ヨビノリたくみ氏と理系4学部教員によるトークセッション「海について少しマジメに考えてみた。」を開催
理系4学部が集う神戸三田キャンパスの近接地に誕生した本学のインキュベーション施設「Spark Base」で2025年10月8日、教育系人気YouTuberヨビノリたくみさんをファシリテーターに迎え、「海」をテーマに語り合うトークセッションイベントを開催しました。登壇者は理学部化学科の重藤真介教授(専門:振動分光学)、工学部知能・機械工学課程の岸本直子教授(専門:航空宇宙工学)、生命環境学部環境応用化学科の谷水雅治教授(専門:地球化学)、建築学部建築学科の金容善准教授(専門:建築構法・建築生産)。当日は学部生・大学院生ら約50人が参加し、海の可能性の大きさや科学の視点で身の回りを見つめる楽しさに触れました。
トークセッションは、「人は海に住むことができるのか?」というテーマからスタート。この問いに対して「住めると思いますよ」と意外なほどあっさりと答えてくれたのは、岸本教授です。「昼夜の温度差が激しすぎる宇宙と違って、海中は温度が安定している。これは生物にとって重要なポイント」と説明。さらに、水を電気分解することで酸素を得られるという、海中ならではの利点を付け加えました。
海中で懸念されるのは、高い水圧です。人間が活動する空間を守る耐圧技術は実用化されているものもあり、金准教授は「海底トンネルなどがその代表例です」と紹介します。ただし「静寂性を守ったり快適な温度を維持したりなど、長期にわたる居住を実現するにはまだまだ技術革新が必要」と語りました。
「肺がネックになる」と指摘するのは、重藤教授です。陸上生活に最適化された人間の肺は、水中では押しつぶされてしまう危険性があるのです。ならば、体自体を水中生活に適応させてしまおうというまったく逆の発想を披露したのは、谷水教授です。「クジラは元々は陸上で生活していました。人間も数十万年後には、肺呼吸のまま水中で何十分も活動できるようになるかもしれません」と話しました。
登壇者4人は、必ずしも全員が海の専門家というわけではありません。しかし、海を知ることは様々な分野を探究するうえでのヒントに満ちていると言います。岸本教授は、「浮力が働く海は、宇宙と同じ微小重力環境です」と指摘。小さな重力の世界に適した形を見つけるために行っている、放散虫という5億年前から地球で暮らす微細生物の形状に関する研究を紹介しました。
「ラマン散光」という現象を利用して分子の形や機能を研究している重藤教授は、硫化水素を食べたりメタンを作ったりしている深海の微生物についても調査。「人とはまったく違った代謝をしています。その仕組みがわかれば、エネルギーの確保やゴミ処理に利用できるかもしれません」と期待を込めます。
深海探査技術や海底掘削技術の進歩は、かつて「暗黒の世界」と思われていた深海に関する数多くの知見をもたらしてくれました。現在では、深海をさらに掘り進めた海洋底堆積物の研究も行われています。そこには太古の生物の痕跡が残されており、生命のルーツに迫ることができます。重藤教授と谷水教授は「海は人類最後のフロンティア」という言葉を紹介してくれるとともに、ロマンの大きさを語ってくれました。
イベントはさらに、海をテーマにした自由なトークへ。岸本教授が披露したのは、クリオネの唯一の餌であるミジンウキマイマイの苦境について。大気CO2の増加に伴う海洋酸性化がミジンウキマイマイの殻の形成に悪影響を及ぼしており、このままではミジンウキマイマイ、ひいてはクリオネ、さらに海洋の基礎生産を支える様々な生物が生活できなくなるかもしれないと警鐘を鳴らしました。
谷水教授は前職で同僚と一緒に研究していた「100年に一度しか細胞分裂しない」という不思議な微生物を紹介。「地球上には数百万から一千万近い種類の微生物が存在するが、そのうちの99%についてはよくわかっていない」という重藤教授の話とともに、生き物の不思議さや奥深さについて語りました。これらの言葉を受けて金准教授は、「廃棄しても海に流れ出さない建材の開発や、そもそも建材を廃棄せずに再利用することは建築分野の大きなテーマ。海と建築は決して無関係ではない」と述べました。
最後は参加者と登壇者、そしてヨビノリたくみさんとの質疑応答で幕を閉じた今回のトークセッション。参加者の多くの表情には、海と科学への興味がもたらした、わくわく感に満ちた笑顔が浮かんでいました。