすものであることを考慮し、
 世界人権宣言が、すべての人間は生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳及び権利において平等であること、並びに、すべての者は、人種、皮膚の色、性言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等によるいかなる差別もなしに、そこに規定するすべての権利及び自由を享受する資格を有すると宣明していることに留意し、
 世界人権宣言及び国際人権規約が、自由な人間は恐怖及び欠乏からの自由を享受するものであるとの理想は、すべての者が市民的、文化的、経済的、政治的及び社会的権利を享有することのできる条件が作り出される場合に初めて達成されるものであることを認めていることを想起し、
 すべての人権及び基本的自由が普遍的であり、不可分であり、相互に依存しており、かつ、相互に関連していることを再確認し、
 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下、規約という。)の各締約国が、立法措置その他のすべての適当な方法により規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成するため、自国における利用可能な手段を最大限に用いることにより、個々に又は国際的な援助及び協力、特に、経済上及び技術上の援助及び協力を通じて、行動をとることを約束していることを想起し、
 規約の目的及びその規定の実施をよりよく達成するためには、経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会(以下、委員会という。)が、この議定書に定める職務を遂行しうるようにすることが適当であると考え、
次の通り協定した。

第一条(通報を受理し検討する委員会の権限)

1 規約の締約国であって、この議定書の締約国となるものは、この議定書の規定が定める通報を受理し及び検討する委員会の権限を認める。
2 委員会は、規約の締約国であるがこの議定書の締約国ではないものにかかわる通報を受理してはならない。

第二条(通報)

通報は、締約国の管轄の下にある個人又は個人の集団であって、規約に定める経済的、社会的及び文化的権利の右の締約国による侵害の犠牲者であると主張する者により、又はその者のために提出することができる。通報が個人又は個人の集団のために提出されるものである場合には、通報はこれらの者の同意を得たものでなければならない。ただし、通報者がこのような同意なしに行動することを正当化しうる場合には、この限りではない。

第三条(受理可能性)

1 委員会は、利用しうるすべての国内的な救済措置が尽くされたことを確認しない限り、通報を検討しない。このような救済措置の実施が不当に遅延する場合は、この規則を適用しない。
2 委員会は、次の場合には通報は受理できないと宣言する。
(a)通報が、国内的救済措置が尽くされたのち一年以内に提出されたものでない場合。ただし、通報者がこの期限内に通報を提出することが不可能であったことを証明しうる場合には、この限りではない。
(b)通報の主題である事実が、当該の締約国にとってこの議定書が効力を発生する以前に生じたものである場合。ただし、これらの事実がこの日付以後も継続している場合には、この限りではない。
(c)同一の事案が委員会によってすでに検討されたか、又は他の国際的な調査又は解決の手続の下で検討されたか若しくは検討されている場合
(d)通報が、規約の規定と両立しないものである場合
(e)通報が、明確に根拠不十分であるか、十分に疎明されていないか又はもっぱらマスメディアの報道に基づくものである場合
(f)通報が、通報を行う権利の濫用である場合、又は、
(g)通報が匿名であるか又は書面によるものでない場合

第四条(明確な不利益を示さない通報)

委員会は必要な場合には、通報者が明確な不利益を被っていることを通報が示さない場合には、その検討を拒むことができる。ただし、通報が一般的重要性を有する重大な争点を提起すると委員会が考える場合には、この限りではない。

第五条(暫定措置)

1 通報の受理ののち本案の決定に至るいずれの時においても、委員会は当該締約国に対して、主張される違反の一又はそれ以上の犠牲者に対して生じるかもしれない回復不可能な損害を避けるために例外的な状況において必要とされることがある暫定措置をとることを緊急に検討するよう、要請することができる。
2 委員会が1にいう裁量を行使することは、通報の受理可能性又は本案に関する決定を意味するものではない。

第六条(通報の送付)

1 委員会は、通報が関係締約国に照会するまでもなく受理できないと判断する場合を除いて、この議定書に基づいて行われたいずれの通報についても、非公開で当該締約国の注意を喚起する。
2 注意を喚起された国は、六箇月以内に、当該の事案、及び当該国がとった救済措置がある場合には、当該救済措置についての書面による説明又は陳述を委員会に送付する。

第七条(友好的解決)

1 委員会は、規約に定める義務の尊重を基礎として事案を友好的に解決するため、当事者に対してあっせんを行う。
2 友好的解決に対する合意は、この議定書に基づく通報の検討を終了させる。

