[ 編集者:産業研究所 2022年9月30日 更新 ]
2022年5月26日 関西学院高等部でEUについての授業を実施
タイトル: 21世紀に直面するEUの課題
日付:2022年5月26日 13:20 – 15:00
場所:関西学院高等部
講師 ホルガー・ブングシェ教授
参加者数:22名
授業の目的
この授業の目的は、高校生に欧州統合の特徴を知ってもらうことです。EUは、いうまでもなく自らの課題に取り組む一方、EUの領域を超えた事態や課題にも常に対応する必要があります。
今回の授業では、次の2点について理解することを目指しました。第一にEUの単一市場と単一通貨の確立は、EU域外からの脅威に対応するために絶対不可欠であること。それによって単一市場と単一通貨の両方がEUにグローバルプレーヤーとしての政治力・経済力を与えています。第二に単一経済通貨圏の中心には、4つの自由(モノ、資本、サービス、人の自由な移動)があることです。
また、授業では、EUが直面している課題の例として、ウクライナ戦争とエネルギー供給危機、北アイルランド議定書をめぐる英国との論争も取り上げました。
授業内容
授業では、まず、欧州の統合プロセスを3つの段階で紹介しました。第1段階は、1950年代半ばまでの調整(協調、融和、調停)期間で、ヨーロッパ支払(決済)同盟のような貿易の強化や、第二次大戦後のヨーロッパ復興計画(マーシャル・プラン)、共通の産業基盤(欧州石炭鉄鋼共同体)のための体制構築が行われました。1950年代半ばから1980年代末までの第2段階では、ECの組織運営、共通の農業・漁業・環境政策、欧州通貨制度など、共通制度や共通政策が確立しました。そして、1990年代初頭から2000年代初頭にかけての第3段階において、市場統合と通貨統合が実現しました。これにより、EUは、少なくとも経済面において、ようやくグローバルプレーヤーとしての役割を果たす基盤を確立しました。
欧州統合の発展の礎について説明した後、21世紀の最初の20年間にEUが直面した課題について話を進めました。
当初、EUは国際競争力という課題に直面し、リスボン戦略、新リスボン戦略を策定してこれに取り組みました。いずれも、米国との経済・雇用の格差是正を目指したキャッチアップ志向の戦略でした。ヨーテボリ戦略において、EUは初めて経済成長戦略に環境要素を加え、環境にやさしい革新技術の国際的な中心地となるべく、持続可能な開発とグリーンテクノロジーに重点を移しました。次の決定的なステップは、経済、技術革新、再生可能エネルギーの目標に加えて、教育レベルの向上と貧困対策に重点を置いた「欧州2020」戦略でした。これは、エネルギーや天然資源の消費と経済発展とを切り離した初の成長戦略である「欧州グリーン・ディール」の制定へとつながりました。また、「Fit for 55」政策パッケージや、国際貿易に関する規定を含む、温室効果ガス排出の要因すべてを対象とした規制により、EUは地球規模の気候変動に対応するだけでなく、経済、環境、社会の持続的発展を達成するための施策を推進しています。
最後に、EUが現在直面している二つの課題、第一にウクライナ戦争の危機と、それによるEUの化石燃料依存からの脱却への影響、第二にEU域内市場の整合性を損なう恐れのある、北アイルランド議定書を空洞化する英国の動きについても簡単に紹介しました。
参加生徒の感想
「Brexitは英国の若者にとって公平を欠く不当なものだと思う。なぜなら、自分たちが望む勉強や仕事をする権利が奪われているから」という参加生徒の意見がありました。また別の生徒からは、「EUの加盟国間の格差よりも、EU加盟国の国内での地域発展や所得の格差の方が大きいことに驚いた」という感想もありました。