K.G.

溶岩は表面が固まっても変形する
~流紋岩溶岩の表面しわが示す「冷却しながら動く溶岩」~

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研究成果のポイント

・世界初の定量解明:古地磁気学を用いて、流紋岩溶岩のしわ状構造の形成過程を世界で初めて定量的に復元しました。
・固結後も続く変形:しわ状構造は、溶岩表面が固結した後も変形を受け、波長を短くする方向へ発達していたことを示しました。
・火山防災への貢献:「固まった溶岩は変形しない」という従来のイメージを覆す成果です。

概要

流紋岩は粘性(粘り気)が高く、噴火時には厚く大規模な溶岩体を形成するため、流出が始まると周辺地域に深刻な影響を及ぼす可能性があります。しかし、その流動の実態は十分に解明されていません。最大の理由は、流紋岩溶岩の流動が直接観察された事例が極めて少ないことにあります。流紋岩溶岩の科学的な観測事例は、南米チリで2000年代以降に記録された2例のみであり、現象の普遍性を読み解く上で大きな制約となっています。

兵庫県立大学環境人間学部の宇野康司教授、愛知大学経営学部の古川邦之教授、日本大学文理学部の金丸龍夫准教授、関西学院大学生命環境学部の壷井基裕教授らの研究グループは、地質学と物理学に基礎を置いた古地磁気学とよばれる手法からのアプローチで、伊豆半島に分布する約3100年前に噴出したカワゴ平流紋岩溶岩流を対象に詳細な解析を行いました。その結果、溶岩表層に発達する褶曲構造(しわ状の変形構造)が、溶岩表面の固結後も冷えていくプロセスの中で段階的に成長・発達していたことを解明しました。

本研究成果は、流紋岩溶岩の冷却・変形過程に対する理解を深め、火山学における溶岩流動機構の解明に貢献するものです。この研究成果は、9月30日に科学雑誌 Earth, Planets and Space に掲載されました。

研究の背景

火山から流れ出た溶岩の表面には、流動中に「しわ状構造」と呼ばれる波状の凹凸が形成されることがあります。これは、溶岩の流動や変形の履歴を記録した重要な地形です。そのため、しわ状構造がどのように形成されたのかを明らかにすることは、溶岩流の流動過程を理解する上で重要な課題となっています。しかし、しわ状構造が形成されるタイミングや、その発達過程については十分には分かっていません。

その最大の原因は、溶岩が流動・冷却する過程を直接観察できる機会が極めて限られていることです。粘性の高い流紋岩質溶岩は噴火頻度が極めて低く、噴出から冷却・固結に至るまでの過程を観察できた事例はこれまでに2例しかありません。そのため、過去に噴火し、流出活動の終了した流紋岩溶岩流に残された変形構造を調べることで、観測記録の乏しい流紋岩溶岩の流動過程を復元し、その事例を蓄積していくことが重要となります。

岩石の中には、磁鉄鉱などの磁石の性質をもつ鉱物が含まれています。これらの鉱物は、岩石がキュリー点(約580 ℃)以下まで冷える過程で、その時の地球磁場の方向を「古地磁気」として記録します。岩石が固まった後に向きを変えるような変形を受けると、その中に記録された古地磁気の向きも一緒に変化するため、その向きを測定・解析することで、岩石が固まった後に受けた変形を復元することができます。

本研究では、伊豆半島中央部に分布する約3100年前に噴火したカワゴ平流紋岩溶岩を対象に、しわ状構造の古地磁気を詳しく解析しました。その結果、溶岩表面はキュリー点以下まで冷えて固結した後も変形を続け、その変形によってしわ状構造がさらに発達していたことを明らかにしました。

研究の成果

伊豆半島のカワゴ平に分布するカワゴ平溶岩は、南北約4.5 kmにわたり流れ出た約3100年前に噴火した地質学的に新しい流紋岩溶岩です。新しい溶岩であるため、その溶岩表面の凹凸地形を明瞭に観察することが可能となっています。その観察により、この溶岩流は中流域に明瞭なしわ状構造を形成しており、その波長は約50 mであることが明らかとなりました。また、しわ状構造は溶岩の主たる南北方向の流動に対応して主に東西方向に発達しており、溶岩流の側面付近では、側方からのひきずり作用によって部分的に南北方向まで回転したと考えられるものも認められました。

研究グループでは、この溶岩について古地磁気学の手法を用いて詳細な調査を行いました。その結果、以下の3点が明らかとなりました。(1) 溶岩流表面の固結部は、自身の温度がキュリー点(約580 ℃)以下まで低下した後、すなわち固結した後も、継続的な変形を受けていたこと。(2) その変形は、しわ状構造(褶曲構造)の波長をより短くする(折りたたむ)方向に生じていたと推定されること。(3) 溶岩流の側面付近では、しわ状構造の折りたたみと、ひきずり作用に伴う回転運動が同時に生じていたこと。

これらの結果は、溶岩表面を構成する外皮の内側に約900 ℃の溶融した流紋岩溶岩が閉じ込められており、それが流動を繰り返すことで生じた圧力変化によって、外皮が変形したためと考えられます(図1)。

【図1】古地磁気解析に基づく溶岩表面褶曲(しわ状構造)の変形様式
社会的な意義

溶岩は「表面が固まれば動きも止まる」というイメージを持たれがちです。しかし、本研究は、流紋岩溶岩では表面が固まった後も内部の高温の溶岩の影響によって外皮が変形し続けることを示しました。この成果は、流紋岩溶岩の成長や停止の仕組みに新たな視点を与えるものであり、将来的には噴火時における溶岩流の挙動予測や火山災害リスクの評価につながることが期待されます。

研究支援

本研究は、日本学術振興会 JSPS 科学研究費(JP19K04001、JP22K03739JP、JP26K07244)による助成を受けて実施されました。

論文情報

論 文 名:Development of surface folds on rhyolitic lava: paleomagnetic evidence

    (流紋岩溶岩における表面褶曲の発達:古地磁気学的証拠)

掲 載 誌:Earth, Planets and Space

著   者:Koji Uno, Kuniyuki Furukawa, Tatsuo Kanamaru, Motohiro Tsuboi, Yuki Toda, Kota Fujimura

    (宇野康司、古川邦之、金丸龍夫、壷井基裕、戸田悠貴、藤村考大)

D  O  I: 10.1186/s40623-026-02535-3