第八条(通報の検討)

1 委員会は、この議定書の第二条に基づいて受領した通報を、委員会に提出されたすべての文書に照らして検討する。ただし、この文書が当事者に送付されることを条件とする。
2 委員会は、この議定書に基づいて通報を検討する場合には、非公開の会合を開催する。
3 この議定書に基づいて通報を検討する場合には、委員会は適当な場合には、国際連合の機関、専門機関、基金、計画及び機構並びにその他の国の国際機関が発行する関連文書(地域的人権システムのものを含む。)並びに関係締約国の所見又は意見を参照することができる。
4 この議定書に基づいて通報を検討する場合には、委員会は締約国が規約の第二部に従ってとった措置の合理性を検討する。この場合委員会は、締約国が規約に定める権利の実施のために幅のある政策措置を取りうることに留意する。

第九条(委員会の見解のフォローアップ)

1 委員会は、通報を検討したのちに、勧告がある場合にはこれを添えて、通報に関する見解を関係当事者に送付する。
2 締約国は、勧告がある場合にはこれとともに、委員会の見解に妥当な考慮を払い、委員会に対して六箇月以内に書面による回答(委員会の見解及び勧告に照らしてとられた行動に関する情報を含む。)を行う。
3 委員会は締約国に、委員会の見解又は勧告に応じてとった措置がある場合には、これに関する追加の情報を提供するよう、要請することができる。委員会が適当と認める場合には、追加の情報は締約国が規約第一六条及び第一七条に基づいて提出する後の報告に含めることができる。

第一〇条(国家間の通報)

1 この議定書の締約国は、規約に基づく義務が他の締約国によって履行されていない旨を主張するいずれかの締約国からの通報を委員会が受理しかつ検討する権限を有することを認めることを、この条の規定に基づいていつでも宣言することができる。この条に基づく通報は、委員会の当該権限を自国について認める宣言を行った締約国による通報である場合に限り、受理しかつ検討することができる。委員会は、宣言を行っていない締約国についての通報を受理してはならない。この条の規定により受理される通報は、次の手続に従って取り扱う。
(a)この議定書の締約国は、他の締約国が規約に基づく義務を履行していないと認める場合には、書面による通知により、その事態につき当該他の締約国の注意を喚起することができる。締約国はまた、委員会に対して事態を通知することができる。通知を受領する国は、通知の受領の後三箇月以内に、当該事態について説明する文書その他の文書を、通知を送付した国に提供する。これらの文書は、当該事態について既にとられ、現在とっておりまたは将来とることができる国内的な手続および救済措置に、可能かつ適当な範囲において、言及しなければならない。
(b)最初の通知の受領の後六箇月以内に当該事案が関係締約国の双方の満足するように解決されない場合には、いずれの一方の締約国も、委員会及び他方の締約国に通告することにより当該事案を委員会に付託する権利を有する。
(c)委員会は、付託された事案について利用し得るすべての国内的な救済措置がとられかつ尽くされたことを確認した後に限り、付託された事案を取り扱う。ただし、救済措置の実施が不当に遅延する場合は、この限りではない。
(d)(c)の規定に従うことを条件として、委員会は、規約に定める義務の尊重を基礎として事案を友好的に解決するため、関係締約国に対してあっせんを行う。
(e)委員会は、この条の規定により通報を検討する場合には、非公開の会合を開催する。
(f)委員会は、(b)の規定に従って付託されたいずれの事案についても、(b)にいう関係締約国に対し、あらゆる関連情報を提供するよう要請することができる。
(g)(b)にいう関係締約国は、委員会において事案が検討されている間において代表を出席させる権利を有するものとし、また、口頭又は書面により意見を提出する権利を有する。
(h)委員会は、(b)の通告を受領した日の後できるだけ速やかに、以下のように報告を提出する。報告は、各事案ごとに、関係締約国に送付する。
 (ⅰ)(d)の規定により解決に到達した場合には、委員会は、事実及び到達した解決について簡潔に記述したものを報告する。
 (ⅱ)(d)の規定により解決に到達しない場合には、委員会はその報告において、関係締約国間における争点に関する関連事実について簡潔に記述するものとし、当該報告には関係締約国の口頭による意見の記録及び書面による意見を添付する。委員会はまた、関係締約国における争点に関連すると考える見解を、これらの締約国に対してだけ通報することができる。
2 1の規定に基づく宣言は、締約国が国際連合事務総長に寄託するものとし、同事務総長は、その写しを他の締約国に送付する。宣言は、同事務総長に対する通告によりいつでも撤回することができる。撤回は、この条の規定に従って既に送付された通報におけるいかなる事案の検討をも防げるものではない宣言を撤回した締約国による新たな通報は、同事務総長がその宣言の撤回を受領した後は、当該締約国が新たな宣言を行わない限り、受理しない。

