難民の地位に関する条約 (その二)

[ 編集者:人権教育研究室       2009年3月20日 更新 ]

第四章 福祉

第二十条 配給
難民は、供給が不足する物資の分配を規制する配給制度であつて住民全体に適用されるものが存在する場合には、当該配給制度の適用につき、国民に与えられる待遇と同一の待遇を与えられる。
第二十一条 住居
締約国は、住居に係る事項が法令の規制を受け又は公の機関の管理の下にある場合には、合法的にその領域内に滞在する難民に対し、住居に関し、できる限り有利な待遇を与えるものとし、いかなる場合にも、同一の事情の下で一般に外国人に対して与える待遇よりも不利でない待遇を与える。
第二十二条 公の教育
1 締約国は、難民に対し、初等教育に関し、自国民に与える待遇と同一の待遇を与える。
2 締約国は、難民に対し、初等教育以外の教育、特に、修学の機会、学業に関する証明書、資格証書及び学位であつて外国において与えられたものの承認、授業料その他の納付金の減免並びに奨学金の給付に関し、できる限り有利な待遇を与えるものとし、いかなる場合にも、同一の事情の下で一般に外国人に対して与える待遇よりも不利でない待遇を与える。

第二十三条 公的扶助
締約国は、合法的にその領域内に滞在する難民に対し、公的扶助及び公的援助に関し、自国民に与える待遇と同一の待遇を与える。
第二十四条 労働法制及び社会保障
1 締約国は、合法的にその領域内に滞在する難民に対し、次の事項に関し、自国民に与える待遇と同一の待遇を与える。
(a) 報酬(家族手当がその一部を成すときは、これを含む。)、労働時間、時間外労働、有給休暇、家内労働についての制限、雇用についての最低年齢、見習及び訓練、女子及び年少者の労働並びに団体交渉の利益の享受に係る事項であつて、法令の規律を受けるもの又は行政機関の管理の下にあるもの
(b) 社会保障(業務災害、職業病、母性、疾病、廃疾、老齢、死亡、失業、家族的責任その他国内法令により社会保障制度の対象とされている給付事由に関する法規)。ただし、次の措置をとることを妨げるものではない。
(i) 当該難民が取得した権利又は取得の過程にあった権利の維持に関し適当な措置をとること。
(ii) 当該難民が居住している当該締約国の国内法令において、公の資金から全額支給される給付の全部又は一部に関し及び通常の年金の受給のために必要な拠出についての条件を満たしていない者に支給される手当に関し、特別の措置を定めること。
2 業務災害又は職業病に起因する難民の死亡について補償を受ける権利は、この権利を取得する者が締約国の領域外に居住していることにより影響を受けない。
3 締約国は、取得された又は取得の過程にあつた社会保障についての権利の維持に関し他の締約国との間で既に締結した協定又は将来締結することのある協定の署名国の国民に適用される条件を難民が満たしている限り、当該協定による利益と同一の利益を当該難民に与える。
4 締約国は、取得された又は取得の過程にあつた社会保障についての権利の維持に関する協定であつて非締約国との間で現在効力を有し又は将来効力を有することのあるものによる利益と同一の利益をできる限り難民に与えることについて好意的考慮を払うものとする。

第五章 行政上の措置

第二十五条 行政上の援助
1 難民がその権利の行使につき通常外国の機関の援助を必要とする場合において当該外国の機関の援助を求めることができないときは、当該難民が居住している締約国は、自国の機関又は国際機関により同様の援助が当該難民に与えられるように取り計らう。
2 1にいう自国の機関又は国際機関は、難民に対し、外国人が通常本国の機関から又は本国の機関を通じて交付を受ける文書又は証明書と同様の文書又は証明書を交付するものとし、また、その監督の下にこれらの文書又は証明書が交付されるようにする。
3 2の規定により交付される文書又は証明書は、外国人が本国の機関から又は本国の機関を通じて交付を受ける公文書に代わるものとし、反証のない限り信用が与えられるものとする。
4 生活に困窮する者に対する例外的な取扱いがある場合には、これに従うことを条件として、この条に規定する事務については手数料を徴収することができるが、その手数料は、妥当な、かつ、同種の事務について国民から徴収する手数料に相応するものでなければならない。
5 この条の規定は、第二十七条及び第二十八条の規定の適用を妨げるものではない。
第二十六条 移動の自由
締約国は、合法的にその領域内にいる難民に対し、当該難民が同一の事情の下で一般に外国人に対して適用される規制に従うことを条件として、居住地を選択する権利及び当該締約国の領域内を自由に移動する権利を与える。
第二十七条 身分証明書
締約国は、その領域内にいる難民であつて有効な旅行証明書を所持していないものに対し、身分証明書を発給する。
第二十八条 旅行証明書
1 締約国は、合法的にその領域内に滞在する難民に対し、国の安全又は公の秩序のためのやむを得ない理由がある場合を除くほか、その領域外への旅行のための旅行証明書を発給するものとし、この旅行証明書に関しては、附属書の規定が適用される。締約国は、その領域内にいる他の難民に対してもこの旅行証明書を発給することができるものとし、特に、その領域内にいる難民であつて合法的に居住している国から旅行証明書の発給を受けることができないものに対して旅行証明書を発給することについて好意的考慮を払う。
2 従前の国際協定の締約国が当該国際協定の定めるところにより難民に対して発給した旅行証明書は、この条約の締約国により有効なものとして認められ、かつ、この条の規定により発給されたものとして取り扱われる。
第二十九条 公租公課
1 締約国は、難民に対し、同様の状態にある自国民に課している若しくは課することのある租税その他の公課(名称のいかんを問わない。)以外の公課を課してはならず、また、租税その他の公課(名称のいかんを問わない。)につき同様の状態にある自国民に課する額よりも高額のものを課してはならない。
2 1の規定は、行政機関が外国人に対して発給する文書(身分証明書を含む。)の発給についての手数料に関する法令を難民について適用することを妨げるものではない。

