工学部長・石浦菜岐佐 メッセージ

石浦 菜岐佐

石浦 菜岐佐 (いしうら なぎさ) 教授

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博士(工学)。京都大学工学部情報工学科卒業、同大学院工学研究科修士課程情報工学専攻修了。
University of California, Berkeley客員研究員、大阪大学工学部助教授などを経て現職。
専門は、IoTのハードウェア・ソフトウェアの設計技術、システムプログラムの開発と検証。

2021年4月1日、関西学院大学工学部が誕生しました。一期生のみなさんをお迎えして新しいスタートを切る、私たち教職員にとっても一生の記憶に残る一日となりました。

工学部のなりたちを説明します。132年の歴史を持つ関西学院大学ですが、理系学部ができたのは、今からちょうど60年前の1961年(昭和36 年)です。理学部として創設され、物理学科と化学科の2 学科110名という規模でスタートしました。その後、今から19年前、2002年に神戸三田キャンパスに移転して、情報科学科、生命科学科が設置され、4学科の理工学部に改組されました。さらに、2009 年には数理科学科、人間システム工学科が設置されて6学科に、2015年には先進エネルギーナノ工学科、環境・応用化学科、生命医化学科が設置されて9学科になる等、理系分野の拡充が行われてきましたが、2021年4月1日より理学部、工学部、生命環境学部の3学部に再編されて新しいステージに入りました。

一つはMastery for Serviceについて、もう一つは、technology のTの文字についてです。

Mastery for Serviceは関西学院のスクールモットーです。Mastery for ServiceはService奉仕のためのMastery練達と訳されます。平たく言えば、社会貢献のために己を鍛えよ、というような意味で、何のために一緒懸命勉強するのか、それは卒業後に社会で活躍するためであるということです。

高校での勉強に例えてみましょう。
みなさん、高校では何を目標に勉強されてきましたか。中間テストや期末テスト、大学受験や大学への進学を目標にされていた方が多いのではないでしょうか。大学に入学することはもちろん一つのゴールですが、大学に入った先のことまで考えて勉強して下さいということです。

大学での勉強で例えると、4年で卒業することや就職活動で成功することが最終的な勉強の目標ではありません。現在は、社会に出てからのことを考えながら勉強するという考え方がとても重要になっています。大学入学直後に社会貢献や社会での活躍と聞いても、当然ピンと来ないかもしれません。会社に入ったら先輩に教えてもらいながらぼちぼちやって、大変な仕事は先輩がやってくれると想像しているかも知れません。

今は考えられなくても、社会の一員として活躍する日が必ずやってきます。その時に、自分自身が力を持っていなければならないのです。自分が泳げなければ溺れる人を助けることはできません。泳げなければ、その時に泳ぎ方を身につけなければならないのです。後輩が泳げなければ、泳ぎ方を教えてやらなければならないのです。

大学の勉強では、きっと難しいこと、辛いことが出てくると思います。何のためにこんなことやらなければならないのだろう。そう思った時、この話を思い出してもらえればと思います。

さて、次はTechnologyのTの文字のお話です。みなさん、アルファベットのTの文字を思い浮かべて下さい。
縦棒はアルファベットのIで、Identityを表すと思って下さい。自分を特徴付けること、他の人との差を語ることですね。例えば高校でサッカーに打ち込んでいたとか、英語は誰にも負けないとか、あるいは、趣味のことには誰よりも詳しいとか。人との付き合いの中で自分の特徴とか基軸になるものです。

社会に出てからの仕事という観点では、大学時代の専門が一つのアイデンティティになります。AI技術の分野で徹底的に研究してIT系の会社で活躍するなら、その技術が自分のアイデンティティになるでしょう。必ずしも全員が自分の専門に直接関係した仕事につくとは限りません。物質工学や電子工学、情報工学あるいは機械工学の専門性をもって、商社で活躍する人もおられるでしょう。そのときには特に、大学での専門が自分のアイデンティティになります。

大学での勉強と研究では、自分の基軸を確立するために、専門性を深めるというのが最も重要になります。深さの違いこそあれ、どこの大学でも誰もがやっていくことです。
工学部のみなさんの心に留めて欲しいのは、このTの横棒です。
縦棒は自分の基軸を深く、横棒は周辺を浅く広くです。つまり、自分の専門を極めるだけでなく、その周辺を広く身につけて欲しいということです。

みなさんが工学部を志望された際に、「学科」ではなく「課程」があって、これは何だろう、と思われたと思いますが、このTの横棒が課程制と深く関係しています。

これまで日本の大学の理系の教育に対しては、産業界からいくつかの批判が寄せられていました。専門教育を極めるのは大切だけれど、自分の専門のことだけしかわからない人材を輩出しているのではないか。例えば、自分のやっている研究が社会でどういう意義を持っているか、どのように役立つのかわからない・考えたこともない。あるいは、自分の専門知識を他の分野に応用したり、他の分野の技術と結びつけて活用することができない・そういうことに興味がないということです。

先ほどのMastery for Serviceの話とも深く関連するのですが、我々は勉強や研究で身につけた専門性や技術を、何らかの形で社会や人類の発展に役立てていかなければなりません。工学部ではそれが特に重要です。入学した課程の専門だけでなく、隣接する分野について学ぶこと、少し離れた分野、例えば生命科学の分野の基礎知識やその分野での考え方を知ること、あるいは特許戦略やベンチャー会社を起業することについて、浅くてもいいので広く学んでおくことが非常に重要になるわけです。

関西学院大学の工学部では他の学部とは違い、また学科制を採っている他の大学の工学部とも違い、カリキュラムの中に隣接分野、他分野に学びを広げる仕組みを組み込んでいます。なぜこんな科目を履修しなければならないのか、疑問に思った時には、このTの横棒を思い出して下さい。大学の勉強だけではありません。普段からニュースやあるいは色々な人との会話を通じて、技術の広がりとその社会へのインパクトについて、意識をもって欲しいと思います。以上、これからの勉強について、参考にしてほしい二つのこと、Mastery for ServiceとアルファベットのTについてお話ししました。