[ 言語コミュニケーション文化研究科 ]領域について(前期課程)

言語科学領域

人が言語を駆使する仕組みを言語、心理、社会など多角的に追究

ことばを科学的視点から分析し、言語の実態を明らかにする

言語構造、言語コミュニケーションを有効に成り立たせる条件、人間が言語をどのように駆使するかなどを科学的に解明します。研究分野としては、音声学、音韻論、統語論、意味論といった言語 科学の基礎を成す分野や、文と文脈との関連性を考える語用論、生得的な言語獲得能力と外国語習得との関わりを研究する言語習得論、言語と社会との関わりを研究する社会言語学、言語と心理との関係を研究する心理言語学、言語使用の実態研究を行うコーパス言語学、言語表現論など、言語コミュニケーション能力の解明に関する分野があります。後者は言語教育や文化に関する研究とも関係しています。基礎分野を概観する講義で言語を科学的な分析の対象にすることの意味を学び、さらに各論の講義において、その分野での研究方法を身につけることができるようになっています。

修士論文・課題研究論文テーマ(抜粋)

●カタカナ語における長母音の生成 ―日本語母語話者と日本語学習者の比較―
●A Corpus-Based Analysis of Take : With Special Reference to Its Linguistic Formal T ypes
●On the Licensing of Negative Polarity Items in the Complement o f Inherently Negative Verbs
●日本語かき混ぜ文におけるフィラーギャップ依存関係の処理過程 ―事象関連電位を指標として―
●The Syntactic and Semantic Differences of Modal Adjectives: With Special Reference to Probable Likely and Possible
●聾学校におけるろう児と教師の関係性についての社会言語学的研究

クローズアップ講義

音声科学
言語の音声面における規則や現象に焦点を当てます。講座の後半では音韻論(音体系中の規則を明らかにする分野)も扱います。研究対象言語は主に日本語と英語ですが、音声学の範囲は大変広いので、外国語教育に役立つ調音音声学を主に取り扱います。
心理言語学
認知心理学や生理心理学で使われている実験方法から得られるデータに基づいて、言語の理解や発話生産の過程及び 言語の獲得・喪失のしくみを明らかにする学問分野です。母語話者だけではなく、第二言語の学習者についての研究も扱っています。
言語習得論
人間は母語だけではなく、第二言語(外国語)を習得する能力を持ちます。第二言語習得における様々なメカニズム(たとえば、母語からの転移、段階的な発達、個人差)が、言語理論の成果をもとにどのように解明されてきたか考察します。
コーパス言語学
コーパス言語学とは何か、そして、英語のコーパスを使った実際的な研究方法について学びます。コーパスの基礎的理論を理解したうえで、コーパスをどのように言語研究や辞書編纂に活かしていくことができるか検討していきます。

Message from Students

新井 大智さん

新井 大智さん 前期課程 修士論文コース 2 年

多様な視点にふれながら学べるのは、他の大学院にはない魅力です。

中野先生のゼミで第二言語学習者による英文処理について研究しています。具体的には、ネイティブと非ネイティブの学習者の読解スピードや内容理解といった英文処理の差を比較し、弱い部分を明らかにすることで第二言語学習者の英語学習に役立てるのが目的です。本研究科に入って良かったと思う一つに、社会人経験者の方が多いことが挙げられます。授業での意見交換では、社会経験を踏まえた多様な考え方にふれられますし、私は一般企業への就職を考えているので社会や仕事の話を聞けるのはすごく勉強になっています。ゼミは私1人ですが、本当に良い雰囲気です。中野先生はとても親切で、私が聞いたことに対して、回答はもちろん関連文献や先行研究など多くのことを返してくださります。修了まで1年、研究を深め、海外の学会でその成果を発表するのが今の目標です。

近藤 真由さん

近藤 真由さん 前期課程 修士論文コース 2022年3月修了

言語学と基礎からしっかり向き合え、英語教員への自信がつきました。

大学の教職課程で、バイリンガルや帰国子女など英語を感覚的に身につけている人たちとの英語力の違いを痛感。その差は知識で埋めるしかないと考え、言語学を専門的に学べる本研究科への進学を決意しました。修士論文では、統語論と意味論の観点から、標準語そして英語と比較しながら高知方言の文法を研究。私の出身である高知方言には標準語にない「完了形」が存在し、高知方言のアスペクトを分析することで今後の英語教育に活かしたいと考えたからです。本研究科の最大の魅力は、先生方がとても親身に接してくださること。教授と院生という堅苦しい関係はなく、真剣かつ和気藹々とディスカッションした思い出ばかりがたくさん残っています。今春から、高校で英語教員として働きます。自身の研究から方言を英語教育に活かす方法を提案し、授業で実践していきたいです。

