【世界初】永久磁石内部の数千個の微小磁石粒子の結晶方位を非破壊3次元観察―高性能磁石の開発を加速する結晶方位イメージング技術を開発―
永久磁石は、電気自動車やエアコン、風力発電設備などに不可欠な材料であり、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、さらなる高性能化が求められています。代表的な永久磁石であるネオジム焼結磁石*1は、直径数マイクロメートルの微小磁石粒子から構成されており、各粒子の結晶軸の方位が磁石性能を大きく左右します。しかし、材料内部の結晶方位*2を直接かつ非破壊で観察する手法はこれまで存在しませんでした。
このたび、関西学院大学工学部の鈴木基寛教授、東北大学多元物質科学研究所の岡本聡教授、諏訪智巳博士研究員(現 産業技術総合研究所)、国立研究開発法人理化学研究所放射光科学研究センターのKim Jaemyung研究員、林雄二郎チームリーダー、矢橋牧名グループディレクターらの研究グループは、大型放射光施設SPring-8*3で開発された3次元X線回折イメージング法(3D-XRD法)*4を用いて、永久磁石材料内部に存在する数千個の微小磁石粒子の結晶方位を、世界で初めて非破壊かつ3次元で可視化することに成功しました。
本成果により、結晶方位と磁石性能の関係を直接評価することが可能となり、高精度な磁石性能予測や材料設計、さらには高性能な永久磁石の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、Elsevier社刊行のオープンアクセス科学ジャーナル『Materials & Design』に2026年7月25日付でオンライン公開されました。
ポイント
- 代表的な永久磁石材料であるネオジム焼結磁石は電気自動車や風力発電などに不可欠な材料であり、その性能は内部の微小磁石粒子の結晶方位に大きく左右される。しかし、材料内部の粒子の結晶方位を非破壊で直接観察する手法はこれまでになかった。
- 大型放射光施設SPring-8の高エネルギーX線を用いた3次元X線回折イメージング法により、永久磁石内部に存在する数千個の微小磁石粒子の結晶方位を、非破壊で3次元可視化することに世界で初めて成功した。
- 本成果により、これまで未解明であった個々の結晶粒がもつミクロな結晶方位情報と、永久磁石のマクロな磁気性能との関係の理解が大きく進展し、次世代の高性能永久磁石開発につながると期待される。
研究の背景と経緯
代表的な永久磁石材料であるネオジム焼結磁石は、Nd2Fe14B主相組成をもつ数マイクロメートルサイズの微小磁石粒子から構成されており、各粒子の直径、形状、結晶方位が磁石性能と密接に関係しています。とりわけ結晶方位については、Nd2Fe14B結晶の[001]軸(c軸)方向にFeやNdといった磁性原子の磁気モーメント*5が向きやすい性質があるため、材料の製造過程において磁場中で粒子の配向を制御しています。この処理によって、磁石粒子の結晶軸 c軸がほぼ平行に揃い、強力な磁力をもつ高性能な永久磁石材料が得られます。
しかし、粒子の結晶方位分布は磁石性能と密接に関係しているにも関わらず、実際に材料内部の粒子がどのような結晶方位を持っているのかを直接評価する手法は存在せず、これまでは材料全体の磁気特性や試料表面の電子線後方散乱 (EBSD)*6観察から間接的に推定するしかありませんでした。このため、内部の結晶方位を非破壊で3次元的に観察できる手法の実現が望まれていました。
研究成果
関西学院大学、東北大学多元物質科学研究所、理化学研究所放射光科学研究センターから成る研究グループは、大型放射光施設SPring-8 BL29XUにおいて、3D-XRD法(傾斜軸配置走査型3次元X線回折顕微法)を用いた、商用のネオジム焼結磁石試料の測定を行いました。N52と呼ばれるこの材料は、磁石性能の指標である最大エネルギー積52MG.Oeという高い値を示します。この磁石試料を機械研磨することで厚さ40μmの板状に加工して測定しました。
図1に実験セットアップを示します。直径数ミクロンの磁石粒子を鮮明に観察するために、KBミラー素子を用いて、ビーム径 1.8×1.0μmの高エネルギー単色集光X線ビームを生成しました。このビームを試料に照射することで、試料後方の画像検出器に多数のX線回折斑点から成る画像データが得られます。試料を45度傾斜させた回転軸の周りに360°回転させ、またX線の照射位置を水平(X)、垂直(Z)方向に走査することで、数千個の微小磁石結晶の結晶方位の情報を含む、約26万枚もの回折画像データを取得しました。
