新課題の把握と研究 [人権教育研究室]

[ 編集者:人権教育研究室       2019年6月5日 更新 ]

2019年度 指定研究テーマ

■<日本近代化と部落問題>を再考する-同和教育研究プロジェクト・ティームからの継承と展開

 この共同研究は,日本社会の近代化過程のなかに今日における部落問題の形成をたどろうと試みてきた同和教育研究プロジェクト・ティームの成果を,次の三つの観点から批判的に検討・評価するとともに、その一層の展開を目指そうとするものである。
 第一には,江戸末期から明治・大正にかけての近代社会への移行期・国民国家の形成期において,モダナイズされゆく社会・国家との相即的な関係のなかで,部落差別そのものがどのようにモダナイズされつつ生起されたのかを明らかにしていくことである。
 第二には,近代日本社会において展開された,被差別部落のみならず様々なマイノリティを対象とした社会的な諸事業(慈善事業,セツルメント,貧困者保護事業,同和対策事業等々)の意義と問題点を明らかにしていくことである。
 第三には,部落問題を把握・解決するために有用であるような民衆思想・社会思想における多様なパースペクティヴを探究していくことである。

■関西学院と人権教育-人権教育の連携の在り方をめぐって

 本指定研究のこれまでの流れを踏まえて,「国連人権教育の10年」から引き継がれる課題として「人権教育の定義を踏まえること」,「人権教育の柱を踏まえること」,「人権教育の目的を踏まえること」を念頭におきつつ,研究を継続していく。「国連人権教育の10年」の決議文では,人権教育とは「あらゆる発達段階の人々が、あらゆる社会階層の人々が,他の人々の尊厳について学び,その尊厳をあらゆる社会で確立するための方法と手段について学ぶ,生涯にわたる総合的な課題である」と定義している。この課題を,初等部から大学院まで幅広い教育を行っている関西学院で,いかに実践していくべきかについて,その見取り図を描いていくことが本研究の目的である。
 昨年度まで行われてきた研究会において,初等部,中学部,高等部,千里国際キャンパス,短大,大学それぞれの取り組みについて報告がなされたが,これを踏まえて,各段階における人権教育の相互関連性に配慮しつつ,将来的に一貫性をもったカリキュラムツリーを試作すべく,さらに議論を深めていくことが必要とされている。国際連合の総会で採択された「人権教育のための世界プログラム・第二期」で高等教育における人権教育が主題化されている実情をも踏まえ,初等部から大学までの連携の在り方について,高等教育の段階にいたるまで徐々に問題意識が深まるような教育実践のあり方について,さらに共通認識を深化させていきたい。

2019年度 公募研究テーマ

■自閉スペクトラム症の大学生へのメタ認知トレーニングの効果の検討

【ASD の学生への支援の必要性】
 自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:以下 ASD)の大学生には支援が必要である。その理由として, ASDの大学生はコミュニケーションの問題によって不適応を抱えやすく(近藤,2012),二次障害の併発や雇用率の低さに結びつきやすいこと(Spain & Blainey, 2015)が挙げられる。しかしながら,ASDの青年には特に,幼児期の療育や学齢期の特別支援教育のような発達支援を行う場が殆ど存在しない(日戸,2014)。ASD傾向の大学生の実態調査(前田・金山・佐藤,2017)では,ASD傾向の大学生の出現率が約10%であり,看過できない問題であることが示唆された。また,2016年から障害者差別解消法が施行され,大学では法的義務・努力義務として,障害者への差別的取扱いの禁止および合理的配慮の不提供の禁止が課された(日本学生支援機構,2015)。
 そのため,青年期のASD に有効な支援とその効果を検証した調査が必要であり,ASDの大学生への支援が果たす役割は大きな意義を持つ。

【コミュニケーションの問題を改善する変数としてのメタ認知の重要性】 
 ASD者のコミュニケーションの門題を改善するためには,メタ認知に焦点を当てることが重要である。この理由として前田・佐藤(2018)は,ASD者のコミュニケーション問題に有効性が示されてきたソーシャルスキルトレーニングの効果維持や般化の問題を指摘している。心理的治療場面では,メタ認知への介入が大きな意義を持つ。Verhoven et al. (2012)は,介入前にメタ認知が高いASD青年ほど,介入後の社会機能の改善度が高いことを示している。また,メタ認知が高いASD者ほど,他者の心的状態を推測する能力が高いこと(Lombardo et al., 2007)からも,ASD者のメタ認知向上が重要であることがうかがわれる。
 メタ認知を向上させる支援介入として,メタ認知トレーニング(Metacognitive Training: 以下 MCT)がある。MCTは統合失調症において有効性が示されている認知行動療法であるが(Moritz,2011),ASD 者への有効性は明らかにされていない。ASDと統合失調症は,神経解剖学的基盤が共有されることが指摘されており,統合失調症で有用とされるアプローチが,ASDにおいても有用である可能性が論じられている(村井ら,2012)。以上を踏まえて本研究では,ASDの診断を持つ大学生を対象に,彼らが抱えるコミュニケーションの問題を改善する方法として,介入可能な変数であるメタ認知に焦点を当てた支援介入を行う。