言語文化学領域

英語圏、フランス語圏、ドイツ語圏、中国語圏の言語と文化を研究

境界線を超える ~多言語・多文化社会への学際的アプローチ~

多言語・多文化社会を積極的に理解し、異文化理解の視点からグローバルに行動できる人材を養成します。「比較文化学」「異文化理解」などの科目は言語や文化の境界線を超えようとする科学です。各プログラムの特徴ですが、まず「地域文化研究プログラム」はヨーロッパ、北米、日本を含む東アジア地域の言語や文化にかかわる基礎研究を踏まえて、言語と文化の問題をさまざまな角度から扱います。「多言語多文化学際プログラム」は境界線を超えた言語・文化事象に関わる多彩な問題を扱います。また「映像演劇文化プログラム」は、映画・演劇という文字テクストの枠を超えた表象文化に関わる問題群を扱います。

修士論文・課題研究論文テーマ(抜粋)

●ベトナム戦争映画のモチーフと二重化 ―『地獄の黙示録』におけるウィラードの揺らぎについて―
●Nathaniel Hawthorne in the Age of Science : A Study of His Lat er Short Stories
●ライトノベル翻訳における役割語としての女ことば ―西尾維新『化物語』とBAKEMONOGARIを比較して―
●英語教科書における異文化理解題材の分析
●アメリカ大統領に立候補した最初の女性 ―伝記からみたヴィクトリア・ウッドハルと19 世紀アメリカ社会―
●カナダ在住国際結婚の日本人女性達のライフストーリー
●フランスと日本の子育て文化

クローズアップ講義

日本文化
近年、「日本的なもの」を他国の文化から差別化し、再評価する動きが日本国内にあります。和食、富士山、桜など。この講義では「日本的なもの」という表象の起源をさぐると共に、それを徹底して「外から」相対化することをめざします。
多言語主義・多文化共生
人の移動が激しくなり、社会は多文化・多言語化しています。その現象を、シティズンシップ教育、海外と国内の日本語教育、ヨーロッパの言語政策、ヘイトスピーチ、猪飼野の民族関 係、日本の多言語化などを題材にして質的に考察します。
言語文化学
4人の教員によるオムニバス形式の授業。英米文化・文学におけるモダニズムおよびポスト・モダニズム期に焦点をあて言語文化の多様性と歴史を学ぶと同時に、人文科学研究の在り方そのものも批判的に考えます。「言語文化」を研究するとは? ぜひ一緒に考えましょう。
映画学
映画学Aではアメリカ、映画学Bではアジアを軸に、映画/映像の分析を通じて、文化を多面的に理解することを目指します。テクストとコンテクスト(文化的・社会的・歴史的文脈)を意識し、クロスメディア研究から見えてくる複雑な文化体系を学問しましょう。

Message from Students

上田 茉弥さん

上田 茉弥さん 前期課程 修士論文コース 2 年

多様な人々の考え方にふれながら、幅広い視点で学ぶことができます。

本研究科へ進学を決めた理由は、大学時代に海外へ行った際に感じた文化や価値観の違いをもっと深く学びたいと思ったからです。現在は、日本と海外を比較し、「安楽死」という言葉が書籍やメディアなどを経由して人々のイメージをどのように左右しているのかを研究しています。日本語の「安楽死」には“ よい死に方”というある種ポジティブなニュアンスが含まれていますが、海外では必ずしもそうではありません。「安楽死」という行為の背景に潜む、社会の死生観や倫理的な価値観を考察したいと考えています。本研究科では、年齢や国籍の違いなど様々なバックボーンを持つ学生や先生と講義などで交流することができ、自分の知らなかった考え方や物事の見方をたくさん吸収できました。ここで学んだ多角的な視点と英語力を活かし、将来は異なる文化の人々と関わる仕事に就きたいです。

宋 元祺さん

宋 元祺さん 前期課程 修士論文コース 2022年3月修了 後期課程 1年

中国と日本、2 つの言語と視点を活かし、台湾の歴史と文化を立体的に把握したい。

中国の大学、大学院で6年間日本語を学んできました。勉強を進めるにつれ、中国にいたまま日本語を学習することに上達の限界を感じ、また日本語を使ってもっと広い世界を見たいという思いが強くなっていきました。ちょうどその頃、先生から関学とのダブルディグリーコースを紹介していただき、留学を決意。現在は大東先生のゼミで、母語の中国語と勉強している日本語を活かし、日本統治期の台湾文学について研究しています。ゼミはマンツーマンなのでコミュニケーションが多く、先生の過去の苦労話などの経験談を聞くこともできます。今の自分の未熟さを知り、もっと頑張らなければと励まされます。将来は中国で教鞭を取りたいと考えており、私も大東先生のように学生の研究姿勢や勉強態度にも良い影響を与える教育者になりたいと思います。

