新課題の把握と研究 [人権教育研究室]
2024年度指定研究テーマ
■「関西学院と人権教育ーインクルーシブ・コミュニティ実現を目指した人権教育の連携の在り方をめぐって」
本指定研究のこれまでの流れを踏まえて、「国連人権教育の10年」から引き継がれる課題として「人権教育の
定義を踏まえること」、「人権教育の柱を踏まえること」、「人権教育の目的を踏まえること」を念頭に置き
つつ、研究を継続していく。「国連人権教育の10年」の決議文では、人権教育とは「あらゆる発達段階の人々
が、あらゆる社会階層の人々が、他の人々の尊厳について学び、その尊厳をあらゆる社会で確立するための方法
と手段について学ぶ、生涯にわたる総合的な課題である」と定義している。この課題を、幼稚園から大学院まで
幅広い教育を行っている関西学院で、いかに実践していくべきかについて、その見取り図を描いていくことが
本研究の目的である。
2024年度公募研究テーマ
■「大学においてLGBTQ+フレンドリーな居場所事業の実践方法に関する研究ーKGレインボーカフェを事例としてー」
関西学院は、ダイバーシティ(多様性)を力とする「垣根なき共同体」を目指しており、2010年9月に制定した
「インクルーシブ・コミュニティ宣言ーインクルーシブ・コミュニティ構築に向けて」(2014年3月改訂)の
基本方針の中では「性的指向や性自認の多様性(SOGIの多様性)の尊厳」が明記されている。しかしながら、
これまで関学で実施した調査からは、LGBTQ+当事者学生がキャンパス内で困難を経験していることが明らかに
されており、当事者にとって安全なキャンパスとなっていない現実がある。そのような状況に対して、関学では
ジェンダーやセクシュアリティに関する人権保障の一環として、関学レインボーウィークをはじめとした様々な
取り組みが行われてきた。取り組みの中には、関学レインボーウィークにおける交流会や授業期間中に定期的に
実施されるランチ会、KGレインボーカフェといった居場所ージェンダーやセクシュアリティについて安心して
話すことができる場ーに関する取り組みが行われている。認定NPO法人ReBitによる「LGBT子ども・若者調査
2022」からは、LGBTQ+の若者・ユースは自殺、精神疾患、孤立のハイリスク層である一方で、そのような
リスクに対する保護因子としては相談できる人や場の存在が明らかにされている。すなわち、居場所の取り組みは
ユース層でもある大学生が直面する課題に対する保護因子としての機能が期待できると言える。
居場所の重要性は社会全般でも認識されており、居場所事業の取り組みは関学以外の他大学でも行われている。
その一方で、居場所がどのように成り立っているのか、居場所における心理的安全性を保障するための仕組みや
持続可能な方法にするための運営方法は十分に明らかにされていない。例えば、心理的安全性に関しては居場所に
おけるルールを守らない人がいる場合の対応が生じることがある。また、持続可能性に関しては、居場所運営に
関わる学生が卒業等で活動から離れることで居場所の持続自体が難しくなる場合が生じることもある。このような
困難に対して、心理的安全性を十分に保障したうえで、持続可能な方法で居場所を運営するための方法を確立する
必要性がある。
そこで、本研究では、心理的安全性が十分に保障されたうえで、持続可能な方法でジェンダーやセクシュアリティ
について安心して話すことができる居場所を運営する方法を明らかにすることを目的とする。具体的には、居場所
における心理的安全性を保障する要因(阻害因子、促進因子)を特定し、居場所を運営するうえでの仕組みや学生
スタッフの役割を明確化し、その実装のためのマニュアルを開発する。その際には、若者・ユースがいかなる危害
も加えられず、権利を十分に保障するためにセーフガーディングの視点を十分に踏まえることとする。
■「インクルーシブ・コミュニティ構築の担い手に必要な要素とは何か
ーヒューマンライブラリーにおける「司書」の対話の分析を通してー」
本研究は、ヒューマンライブラリーの実践と、その運営に関わる司書たちの対話の分析を通して、「インクルーシブ
・コミュニティ構築の担い手に必要な要素は何か」を明らかにすることを目的とする。
「ヒューマンライブラリー」とは、図書館に見立てられた会場で行われる差別・偏見の低減を目的とした対話型イベント
である。障がいを持つ人、性的少数者、ホームレス、海外にルーツを持つ人など、さまざまな背景を持つ人々が
「本(語り手)」となり、「読者(聞き手)」と語り合う。自分と異なる立場、状況、価値観を持つ他者の語りを聞き、
語り合うことは相互理解を深める機会となり、多様性に開かれたインクルーシブな地域社会の実現につながることが
期待される。
ヒューマンライブラリーにおいて、「本」と「読者」の対話の場を「誰もが安心安全に参加できる場」として提供する
のが、「司書」と呼ばれる企画・運営者である。申請者らは、他団体によるヒューマンライブラリーへの「読者」や
「司書」としての参加を通じ、このイベントが本学の目指すインクルーシブ・コミュニティ構築に資する取り組みである
と考え、2022年から人権教室研究室・日本語教育センターの共同により、「関学ヒューマンライブラリー」を開催し、
2024年度には第3回の実施を予定している。本企画は、準備段階から開催当日まで学内外の多様な人々が集っている。
そのため、各人が他者を尊重しながら、会を作っていくという土壌が形成されていく。しかし、このような場は自然と
作られるわけではない。申請者らは、「司書」がインクルーシブ・コミュニティ構築において重要な役割を担っていると
考え、研究対象とした。
2023年度に助成を受けた研究においては、「司書」がどのような経験を経て何を学んでいるのかを、「司書」自身の
協働的な振り返りをもとに明らかにすることを目的としていた。これまでに対話データの収集・整理と、「司書の役割」
についての論考の執筆を行い、3月に実践と研究の成果報告会を開く予定である。2024年度は、整理済みのデータに加えて
新しいデータを収集し、本研究をさらに発展させたいと考えている。
具体的には、以下の2つのデータについて、経験学習モデルを援用し質的な分析を行う。
①ヒューマンライブラリーのワーキンググループ会議の振り返り、「関学ヒューマンライブラリー2023」後の振り返り、
「ヒューマンライブラリNagasaki」後の振り返りの文字化資料
②他団体の「司書」経験者に対するインタビューの文字化資料
以上のデータを読み解くことにより、実践を通じて語られた具体的な事例から、「司書」の在り方・思考・態度・マインド
セットが明らかになり、抽象度の高い概念=「インクルーシブ・コミュニティ構築の担い手に必要な要素」を示すことが
できると考える。
本研究を通じ、関西学院のインクルーシブ・コミュニティ構築の理念を体現している具体例を公開・共有することにより、
本学のコミュニティ構成員個々人の人権意識の内省を促し、行動変容のきっかけとなることを目指したい。