得られた多数の画像データに対して、研究グループが独自に開発した多結晶指数付けと呼ばれる3次元再構成アルゴリズムを適用することで、図2(a)に示すように3次元の微小磁石結晶の位置と、その結晶方位を色で示したIPFマップを得ることに成功しました。図2(b)に示すのは、同じ試料の表面の結晶方位分布をEBSD法により観察した結果です。黄色い点線の円で示しているのが3D-XRDの観察領域ですが、結晶の形状や結晶方位が非常によく一致していることが分かります。この結果から、今回の3D-XRD測定では、表面の結晶方位分析手法として確立されたEBSDと同等の精度で結晶方位が決定でき、加えて試料内部の結晶方位や立体的な粒子形状を非破壊で観察できることが示されました。
図2(c)には3D-XRDの3次元マップからAからDと名付けた4個の粒子を取り出して示しました。それぞれの粒子の結晶方位を図2(d)に示しています。この結果から粒子直径は3μmから6μmであり、形状や直径に違いがあるものの、4つの粒子で結晶軸のc軸 [001] が製造時の容易磁化方向であるx方向を向いて揃っており、それと直交する[100]や[110]方向はランダムに分布していることが分かります。また、Cの粒子は他の粒子よりも容易磁化方向に対して傾いており、配向性が低いことも明らかです。
(b)EBSD法で測定した試料表面の結晶方位分布像。黄色の円に囲まれた領域が(a)の3次元方位マップと対応している。
(c)3次元結晶方位マップから抽出した代表的な4つのNd2Fe14B微小磁石粒子の形状。色は結晶方位を示す。
(d)磁石粒子AからDの結晶方位の比較
ここでは、観察領域の一部を示しましたが、研究グループは、全観察領域が約320,000µm3の体積に対して、ボクセルサイズ0.125µm3(0.5×0.5×0.5µm)という高い空間分解能で結晶方位分布を決定できた点も本研究の大きな特色です。この観察領域には2,000個以上の微小磁石粒子が含まれており、このように多数の粒子に対して個々の結晶方位、重心座標、直径、形状を特定できました。このデータに基づき粒径や方位の統計的な解析、パラメータ間の相関解析、粒子間の直径や結晶方位との相関解析も可能となりました。
今後の展開
本研究により、永久磁石材料の内部の微小磁石粒子の結晶方位を3次元的に可視化することに成功しました。今後の課題としては、第一に、粒子同士の境界に図2(c)に示されるように細かい凹凸があり、これは実際の滑らかな粒子形状とは合致していない点が挙げられます。実験データのノイズや3次元再構成過程での計算誤差によるものと考えられるため、より現実に近い粒子形状を再現するための実験手法やアルゴリズムの改良が必要です。第二に、ネオジム焼結磁石には主相Nd2Fe14B粒子の間に、ネオジムに富む別の組成の副相が混在している点が挙げられます。この副相の情報は今回の解析では考慮されておらず、より精度の高い解析には副相のデータも取り入れる必要があります。第三に、集光X線ビーム径をより小さいサブミクロンサイズに縮小することで空間分解能を向上し、最先端の微細結晶粒磁石や熱間加工磁石に適用可能とすることも課題として挙げられます。
今後は、本手法を磁気特性や配向度の異なるネオジム焼結磁石に適用することで、ミクロな結晶方位分布から磁気特性の起源の探求を進めていきます。これにより、観測結果に基づくマイクロ磁気シミュレーション*7による高い精度での磁石性能予測や材料設計が可能となることが期待されます。さらに、X線磁気トモグラフィー*8や3次元走査電子顕微鏡(SEM)解析と統合し、機械学習などの計算科学手法を併用することで、磁区構造・組織構造・結晶方位の3Dマルチモーダル解析へ発展させていく計画です。
研究助成
本研究は日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP22H01368、JP23K22639、JP24H00303、JP25K01127)を受けて実施されました。また、本放射光実験は理化学研究所の承認を受け、理研ビームラインBL29XUにおいて実施されたものです(課題番号20220066, 20230059、20240025、20240063、20250070、および20250082)。
