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2025.12.01

齋木喜美子・教育学部教授が第9回東アジア日本研究者協議会で「日本の児童文学は戦争の記録と記憶をどう紡いできたのか―沖縄戦を題材とした児童文学は、子どもたちの未来に何を届けうるのか」をテーマに発表を行いました

齋木喜美子・教育学部教授が、2025年11月1日から2日にかけ、韓国・春川、楡林大学で開催された第9回東アジア日本研究者協議会において、「日本の児童文学は戦争の記録と記憶をどう紡いできたのか―沖縄戦を題材とした児童文学は、子どもたちの未来に何を届けうるのか」をテーマに発表を行いました。

東アジア日本研究者協議会は、東アジアを中心とした国々の研究者に、多様な分野において蓄積されてきた日本研究の成果を発表・議論する場を提供し、日本研究と日本研究者の国際的交流の発展に寄与することを目的に開催されている国際研究協議会です。本協議会では、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)の人文学分野における重要な課題を探求するパネル企画として、張桂娥氏(台湾・東吾大学)が代表となり、「現代児童文学に見る戦争の記憶と継承」と題するパネルセッションを企画しました。本パネルは2つのセッションで構成され、戦争の記憶が地域と時代を超えてどのように変容し、児童文学に表象されているのかについて、計6名の研究者が発表を行いました。

齋木教授は第1部において、沖縄児童文学の歴史的経緯を踏まえつつ、1960年代半ば以降、児童文学作品が悲惨な戦争体験の記憶を次世代に伝える重要な役割を担ってきたことについて発表しました。特に、「命(ヌチ)どぅ宝」という沖縄の精神を基盤とし、愛国美談ではない真実の語りを追求する使命感が作品の背景にあることを強調し、戦後80年を迎える節目の年として、今後の沖縄戦の語り継ぎの方向性を総括しました。ほかにも第1部では日本から成實朋子氏(大阪教育大学)、台湾から張氏が各国の具体的な作品をあげて戦争の描かれ方と作品の評価を行いました。

第2部ではマリア・エレナ・ティシ氏(イタリア・ボローニャ大学)、フリアナ・ブリティカ・アル・サテ氏(オックスフォード大学)、オリガ・ホメンコ氏(オックスフォード大学)がそれぞれの出身国であるイタリア、コロンビア、ウクライナの児童文学作品を紹介しつつ、児童文学が他者への理解や現在を生き抜くための支えとなる機能、「記憶の力」を通じて希望を描くという共通の機能、子どもたちの人間観形成に深く関わる可能性を持つことなどを論じました。

今回のSGRA企画パネルは、東アジアの戦争記憶の多層的な様相(加害/被害、植民地経験、本土と辺境の差異)を明確にした第1部と、国際社会における暴力とトラウマの普遍的な語り(戦争と災害、進行形の暴力、心理的ケア)を提示した第2部が連携し、補完的な視点を提供しました。各国の児童文学事情や具体的な作品のテーマだけでなく、それぞれの国の社会的背景、歴史を学ぶ機会を提供しました。それだけでなく、児童文学研究が地域研究の枠を超えて、平和学、トラウマ理論、教育学といった学際的な領域と深く結びつく可能性が示唆され、大変有意義なものでした。

 

研究発表をする齋木教授
パネル登壇者

Researcher's Information 研究者情報

教育学部 教授
齋木 喜美子さん

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