K.G.

次世代光学素子の性能を微小領域で評価する新たな顕微分光評価技術を開発
―数十マイクロメートル領域の解析がXRの未来を拓く―

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関西学院大学(学長:森康俊)工学部の吉田浩之准教授らの研究グループは、XRAR/VR)機器に用いられる次世代回折光学素子*1Pancharatnam-Berry位相光学素子(PBOE)」の回折効率を微小領域で可視化する新しい顕微分光評価技術*2を開発しました。本技術により、従来の測定手法では困難であった数十マイクロメートル領域での回折効率評価が可能となり、微細欠陥*3や素子内部の性能分布を定量的に解析できるようになりました。
本研究成果は、情報ディスプレイ分野における国際的な学術誌「Journal of the Society for Information Display」に202644日付で掲載されました。また、58日にロサンゼルス国際会議場で開催された、ディスプレイ分野での世界最大級の国際会議「Society for Information DisplaySIDDisplay Week 2026」において、採択論文の上位約5%に授与される Distinguished Paper Award を受賞しました。

薄型・高機能な次世代光学素子Pancharatnam-Berry型回折素子の新しい評価法を開発
ポイント
  •  XR機器やセンサ向けの超薄型光学素子「Pancharatnam-Berry位相光学素子」の性能を微小領域で評価する新手法を開発しました。
  •  10マイクロメートルの配向欠陥(材料の物理的特性に重要な影響を与える欠陥)が回折効率に与える影響を定量的に評価しました。
  • レンズ内部の回折効率分布を可視化し、高性能化や量産時の品質管理に活用することが可能となります。
研究の背景と経緯

近年、XRExtended Reality)技術の発展に伴い、軽量かつ高性能な光学素子への需要が急速に高まっています。なかでもPancharatnam-Berry位相光学素子(PBOE)は、液晶などの異方性材料*4の配向が平面基板上で周期的に回転した構造をもつ、薄膜の回折光学素子です。PBOEは数ミクロンと薄型であることに加え、入射偏光*5依存した特性を示すことなどから、ARグラスやVRヘッドセットのレンズや光センサなどへの応用が期待されています。
PBOEの実用化に向けては、高い回折効率を広い波長帯域で実現することが重要な課題となっています。広帯域で回折動作を実現するため、様々な積層構造をもつPBOEが提案されてきましたが、近年、PBOEの回折効率が膜構造だけでなく、基板に形成されたパターンの周期にも依存することが示されました。これは、レンズ機能をもつPBOEPBレンズ)など、パターン周期が素子内で空間的に変化する場合には、パターン周期の空間分布を考慮して回折効率を最適化しなければならないことを意味します。さらに、PBレンズでは場所によって性能が異なるため、従来のミリメートルサイズの光ビームによる評価では局所的な性能を正確に測定することが困難でした。PBOEの回折効率を正確に評価するためには、素子面内の回折効率を細かく分光計測する手法が必要とされていました。(図1

図1: PBOEの模式図と光学効果の様子および今回開発した技術の概要
図1: PBOEの模式図と光学効果の様子および今回開発した技術の概要
研究成果

本研究ではまず、PBOEのパターン周期が回折効率に及ぼす影響を理論計算により解析し、パターン周期が短くなるにつれて回折効率が低下することを明らかにしました。論文などで公知となっている複数の積層構造を採用して検討を行い、パターン周期が長くて類似の回折特性を示す場合においても、パターン周期が短くなると、その挙動は異なることを示しました(図2)。このことは、素子特性の最適化には、素子に形成されるパターンも考慮した上で膜構造を設計する必要があることを示しています。また、PBレンズのようにパターン周期が素子面内で変化する場合には、回折効率を正しく理解するために、素子面内の各々の微小な領域で回析効率を測定する必要があることを意味します。

図2: PBOEの回折効率のシミュレーション解析結果
図2: PBOEの回折効率のシミュレーション解析結果

研究グループは、顕微光学系に特殊なフィルターを挿入することで、光の進行方向と偏光状態を選択して測定する独自の「顕微回折分光法」を開発しました。この手法により、100マイクロメートル以下の小さな領域において回折効率を波長ごとに分光計測することが可能になりました。
また開発した評価装置を用いて、液晶配向欠陥を有する試料を測定した結果、直径約10マイクロメートルの欠陥が回折効率や波長特性に与える影響を明確に捉えることに成功しました。加えて、PBレンズの面内マッピング測定を行い、レンズ内部における回折効率の空間分布を可視化しました(図3)。その結果、波長によって最適な性能を示す位置が異なることや、周辺部で回折効率が低下する傾向を明らかにしました。

図3 : 本研究による評価結果。(上)欠陥の有無によって特性が変わることが定量評価できた。 (下)PBレンズ素子の回折効率の空間マップ生成結果。
図3 : 本研究による評価結果。(上)欠陥の有無によって特性が変わることが定量評価できた。
(下)PBレンズ素子の回折効率の空間マップ生成結果。
今後の展開

このたび開発した技術は、従来評価が困難であった空間変調型の回折光学素子の性能分布を定量的に可視化できる点に特徴があります。今後は、XR向け光学素子の設計最適化や高性能化を加速するとともに、製造工程における品質管理技術としての活用が期待されます。さらに、液晶回折光学素子に限らず、メタサーフェスやホログラフィック光学素子などの次世代光学デバイスの汎用的な計測技術としての応用も視野に入れています。

研究助成

本研究は、文部科学省科学研究費補助金(23K26573)、NEDO Go-Tech ProgramJST A-STEPJPMJTR222E)の支援を受けて実施されました。

用語解説

*1 回折光学素子
眼鏡のレンズが屈折によって光の進行方向を変えるのに対し、微細な構造によって生じる回折と干渉を利用して光を制御する光学素子。池に石を投げ入れると波紋が生じ、杭などの障害物にぶつかると回り込むように進む(回折)が、杭が複数ある場合には波が重なり合い(干渉)、特定の方向に強まったり弱まったりする。回折光学素子は同様の原理で光の波を制御し、レンズや光偏向器などの機能を実現する。

*2 顕微分光評価技術
顕微鏡と分光器と呼ばれる装置を組み合わせて、試料の微小領域における物質の光学的な性質を波長ごとに定量分析する技術。本技術では、波長ごとの回折効率を計測している。

*3 微細欠陥
肉眼では確認できないほど小さな傷や空洞、結晶構造の異常など、製品や材料の性能に影響を与える微小な欠陥のこと。

*4 異方性材料
液晶はテレビやスマートホンの画面に使われているが、学術的には棒状の分子が集まり、筆箱の中の鉛筆のように向きを揃えた分子材料である。棒状分子が向きを揃えて配列すると、方向によって流れやすさが変わったり、電流の流れやすさが異なったり、光の偏光*5によって屈折率が異なったりする。このように、方向によって物理的・電気的・光学的特性が異なる材料を異方性材料という。

*5 偏光
光は進行方向に垂直な面で電界と磁界が振動する電磁波であるが、偏光はその電界の振動方向を指す。縦・横などの直線的な偏光状態に加え、なわとびの縄のように楕円状の軌跡を描きながら振動する偏光状態がある。

論文情報

タイトル:Diffraction Efficiency Mapping of Pancharatnam‐Berry Diffractive Optical Elements
Pancharatnam‐Berry回折光学素子の回折効率マッピング)

著者:Hiroyuki Yoshida*, Taiki Yoda
   *責任著者

掲載誌:Journal of the Society of Information Display, volume 34, pages 461-470 (2026).

DOI10.1002/jsid.70052

URLhttps://sid.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jsid.70052