K.G.

生成AIによる助言が会計・監査の倫理的判断へ与える影響を分析―人間の専門家による助言と同等レベルで規範的判断へ導くことを実証―

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関西学院大学(兵庫県西宮市、学長: 森康俊 (もりやすとし) )商学部の 菅原智 (すがはらさとし) 教授、県立広島大学(広島県広島市、学長: 森永力 (もりながつとむ) )地域創生学部地域創生学科経営コースの 加納慶太 (かのうけいた) 講師らの研究グループは、生成AIからの助言が、会計・監査における倫理的判断へ与える影響について実験研究を行い、生成AIによる助言が利用者の倫理的判断をより規範的(Deontological*1な方向へ導くことを明らかにしました。
近年、企業実務や会計・監査業務への生成AIの導入が急速に進んでいます。一方で、生成AIが専門家の判断にどのような影響を及ぼすのかについては十分な実証研究が行われていませんでした。本研究では、会計・監査に関する倫理的ジレンマを題材とした実験を実施し、参加者に対して助言なし、ChatGPTによる助言を提示、人間の専門家による助言を提示、という3つのパターンで比較分析しました。その結果、②ChatGPTによる助言は、③人間の専門家による助言と同程度に倫理的判断へ影響を及ぼし、利用者が規則や職業倫理を重視した判断を行う傾向を高めることが確認されました。さらに、生成AIに対する信頼性(Algorithm Appreciation)が高い参加者ほど、その影響が強く現れることも明らかとなりました。本成果は、生成AIが会計・監査専門職の意思決定支援ツールとして有効に活用できる可能性を示すとともに、AI時代に求められる会計教育や職業倫理教育の在り方に重要な示唆を与えるものといえます。
本研究成果は、国際的な学術誌である「Journal of Business Ethics」に2026610日付でオンライン掲載されました。

ポイント
  • 生成AIによる助言が会計・監査における倫理的判断へ与える影響を実証的に分析しました。
  • 生成AIの助言は、人間の専門家による助言と同程度の効果を示しました。
  • AIへの信頼性が高い利用者ほど、生成AIの助言を受け入れやすいことを明らかにしました。
  • AI時代における会計教育・職業倫理教育への重要な示唆を提供しました。
研究の背景

生成AIの急速な普及により、企業では財務分析、監査、税務、経営判断など様々な場面でAIが利用され始めています。しかし、生成AIによる助言が専門家の倫理的判断に与える影響については十分な学術的知見が蓄積されていませんでした。会計・監査では、法令や会計基準だけでは判断できない倫理的ジレンマに直面する場面が少なくありません。そのため、生成AIの助言が人間の専門的判断を支援するのか、それとも異なった方向へ導くのかを明らかにすることは、実務と教育・研究の双方にとって重要な課題となっています。

詳細な研究成果

本研究では、大学生を対象とし、連結会計の実務に潜む企業倫理ジレンマを含むシナリオを用いて大規模な実験を行いました。実験では、参加者を①助言なし、②ChatGPTによる助言を提示、③人間の専門家による助言を提示、のいずれかの条件に割り当て、それぞれの判断結果を比較しました。
分析の結果、以下の3点が統計的に確認されました。
1.     ChatGPTによる助言は会計に関わる意思決定者の倫理的判断を有意に変化させること
2.     その効果は人間の専門家による助言と同じく規範的(Deontological)な方向へ導くこと
3.     AIへの信頼性が高いほど、その影響も大きくなること
これらの結果は、生成AIが単なる情報検索ツールではなく、専門職の判断形成そのものに影響を及ぼすことを示しています。

今後の展望

すでに別のシナリオを用いた研究プロジェクトも開始しており、新たな統計的結果が得られています。例えば、意思決定者にとって金銭的誘惑が高いシナリオにおいては、人間の専門家による助言とChatGPTによる助言の内容が異なり、ChatGPTによる助言を受けた意思決定者は、成果物や数値的なアウトカムを重視する結果主義的(Consequentialism*2な判断をとる傾向が統計的有意に示されました。一方で、人間の専門家による助言を受けた意思決定者は、逆に規範的な判断をとる傾向が統計的有意に示されました。今後は、より多くのシナリオ類型を用いた調査を行い、より一般的な結論を導き出したいと考えています。さらに、公認会計士、税理士、企業経理担当者など実務家を対象とした調査を進めることで、AI時代に求められる新たな職業倫理教育や専門職教育の構築へ貢献することをめざします。
また、本研究を日本だけでなく欧州諸国などへ拡張し、文化や会計教育制度の違いが生成AIの利用へ与える影響についても比較分析する予定です。

研究助成

本研究は、国際共同研究加速基金(海外連携研究)(課題番号:24KK0035)の支援により行われました。

用語解説

*1規範的(Deontological
結果の良し悪しよりも、「ルールや法律、職業倫理、社会的責任などの規範を守ること」を重視して行う判断のこと。会計・監査では、たとえ企業に利益をもたらす結果になる場合でも、会計基準や倫理規範に反する行為は避けるべきという考え方に基づく。
*2結果主義的(Consequentialism
ルールそのものよりも、「その判断によって生じる結果や利益」を重視して行う判断のこと。例えば、企業価値や雇用維持など望ましい結果が得られるのであれば、その判断を正当化できると考える立場である。会計・監査の場面では、規範や職業倫理とのバランスを考慮することが求められる。

論文情報

雑誌名:Journal of Business Ethics
論文タイトル:The Impact of ChatGPT's Advice on Professional Judgment Related with Accounting and the Role of Accounting Education
著者:Satoshi Sugahara *, Keita Kano 
*責任著者
DOIhttps://doi.org/10.1007/s10551-026-06365-x
URL
https://link.springer.com/article/10.1007/s10551-026-06365-x?utm_source=rct_congratemailt&utm_medium=email&utm_campaign=oa_20260610&utm_content=10.1007/s10551-026-06365-x