第三十条 資産の移転
1 締約国は、自国の法令に従い、難民がその領域内に持ち込んだ資産を定住のために入国を許可された他の国に移転することを許可する。
2 締約国は、難民が入国を許可された他の国において定住するために必要となる資産(所在地のいかんを問わない。)につき当該難民から当該資産の移転の許可の申請があつた場合には、この申請に対し好意的考慮を払う。
第三十一条 避難国に不法にいる難民
1 締約国は、その生命又は自由が第一条の意味において脅威にさらされていた領域から直接来た難民であつて許可なく当該締約国の領域に入国し又は許可なく当該締約国の領域内にいるものに対し、不法に入国し又は不法にいることを理由として刑罰を科してはならない。ただし、当該難民が遅滞なく当局に出頭し、かつ、不法に入国し又は不法にいることの相当な理由を示すことを条件とする。
2 締約国は、1の規定に該当する難民の移動に対し、必要な制限以外の制限を課してはならず、また、この制限は、当該難民の当該締約国における滞在が合法的なものとなるまでの間又は当該難民が他の国への入国許可を得るまでの間に限つて課することができる。締約国は、1の規定に該当する難民に対し、他の国への入国許可を得るために妥当と認められる期間の猶予及びこのために必要なすべての便宜を与える。
第三十二条 追放
1 締約国は、国の安全又は公の秩序を理由とする場合を除くほか、合法的にその領域内にいる難民を追放してはならない。
2 1の規定による難民の追放は、法律の定める手続に従って行われた決定によつてのみ行う。国の安全のためのやむを得ない理由がある場合を除くほか、1に規定する難民は、追放される理由がないことを明らかにする証拠の提出並びに権限のある機関又はその機関が特に指名する者に対する不服の申立て及びこのための代理人の出頭を認められる。
3 締約国は、1の規定により追放されることとなる難民に対し、他の国への入国許可を求めるのに妥当と認められる期間の猶予を与える。締約国は、この期間中必要と認める国内措置をとることができる。
第三十三条 追放及び送還の禁止
1 締約国は、難民を、いかなる方法によつても、人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見のためにその生命又は自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放し又は送還してはならない。
2 締約国にいる難民であつて、当該締約国の安全にとつて危険であると認めるに足りる相当な理由があるもの又は特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国の社会にとつて危険な存在となつたものは、1の規定による利益の享受を要求することができない。
第三十四条 帰化
締約国は、難民の当該締約国の社会への適応及び帰化をできる限り容易なものとする。締約国は、特に、帰化の手続が迅速に行われるようにするため並びにこの手続に係る手数料及び費用をできる限り軽減するため、あらゆる努力を払う。

第六章 実施規定及び経過規定

第三十五条 締約国の機関と国際連合との協力
1 締約国は、国際連合難民高等弁務官事務所又はこれを承継する国際連合の他の機関の任務の遂行に際し、これらの機関と協力することを約束するものとし、特に、これらの機関のこの条約の適用を監督する責務の遂行に際し、これらの機関に便宜を与える。
2 締約国は、国際連合難民高等弁務官事務所又はこれを承継する国際連合の他の機関が国際連合の権限のある機関に報告することのできるよう、要請に応じ、次の事項に関する情報及び統計を適当な様式で提供することを約束する。
(a) 難民の状態
(b) この条約の実施状況
(c) 難民に関する現行法令及び難民に関して将来施行される法令
第三十六条 国内法令に関する情報
締約国は、国際連合事務総長に対し、この条約の適用を確保するために制定する法令を送付する。
第三十七条 従前の条約との関係
この条約は、締約国の間において、千九百二十二年七月五日、千九百二十四年五月三十一日、千九百二十六年五月十二日、千九百二十八年六月三十日及び千九百三十五年七月三十日の取極、千九百三十三年十月二十八日及び千九百三十八年二月十日の条約、千九百三十九年九月十四日の議定書並びに千九百四十六年十月十五日の協定に代わるものとする。ただし、第二十八条2の規定の適用を妨げない。