言語教育学領域

学際的、実証的に言語教育を探究

言語教育の変容に柔軟に対応できる確かな教育力を養成

今、外国語の学習・習得研究が脚光を浴びています。なぜでしょうか。これまで言語教育学の主な目的は、その研究成果を教室での教授法に応用することでした。しかしそれだけでなく、外国語の習得(acquisition)という「窓」から、言語習得という「知的いとなみ」、さらには人の「こころの仕組み」を調べる…そんな領域へと変貌したからです。言語の習得や教育の基本を扱う言語教育学、第二言語習得、早期英語教育理論などから、中高生に英語を教える実践を学ぶ英語教育実践、教育評価や、小学校での外国語活動のための小学校英語教育実践まで、言語教育学の全領域をサポートします。現代の言語教育学の潮流へと、しっかりとしたチャート(海図)をもって、皆さんをご案内します。

修士論文・課題研究論文テーマ(抜粋)

●発散性の高い英作文における自動採点システムと人間による評価の比較と自動採点システムの課題
●Effects of Extensive Reading on Japanese Junior High School Students' Motivation to Study English
●Effective Vocabulary Learning for Japanese High School EFL Learners: Prefix Mnemonics
●Efficacy of Shadowing and Repeating for Listening Comprehension on Japanese Learners of English
●Japanese Learners' Engagement with Written Metalinguistic Explanation on English Articles
●英語教育におけるnative English speakerの役割 ―Assistant Language Teacher 以上の存在になるために―

クローズアップ講義

第二言語習得
外国語の学習・教育実践に応用できる言語学習理論について深く学べる科目です。心理言語学、応用言語学、神経科学などの知見に基づき第二言語習得を可能にしている「こころの仕組み」について探求します。
言語教育政策
言語政策を教育の視点からマクロに議論します。文部科学省、教育委員会、学校は公的な制度です。教科書検定、常用漢字、ヨーロッパ言語共通参照枠、識字教育、日本語教育推進法なども言語教育政策の話題です。。
英語教育教材研究
英語教材開発に関する基礎知識や問題点をふまえた上で、スキル別、タスクベース、CLIL教材等を実際に作成します。作成した教材を評価・改善し、学習者にとって適切な教材を開発する実践力を習得します。
教育評価
授業ではいろいろなテストが実施されます。しかし、それらのテストは生徒の英語力や授業で教えたことを適切に測れているのでしょうか。この科目では、「測ること」の基礎と、評価への応用の方法について学びます。

Message from Students

野原 万里さん

野原 万里さん 前期課程 修士論文コース 2021年3月修了

英語教育の指導法はもちろん、授業のすべてが財産となりました。

長年、塾や専門学校、企業研修などで英語を教えてきましたが、もっと専門的に英語教育について学びたいと考えていました。学校をいろいろと探すうちに、本研究科に英語教育に特化した言語教育学プログラムがあることを知り、入学を決意。氏木先生の授業がきっかけで語彙指導に興味を持ち、修士論文では、イラスト付き接辞を活用した語彙指導の効果について研究しました。ゼミはマンツーマンで、英語教育の授業はいずれも少人数クラス。丁寧できめの細かい指導を受けられるのが醍醐味です。また、どの先生も本当に教え方が魅力的で、授業は毎回感動。勉強になりました。4月から大学で英語の非常勤講師として働きますが、先生方の声のトーンや話の運び方など飽きさせない授業の仕方を見習い、実践していきたいです

橋本 洋子さん

橋本 洋子さん 前期課程 修士論文コース 2021年3月修了

2 冊の本との出会いをきっかけに、私の研究は広がっていきました。

塾で英検対策の授業を担当しながら私自身も英検1級の勉強に取り組んでいた際に、偶然、書店で本学の門田先生の著書と出会いました。その本を通じて、第二言語習得という研究分野があることを知って興味を抱き、気付けば言語教育学プログラム専攻に入学していました。修士論文では、「第二言語習得」の講義の教科書で知ったスキーマ理論※を基に、日本語母語話者が英語の読解をする前にプレリーディング活動、例えば英文に登場するいくつかの英単語と日本語の意味をあらかじめ学んでおくなどのアクティビティをすることで、読解力が高まるか、その効果を調べました。卒業後も何らかのかたちで英語教育に携わりたいと考えており、研究の中で有効だったアクティビティも授業で取り入れていきたいと考えています。
※学習者があらかじめ持つ先行知識(スキーマ)を「理解」に役立てようとする理論