用語解説
*1 ネオジム焼結磁石
Nd2Fe14B化合物を主成分とする世界最高性能の永久磁石。1982年に佐川眞人博士(現 大同特殊鋼株式会社顧問)によって開発された。
*2 結晶方位
結晶方位は、結晶中の特定の方向に沿った原子配列を指定するために用いる指標であり、3次元の結晶では[001]など3つの指数の組み合わせで表される。本研究で用いたNd2Fe12B結晶では、[001]方向の格子間隔がそれに直交する [100]や[010] 方向よりも長く、[001]方向にFeおよびNdの磁気モーメントが向きやすいという性質を持つ。[001]方向はc軸ともよばれ、c軸が磁化容易軸となる。
*3 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある、世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設。その利用支援等は高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8ではこの放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究を行っている。
*4 3次元X線回折イメージング法(3D-XRD法)
多結晶試料に対して、異なる試料角度からのX線回折パターンを多数枚取得することで、試料内部の結晶方位分布のイメージングを行う手法。本研究では、マイクロメートルサイズに集光したX線ビームを用いて、板状試料の解析に適した傾斜軸配置走査型3次元X線回折顕微法を採用した。
*5 磁気モーメント
磁性体には、FeやCo、希土類元素など不対電子スピンをもつ原子が含まれている。電子スピンはそれ自体がミクロな磁石として振る舞うため、上記の原子もまた磁石としての性質を持ち、原子一個あたりの磁石の強さを原子磁気モーメントとよぶ。
*6 電子線後方散乱回折(EBSD)
走査型電子顕微鏡(SEM)に搭載されている機能の一つであり、電子回折に伴って発生した回折スポットパターン(菊池パターン)を取得することで試料表面の結晶方位のマッピング解析を行う材料評価手法。EBSDは表面の観察に用いられるが、材料内部を非破壊で観察することはできない。材料の表面をGaイオンなどで削りながらEBSD測定を順次行うことで、材料内部を破壊的に観察する3次元EBSD という手法も開発されている。しかし、ネオジム焼結磁石に対しては、Gaイオンの照射による表面の構造ダメージや欠陥の導入が避けられないため、破壊観察であっても磁石内部の結晶方位分布を得ることは不可能であった。
*7 マイクロ磁気シミュレーション
磁化の動力学方程式に基づいて、有限サイズの磁性体における磁化挙動を計算する手法。
*8 X線磁気トモグラフィー
コンピュータトモグラフィー (CT) とはX線などを用いて被測定対象の透過像をいくつかの角度から取得し、透過像から元の情報(被測定対象物の内部)をコンピュータによって再構成計算により画像化する手法を指す。病院などで断層画像診断に用いられるCTスキャンは、X線の吸収率を使って画像化するものである。磁性材料では磁化の向きに応じてX線の吸収率に差があり、この差を用いることで磁気情報によるトモグラフィーが可能となる。
論文情報
タイトル:Non-destructive three-dimensional orientation mapping of Nd–Fe–B permanent magnets
著者:Jaemyung Kim, Yujiro Hayashi, Tomomi Suwa, Akiyama Yusuke, Takuya Taniguchi, Kousuke Katou, Kaiki Takemura, Satoshi Okamoto, Motohiro Suzuki, Makina Yabashi
掲載誌:Materials & Design
巻号・頁:Volume 269, 116671 (2026)
DOI:10.1016/j.matdes.2026.116671
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0264127526012463