第七章 最終条項

第三十八条 紛争の解決
この条約の解釈又は適用に関する締約国間の紛争であつて他の方法によつて解決することができないものは、いずれかの紛争当事国の要請により、国際司法裁判所に付託する。
第三十九条 署名、批准及び加入
1 この条約は、千九百五十一年七月二十八日にジュネーヴにおいて署名のために開放するものとし、その後国際連合事務総長に寄託する。この条約は、同日から同年八月三十一日までは国際連合の欧州事務所において、同年九月十七日から千九百五十二年十二月三十一日までは国際連合本部において、署名のために開放しておく。
2 この条約は、国際連合のすべての加盟国並びにこれらの加盟国以外の国であつて難民及び無国籍者の地位に関する全権委員会議に出席するよう招請されたもの並びに国際連合総会によりこの条約に署名するよう招請されるものによる署名のために開放しておく。この条約は、批准されなければならない。批准書は、国際連合事務総長に寄託する。
3 この条約は、千九百五十一年七月二十八日から2に規定する国による加入のために開放しておく。加入は、加入書を国際連合事務総長に寄託することによつて行う。
第四十条 適用地域条項
1 いずれの国も、署名、批准又は加入の際に、自国が国際関係について責任を有する領域の全部又は一部についてこの条約を適用することを宣言することができる。宣言は、その国についてこの条約の効力が生ずる時に効力を生ずる。
2 いずれの国も、署名、批准又は加入の後1の宣言を行う場合には、国際連合事務総長にその宣言を通告するものとし、当該宣言は、国際連合事務総長が当該宣言の通告を受領した日の後九十日目の日又はその国についてこの条約の効力が生ずる日のいずれか遅い日に効力を生ずる。
3 関係国は、署名、批准又は加入の際にこの条約を適用することをしなかつた領域についてこの条約を適用するため、憲法上必要があるときはこれらの領域の政府の同意を得ることを条件として必要な措置をとることの可能性について検討する。
第四一条 連邦条項
締約国が連邦制又は非単一制の国である場合には、次の規定を適用する。
(a) この条約の規定であつてその実施が連邦の立法機関の立法権の範囲内にあるものについては、連邦の政府の義務は、連邦制をとつていない締約国の義務と同一とする。
(b) この条約の規定であつてその実施が邦、州又は県の立法権の範囲内にあり、かつ、連邦の憲法制度上邦、州又は県が立法措置をとることを義務付けられていないものについては、連邦の政府は、邦、州又は県の適当な機関に対し、できる限り速やかに、好意的な意見を付してその規定を通報する。
(c) この条約の締約国である連邦制の国は、国際連合事務総長を通じて他の締約国から要請があったときは、この条約の規定の実施に関する連邦及びその構成単位の法令及び慣行についての説明を提示し、かつ、立法その他の措置によりこの条約の規定の実施が行われている程度を示す。

第四十二条 留保
1 いずれの国も、署名、批准又は加入の際に、第一条、第三条、第四条、第十六条1、第三十三条及び第三十六条から第四十六条までの規定を除くほか、この条約の規定について留保を付することができる。
2 1の規定に基づいて留保を付した国は、国際連合事務総長にあてた通告により、いつでも当該留保を撤回することができる。
第四十三条 効力発生
1 この条約は、六番目の批准書又は加入書が寄託された日の後九十日目の日に効力を生ずる。
2 この条約は、六番目の批准書又は加入書が寄託された後に批准し又は加入する国については、その批准書又は加入書が寄託された日の後九十日目の日に効力を生ずる。
第四十四条 廃棄
1 いずれの締約国も、国際連合事務総長にあてた通告により、いつでもこの条約を廃棄することができる。
2 廃棄は、国際連合事務総長が1の通告を受領した日の後一年で当該通告を行つた締約国について効力を生ずる。
3 第四十条の規定に基づいて宣言又は通告を行つた国は、その後いつでも、国際連合事務総長にあてた通告により、同条の規定に基づく宣言又は通告により指定した領域についてこの条約の適用を終止する旨の宣言を行うことができる。当該宣言は、国際連合事務総長がこれを受領した日の後一年で効力を生ずる。
第四十五条 改正
1 いずれの締約国も、国際連合事務総長にあてた通告により、いつでもこの条約の改正を要請することができる。
2 国際連合総会は、1の要請についてとるべき措置があるときは、その措置を勧告する。
第四六条 国際連合事務総長による通報
国際連合事務総長は、国際連合のすべての加盟国及びこれらの加盟国以外の国で第三十九条に規定するものに対し、次の事項を通報する。
(a) 第一条Bの規定による宣言及び通告
(b) 第三十九条の規定による署名、批准及び加入
(c) 第四十条の規定による宣言及び通告
(d) 第四十二条の規定による留保及びその撤回
(e) 第四十三条の規定に基づきこの条約の効力が生ずる日
(f) 第四十四条の規定による廃棄及び通告
(g) 前条の規定による改正の要請
以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受けてこの条約に署名した。

千九百五十一年七月二十八日にジュネーヴで、ひとしく正文である英語及びフランス語により本書一通を作成した。本書は、国際連合に寄託するものとし、その認証謄本は、国際連合のすべての加盟国及びこれらの加盟国以外の国で第三十九条に規定するものに送付する。

附属書(旅行証明書〔第二十八条関係〕)
(略)

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