ミツバチの巣は “型どおり” には作られない―土台の形と大きさで変わる巣作りの発達経路―
関西学院大学(兵庫県西宮市、学長:森康俊)理学部の大﨑浩一教授は、北九州市立大学の鳴海孝之准教授(関西学院大学 数理・データ科学教育研究センター客員研究員を兼務)、山口大学大学院創成科学研究科の小川亮さん(研究当時:同研究科修士課程2年)との共同研究により、3Dプリンタで形と大きさを設計した自作巣礎*1を複数パターン作製し、ミツバチがその上でどのように巣を作るかを観察しました。
ミツバチの巣は、美しい六角形が規則的に並ぶ構造としてよく知られています。しかし、完成した巣の形だけを見ても、その六角形構造がどのような過程を経て生まれるのかは分かりません。本研究では、六角形の大きさを変えた巣礎や、四角形の巣礎をミツバチに与え、巣作りの進み方を比較しました。その結果、ミツバチは与えられた型を単純になぞるのではなく、土台の形や大きさに応じて異なる発達経路をたどりながら巣を作ることが示されました。
本研究成果は、Springer Nature社が刊行する国際学術誌「Scientific Reports」に2026年6月4日付で掲載されました。
ポイント
- 3Dプリンタを用いて開口部の形と大きさを設計した自作巣礎を4パターン(六角形3条件、四角形1条件)作製し、活動中のミツバチの蜂群に導入して巣作りを観察しました。
- 同じ六角形の巣礎であっても、大きさが異なると巣の作られ方が変わりました。小型・中型の六角形の巣礎では巣礎面に沿って平面的に巣が広がった一方、大型の六角形の巣礎では表面から立体的に外へと成長する傾向が見られました。
- 四角形の巣礎では、初期には四角い境界に沿ってミツロウ(働きバチが巣を作る際に腹部の蝋腺から分泌するろう)が付着しましたが、その後、四角形の巣房(巣の内部に作られる幼虫の育成や蜜の貯蔵のための小部屋)の割合は減少し、五角形や六角形の巣房を含む構造へと変化しました。
研究の背景と経緯
ミツバチの巣は、六角形の小部屋が多数並んだハニカム構造*2として知られています。この構造は、自然界に見られる秩序ある形の代表例であり、少ない材料で空間を効率よく区切る構造として、工学的にも関心を集めてきました。一方で、実際の巣作りは最初から完成した六角形が一度に現れるわけではなく、その過程の詳細は明らかになってはいませんでした。作りかけの部分、隣り合う構造がつながる部分、形が途中で変わる部分などがあり、巣の形は発達の途中で変化していきます。そのため、ミツバチの巣作りを理解するには、完成後の六角形だけでなく、巣がどのように成長し、どの段階で形が変化するのかを観察する必要があります。
従来の研究では、ミツバチが局所的な手がかりに応じてミツロウを付け足しながら巣を作ることや、人工的な境界が巣作りの位置や方向に影響することが示されてきました。しかし、土台の形や大きさを変えたときに、巣作りの途中経過がどのように変わるのかは、十分には分かっていませんでした。
そこで本研究では、形と大きさを設計した巣礎を3Dプリンタを用いて複数パターン作製し、ミツバチがその上でどのように巣を作るかを観察し、比較しました。
研究成果
研究グループが自作した巣礎では、六角形の開口部を持つ3条件と、四角形の開口部を持つ1条件の、計4パターンを設計しました。六角形の自作巣礎では、開口部の大きさを自然の巣よりもやや小さいサイズ(小型)、やや大きいサイズ(中型)、そして非常に大きいサイズ(大型)とし、四角形の巣礎では自然の巣と同程度の大きさとしました(図)。これらの巣礎をミツバチの群に導入し(写真1)、数日ごとに写真を撮影して、巣の発達を比較しました。
小型および中型の六角形巣礎では、まず局所的にミツロウが付着し、小さなドーム状の突起が形成されました。その後、これらの構造が横方向に広がり、隣り合う構造とつながりながら、より連続した平面的な巣へと発達しました。
一方、大型の六角形巣礎では、ミツロウの付着は主に盛り上がった格子壁に沿って起こりました。この条件では、巣礎の表面を横方向に覆うような成長よりも、巣礎表面から外向きに伸びる成長が目立ちました。つまり、同じ六角形の土台であっても、その大きさが変わると、巣作りの進み方が異なることが分かりました。
四角形の巣礎では、初期には四角い格子の直交する境界に沿ってミツロウが付着し、巣礎の形が巣作りの初期配置に反映されました。しかし、その配置は後の発達段階では維持されませんでした。観察された巣房の形を分類すると、初期に多く見られた四角形の巣房の割合は減少し、五角形や六角形の巣房の割合が増加していることが確認されました。(写真2)。
これらの結果は、ミツバチの巣が最初に与えられた型だけで決まるのではないことを示しています。巣の形は、局所的なミツロウの付着、成長、隣り合う構造同士の再編成を通じて、発達の途中で変化していくと考えられます。
今後の展開
今後は、ミツバチが局所的な作業を積み重ねながら秩序ある構造を作る仕組みを、さらに詳しく明らかにすることが期待されます。また、本研究は、ミツバチの巣がどのように作られるかを理解するだけでなく、生物の集団行動や自己組織化*3の理解にもつながります。中央の設計図や一個体の指令に頼らず、多数の個体の局所的な行動から秩序ある構造が生まれる仕組みは、生物に学ぶ構造設計や、分散的なものづくりを考える上でも参考になる可能性があります。
研究助成
本研究は、日本学術振興会科研費(課題番号「JP24K06821」)の支援により行われました。
用語解説
*1 巣礎
ミツバチが巣を作り始める土台となる板状の構造。本研究では、形と大きさを制御した3Dプリンタ製の自作巣礎を用いた。
*2 ハニカム構造
六角形の小部屋が多数並んだ構造。ミツバチの巣に見られるほか、軽くて強い構造として工学分野でも知られる。
*3 自己組織化
全体を指示する設計図や司令塔がなくても、個々の要素の局所的な相互作用の積み重ねによって、全体として秩序ある構造が生じること。
論文情報
タイトル:Honeycomb construction on designed foundations reveals geometry-dependent developmental pathways
(設計巣礎上のハニカム構築が明らかにする幾何条件に依存する発達経路)
著者:Takayuki Narumi*, Ryo Ogawa, Koichi Osaki
*責任著者
掲載誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-026-55752-x
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-026-55752-x