C4植物の光合成エネルギー生産のメカニズムを解明
-光化学系Ⅰ循環型電子伝達が鍵-
関西学院大学(兵庫県西宮市、学長:森康俊)生命環境学部の宗景ゆり教授らの研究グループは、光化学系I循環型電子伝達*1がC4型光合成*2のエネルギー生産と光傷害の防御に働くことを明らかにしました。これはC4植物*3が高温や乾燥という厳しい条件下においても光エネルギーを最大限に利用して高い光合成活性を維持できる理由を解明したもので、今後、高温や乾燥に耐性を持つ作物の分子育種への応用が期待されます。
本研究成果は、Oxford University Press社が刊行する生命科学分野の国際学術誌「Plant Physiology」に2026年3月16日付(日本時間)で掲載されました。
ポイント
- C4植物は高温や強光耐性を有します。そのメカニズムとして、C4植物では光化学系I循環型電子伝達が活性化することで、効率的なエネルギー生産や強光に対する防御を行なうことが明らかになりました。
- 高温や乾燥に耐性を持つ作物の分子育種へと応用することが期待されます。
研究成果
これまで、一般的なC3型光合成を行なう被子植物では、光化学系I循環型電子伝達は、直鎖型電子伝達を補助的に調節する経路として機能することが知られていましたが、C4型光合成を行なうC4植物ではその生理機能は未解明でした。それを解明するために、研究グループは、キク科Flaveria属植物のC3種とC4種を用いて比較解析を行い、C4種で光化学系I循環型電子伝達活性が上昇していることを見いだしました。 このことからC4型光合成では光化学系I循環型電子伝達は、補助経路ではなく、光合成を支えるエネルギー生産を行う経路として働くのではないかと仮定し、それを実証することを試みました。
本研究では、C4種Flaveria bidentisを用いて光化学系I循環型電子伝達に関わる2つの経路の活性を失った二重発現抑制株(PGRL1遺伝子およびNDHO遺伝子)を解析しました。CO2濃縮機能を備えるC4光合成では、代謝反応に多くのアデノシン三リン酸(ATP)*4を必要とします。この二重発現抑制株を使った解析から、C4植物は、電子を循環させてATPを合成するためのプロトン濃度勾配*5を形成し、光合成を最適化していることが明らかになりました。さらに、この2つの循環型電子伝達活性により、光化学系I電子受容体に電子が過剰に流れ込むことによって起こる光化学系Iの光傷害が、防がれていることが示されました。
以上のことから、C4植物において光合成エネルギー生産および光傷害の防御に、光化学系I循環型電子伝達が重要な役割を果たすことが明らかになりました。
今後の展開
本研究では、光化学系I循環型電子伝達活性が、C4植物において光エネルギーを最大限に利用して乾燥や高温条件下でも高い光合成活性が維持できる役割を担うことが示されました。今後、作物の高温や乾燥耐性を強化させる分子育種への応用が期待されます。
研究助成
本研究は、日本学術振興会科研費(JP24K08853)および学術変革領域研究A「光合成ユビキティ」(24H02103)の支援により行われました。
用語解説
*1 光化学系I循環型電子伝達
電子を光化学系Iの受容体から電子伝達系のプラストキノンに戻し、循環させることでプロトン濃度勾配を形成する電子伝達。
*2 C4型光合成
C4代謝回路により葉内にCO2を濃縮する光合成様式。
*3 C4植物
CO2濃縮経路を備えたC4光合成を行なう植物。代表的なC4植物にトウモロコシやサトウキビがある。一方、代表的なC3植物としては小麦や大豆があげられる。
*4 アデノシン三リン酸(ATP)
細胞の活動エネルギー。すべての植物・動物・微生物の細胞のなかに存在する。
*5 プロトン濃度勾配
チラコイド膜の外側と内側に生じる水素イオンの濃度勾配。
論文情報
タイトル:Cyclic electron flow around photosystem I provides energy production and photoprotection in C4 plants
著者:Asuka Nakamura, Takako Ogawa, Ginga Shimakawa, Ryouhei Kobayashi, Toshiharu Shikanai,Yuri N. Munekage*
*責任著者
掲載誌:Plant Physiology
DOI:10.1093/plphys/kiag146
URL:https://doi.org/10.1093/plphys/kiag146