第一一条(調査手続)

1 この議定書の締約国は、この条の規定に基づく委員会の権限を認めることを、いつでも宣言することができる。
2 委員会は、締約国が規定に定める経済的、社会的及び文化的権利の重大な又は系統的な侵害を行っていることを示す信頼できる情報を受領した場合には当該締約国に対し、当該情報の検討に協力し及びこのために当該情報についての見解を提出するよう要請する。
3 委員会は、当該締約国が提出することのあるすべての見解をその他の入手可能な信頼できる情報とともに考慮した上で、一人又は二人以上の委員を指名して調査を行わせ及び委員会に緊急に報告させることができる。正当と認められる根拠がありかつ関係締約国の同意がある場合には、調査には当該締約国の領域への訪問を含めることができる。
4 調査は非公開で行うものとし、手続のすべての段階において締約国の協力を求める。
5 委員会は、この調査の所見を検討した後に、見解及び勧告がある場合にはこれらを添えて関係締約国に対して所見を送付する。
6 関係締約国は、委員会が送付した所見、見解及び勧告を受領した後六箇月以内に、その意見を委員会に提出する。
7 2に従って行われる調査に関する手続が完了した後、委員会は、関係締約国との協議の後に手続の結果の要旨を第一五条に規定する年次報告に含めることを決定することができる。
8 1に従って宣言を行った締約国は、事務総長に対する通告によりこの宣言をいつでも撤回することができる。

第十二条(調査手続のフォローアップ)

1 委員会は、関係締約国に対して、規約第一六条及び第一七条に基づいて提出する報告に、この議定書の第一一条に基づいて行った調査に応じてとった措置の詳細を含めるよう、要請することができる。
2 委員会は必要な場合には、第一一条6にいう六箇月の期間の終了後に、関係締約国に対して調査に応じてとった措置について通報するように要請することができる。

第一三条(保護措置)

締約国は、自国の管轄の下にある個人がこの議定書に基づいて委員会に通報を行った結果として過酷な取り扱い又は脅迫を受けないよう確保するために、すべての適当な措置をとる。

第一四条(国際的な援助及び協力)

1 委員会は、適当と考える場合には、かつ、関係締約国の同意を得て、通報及び調査に関するその見解又は勧告であって技術的助言又は援助の必要性を示すものを、これらの見解又は勧告に対する当該締約国の所見又は提案がある場合にはこれらを添えて、国際連合の専門機関、基金及び計画並びにその他の権限ある機関に対して送付する。
2 委員会はまた、関係締約国の同意を得て、この議定書に基づいて検討した通報から生じる事項であって、締約国が規約に認める権利の実施において進歩を達成するのに貢献すると思われる国際的措置の妥当性について、これらの機関がその権限内において決定することに役立つものにつき、これらの機関の注意を喚起することができる。
3 規約に定める権利の実施を促進し、こうしてこの議定書との関連における経済的、社会的及び文化的権利の分野における国の能力の構築に貢献するために、締約国の同意を得てこれに専門家の援助及び技術援助を提供することを目的に、国際連合の財政規則に従って運用される信託基金を、総会の関連規則に従って設立する。
4 この条の規定は、規約に基づく義務を履行する締約国の義務を損なうものではない。

第一五条(年次報告)

(略)

第一六条(普及及び情報)

締約国は、規約及びこの議定書を広く普及させ、また、委員会の見解及び勧告に関する情報を、とりわけ当該締約国に関する事項について、容易に利用可能とすることを約束する。この際には、障害者に利用可能な形式によるものとする。

第一七条(署名、批准及び加入)

(略)

第一八条(効力発生)

(略)

第一九条(改正)

(略)

第二〇条(廃棄)

(略)

第二一条(事務総長による通報)

(略)

第二二条(公用語)

(略)

『ベーシック条約集2009』東信堂より転載