日本語教育学領域

外国語・第二言語としての日本語教育の実践者を育成

多くの修了生が日本語教育の専門知識を活かして国内・海外で活躍

日本語教育を通じて地域社会・国際社会へ貢献できる人材輩出を目指します。それに関わる言語・文化・教育学の内容であればいずれもここで研究することができます。たとえば、音声学や語彙・文法の研究、日本語と他言語の対照、言語習得論、教授法と教材開発、コミュニケーション論、談話分析、社会言語学、心理言語学、言語教育政策、日本文学・文化論、メディアとカルチャーなどが挙げられます。また、多様化する日本語教育のニーズに合わせた実践授業に加え、現職日本語教師のリカレント教育も行います。各分野の専門家である指導教員が温かく指導に当たっており、満足のいく研究ができます。修了生は、日本語学校や中高の教員、海外の大学教員、会社員などとして国内外で活躍しています。

修士論文・課題研究論文テーマ(抜粋)

●日本語教育における文学教材の可能性
●ひらがな・カタカナ練習用フォントの開発~日本語教師とゼロ初級学習者の文字学習支援のために~
●サ変動詞と共起する格助詞「に」「を」の交替に関する一考察―国会会議記録を手掛かりにー
●相互文化理解を目指した授業づくりに関する一考察―自他表象のディスコースに注目してー
●中国語母語話者日本語学習者の「は」の不使用と過剰使用に関する一考察―類型化を目指してー
●初対面における日韓ほめについての対照研究―会話分析によるアプローチー

クローズアップ講義

日本語教育研究(実践)
日本語学習者向け教材の分析、教案作成、模擬授業などを行いながら、日本語を教えるために必要な知識やスキルを身につけるための科目です。授業活動を通じて、問題解決の方法や効果的な指導法などを各自の実践をもとに考えます。
日本語語彙・文法教育
日本語非母語話者を対象とする日本語教育を円滑に行うためには、日本語の語彙や文法の知識が必要です。この授業は、日本語非母語話者への日本語教育に必要な語彙や文法の基礎知識を学ぶことを目的としています。
日本語会話分析法
対人コミュニケーションのプロセスを分析するためのツールとして社会学の分野で確立された「会話分析」(Conversation Analysis)の方法論について学びます。会話分析の理論的背景や基本的な考え方を押さえたあと、日常会話の構造を分析するためのさまざまな切り口を紹介し、各自が収集した具体的な会話データを分析できる素地を養成します。
日本語フィールド調査法
この授業では、多文化間コミュニケーションにおける「共通語としての日本語」をテーマとしたフィールド・ワーク調査を実施します。調査の全ての段階(企画・実施・データ分析)を共同で行い、社会言語学的観点からの言語/コミュニケーション研究の様々な調査/分析方法を紹介、検討、そして応用することが主な目的です。

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西阪 亮さん

西阪 亮さん 前期課程 修士論文コース 2021年3月修了 後期課程 2年

日本語教育について、より深く、より実践的に学ぶことができました。

大学とWスクールで専門学校を修了後、国内の日本語学校で2年間教師をしていましたが、自身の知識のなさを感じるようになり、もっと専門的に学び、スキルアップしたいと本研究科に入りました。授業では「日本語教育実践」が特に印象に残っています。既存の教科書を使わずに1から教案を作り上げ、留学生に授業を行いました。私自身初めての試みで、他の受講生たちと頭を悩ませながら授業を作り上げていく過程は、とても有意義で良い経験になりました。今後は博士後期課程に進学し、修士論文で取り組んだ「会話の内容から会話者の親しさを測る」研究テーマをさらに深めていきたいと考えています。将来は日本語教師としてもう一度教壇に立ち、留学生に日本語を話す楽しさ、面白さを教えられる授業をしたいです。

橋本 洋子さん

戎 芸さん 前期課程 修士論文コース 2年

日本語学習者ならではの視点で、日本語を勉強する人たちの役に立ちたい。

現在、会話分析の手法を用い、中国語を母語とする日本語学習者の会話中に見られるコードスイッチング※について研究を行っています。留学生の友人と中国語で会話している時に、たまに日本語の単語やフレーズが出てくることに興味を持ち、このテーマを選択しました。いつ、どのような形、どのような意図でコードスイッチングが行われるのか、その規則性を見出すことで日本語学習者の学習過程で直面しやすい問題を明らかにしたいと考えています。私が所属する森本先生のゼミでは、修士と博士の学生が一緒に授業が行われます。自身の発表に対して先輩方から様々な意見をもらえるので大変勉強になりますし、先輩方や先生の会話分析に対する熱意にふれ、私も頑張ろうと刺激を受けています。この恵まれた環境であと1年、後期課程も視野に入れながら研究を進めていきたいです。
※会話や文章の中で2種類以上のコード(言語や方言など)をスイッチ(切り替え)すること