K.G.

豊富に存在するアルケンから高価値な第3級アミンを作る新技術 ―アンモニウム構造が可能にするアルケンのアミノメチル官能基化―

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関西学院大学(兵庫県西宮市、学長:森康俊)理学部の村上慧教授、榊原陽太助教、中塚春平さん(理工学研究科博士課程後期課程)、木之下拓海さん(理工学研究科博士課程後期課程)らの研究グループは、研究グループが2021年から独自に研究してきたα-アンモニオメチルラジカルという化学種を利用することで、有機合成における豊富に存在する原料であるアルケン*1から医薬品分子に多く利用される第3級アルキルアミン*2を合成する新手法を開発しました。
本成果は、医薬品化合物のおよそ26%に含まれる第3級アルキルアミン構造を、入手容易な原料から迅速に合成できる技術につながるもので、医薬品候補分子の合成を効率化し、創薬研究の加速に貢献することが期待されます。
本研究成果は2026331日に、ACS社が刊行する「Journal of the American Chemical Society」に掲載されました。

ポイント
  • 反応性が低いアルキル置換アルケンのアミノメチル官能基化を達成しました。
  • アミノメチル基と共に多様な官能基を導入することを可能にしました。
  • 1炭素増炭型のアリルアミン合成にも応用できることを実証しました。
豊富に存在するアルケンから高価値な第3級アミンを作る新技術
研究の背景と経緯

3級アルキルアミン構造は、医薬品化合物のおよそ26%にも含まれることが知られており、この構造を入手容易な原料から簡単に作ることができれば新薬候補の探索を効率化できます。そのため、有機合成における理想的な原料であるアルケンにアミノメチル基を導入する「アルケンのアミノメチル化反応」は第3級アルキルアミンを作る上で強力な手法です。しかし従来の手法では、適用可能なアルケンの構造が限られていることや、アミノメチル基とともに導入できるのが水素原子に限られるという課題が残されていました。本研究では、α-アンモニオメチルラジカルを求電子的なα-アミノメチルラジカル等価体として利用することで、従来法では困難であったアルキル置換アルケンのアミノメチル化を達成しました(図1)。また、開発した反応を利用することでアリルアミン合成や医薬品の生物学的等価体*3の合成も実現しました。

図1:本研究で開発した反応の概要。α-アンモニオメチルラジカルを利用することで、アルキル置換アルケンから多様な第3級アルキルアミンの合成が可能に。
図1:本研究で開発した反応の概要。α-アンモニオメチルラジカルを利用することで、アルキル置換アルケンから多様な第3級アルキルアミンの合成が可能に。
詳細な研究成果

アルケンは安価でかつ多様な構造のものを容易に入手できることから、有機合成における理想的な原料であることが知られています。そのため、このアルケンを原料として簡単に価値の高い構造を作ることができる反応の開発が求められています。そのような観点から、医薬品化合物に多く含まれている構造である第3級アルキルアミンをアルケンから作ることができる「アルケンのアミノメチル化反応」は有用な反応です。特に、アルケンに対してアミノメチル基ともう1種類別の官能基を導入できるアミノメチル官能基化反応は、一挙に複雑な構造の第3級アルキルアミンを合成できます。近年ではα-アミノメチルラジカルという化学種を利用することで、アルケンのアミノメチル官能基化反応が達成されています。しかし、この反応に適用できるアルケンは電子求引基もしくはアリール基が置換した、いわゆる活性化された反応性の高いアルケンのみであり、アルキル基のみが置換した反応性の低いアルケンに対してアミノメチル官能基化を行うことができる汎用性の高い手法は未だ存在しませんでした(図2)。

図2:アルケンのアミノメチル官能基化における課題。
図2:アルケンのアミノメチル官能基化における課題。

本研究では、この課題を克服するために、長らく有機合成で十分に活用されてこなかったディストニックラジカル*4の一種であるα-アンモニオメチルラジカルに着目しました(図3)。α-アンモニオメチルラジカルはアンモニオ基に起因する高い求電子性と反応性をもつことから、従来のα-アミノメチルラジカルでは反応させることができなかったアルキル置換アルケンとも反応することができます。また、反応後に脱メチル化を行うことで容易に対応する第3級アルキルアミンへと導くことも可能です。
実際にこの戦略を利用することで、アルキル置換アルケンに対してアミノメチル基とともにチオエーテル基、アミノ基、ヘテロアリール基、アルキル基、アジド基、アルキニル基、フルオロ基、水素原子といった多様な官能基を導入可能であることを明らかにしました。

図3:本研究の戦略。α-アンモニオメチルラジカルを利用することで、アルキル置換アルケンから多様な官能基をもつ第3級アルキルアミンの合成が可能に。
図3:本研究の戦略。α-アンモニオメチルラジカルを利用することで、アルキル置換アルケンから多様な官能基をもつ第3級アルキルアミンの合成が可能に。

また本手法を応用することで、アルキル置換アルケンから1炭素増炭しながらアリルアミンを作ることも可能です(図4)。アリルアミン構造も生物活性分子に頻繁に含まれる重要な構造であり、この反応を利用することで部分的に重水素化*5された医薬品化合物(アリピプラゾール-D2)やベンゼン環部位が生物学的等価体に置き換わった医薬品誘導体(BCO-ナフチフィン-D2BCO-シンナリジン-D2)を簡便に合成することにも成功しました。

図4:開発した反応を応用することで1炭素増炭したアリルアミンの合成も達成した。これを利用することで医薬品分子の誘導体合成が可能であることも明らかにした。
図4:開発した反応を応用することで1炭素増炭したアリルアミンの合成も達成した。これを利用することで医薬品分子の誘導体合成が可能であることも明らかにした。

以上のことから、本研究は「入手容易なアルケンから高価値な第3級アルキルアミンを合成する」ための、新しい分子変換法を提示するものであり、新規医薬品の探索を加速する基盤技術として期待されます。

今後の展開

本研究で確立した「ディストニックラジカルを利用することで反応性が低いアルケンを官能基化する」設計は、入手が容易な原料から高価値な構造を、より少ない工程で迅速に合成するための基盤技術になり得ます。今後は、導入できる官能基の種類をさらに拡大することで、より創薬研究に貢献できる技術として整備することを目指します。

用語解説

*1 アルケン
炭素原子同士が二重結合(C=C)でつながった有機化合物の総称。プラスチックの原料などにも用いられる、入手しやすい基本的な化学原料の一つ。
*23級アルキルアミン
窒素原子に、炭素を含む鎖(アルキル基)が3つ結合したアミンのこと。医薬品などに多く見られる基本構造。
*3 生物学的等価体
分子の一部(例:原子や官能基、環構造)を、形や電子的性質が似た別の構造に置き換えても生物活性を保てる、または改善できると期待される「置換後の構造」のこ と。薬効や安全性、体内での安定性などを調整する目的で用いられる。
*4 ディストニックラジカル
分子の中で、ラジカル(不対電子)と電荷(+または)が同じ原子にあるのではなく、離れた別の原子に分かれて存在する特殊なラジカル種。ラジカルの反応性と電荷の性質を組み合わせられるため、通常は反応しにくい結合形成を可能にすることがある。
*5 重水素化
水素(¹H)の一部を、同位体である重水素(²HD)に置き換えること。化学的な性質は似ているが結合がわずかに強くなるため、薬の体内での分解速度や安定性を調整する目的で利用されることがある。

研究助成

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業(JPMJFR242C)、戦略的創造研究推進事業 さきがけ(JPMJPR20D8)の支援により行われました。さらに、日本学術振興会(JSPS)科研費(JP22K20545, JP23K13753, JP24K01492, JP25K18042, JP25K22319)、UBE学術振興財団、武田科学振興財団、アステラス病態代謝研究会、上原記念生命科学財団、および池谷科学技術振興財団の支援を受けました。

論文情報

雑誌名:Journal of the American Chemical Society
論文タイトル:The Synthesis of Tertiary Alkylamines from Alkyl-Substituted Alkenes using Amine Umpolung Strategy
著者:Shumpei Nakatsuka+, Takumi Kinoshita+, Yota Sakakibara*, and Kei Murakami*
+共同第一著者、*責任著者
DOI10.1021/jacs.6c02320
URLhttps://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.6c02320