K.G.
2026.05.08 [プレスリリース]

日米比較でみた感染予防ポスターの効果と副作用
—正当化メッセージは行動を促すが、反発も招きうる—

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関西学院大学(兵庫県西宮市、学長:森康俊)社会学部の小林智之准教授、大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)の村上道夫教授、三浦麻子教授(同大学院人間科学研究科教授兼任)の研究グループは、感染予防を呼びかけるポスターに添えられる「なぜその行動をとるべきか」というサイドメッセージが、人々の感染予防行動の意図や、異なる意見をもつ人々への態度、ポスターそのものの受け止め方にどのような影響を及ぼすかを明らかにしました。
その結果、サイドメッセージの効果は国や受け手のもともとの感染予防傾向によって異なり、日本では社会規範*1に追加の理由を組み合わせたメッセージ、米国では公衆衛生を強調するメッセージが行動意図を高めやすいことが示されました。一方で、感染予防に消極的な人々には、こうしたポスターが強制的・ストレスフルに受け取られやすいことも明らかになりました。これは、感染予防メッセージの設計において、行動促進の効果だけでなく、反発やスティグマ*2、社会的分断を強めない配慮も重要であることを示しています。
本研究成果は、Elsevier社が刊行する国際学術誌「SSM - Population Health」に2026年4月20日付で掲載されました。

ポイント
  • 感染予防ポスターに添えるサイドメッセージの効果は、国や受け手のもともとの感染予防傾向によって異なる。
  • 感染予防に前向きな人々では、日本では社会規範に追加の理由を組み合わせたメッセージ、米国では公衆衛生を強調するメッセージが、行動意図を高めやすい。
  • 感染予防に消極的な人々には、ポスターが強制的・ストレスフルに受け取られやすい。
  • 感染予防を呼びかける視覚的メッセージは、反発やスティグマを強めないデザインに配慮することも必要である。
研究の背景と経緯

感染症が広がる際、行政や専門機関は、手洗いやマスク着用などの感染予防行動を促すために、ポスターにより広報メッセージを発信します。こうしたメッセージには、単に「何をすべきか」を示すだけでなく、「なぜそれをすべきか」を説明する正当化の言葉が添えられることがあります。たとえば、自分や他者を守るため、公衆衛生のため、社会規範に従うため、といった理由です。
しかし、こうした正当化の言葉は、感染予防行動を促す一方で、異なる考えをもつ人々への否定的感情や社会的分断を強める可能性もあります。そこで本研究では、感染予防を促すメッセージが、人々の行動意図だけでなく、意見の異なる他者への態度や、ポスターそのものの受け止められ方にどのような影響をもつのかを検証しました。

研究成果

研究グループは、2024年9月、11月、12月に、日本と米国で3回の反復横断調査*3をオンラインで実施しました。参加者には、手洗いとマスク着用を呼びかけるポスターを提示し、その際、行動を正当化するサイドメッセージとして、「あなたとあなたの周りの人が感染することを防ぐ」(自他の保護)、「社会全体で感染者や死亡者が増える可能性を減らす」(公衆衛生)、「多くの人がマスクや手洗いをしています」(社会規範)、あるいはこれらを組み合わせた説明を加えました(図)。
その結果、日本では、もともと感染予防に前向きな人々に対しては、社会規範を強調するメッセージに、自他の保護や公衆衛生を組み合わせたメッセージ(図-D, E)が行動意図を高めやすいことが示されました。米国では、もともと感染予防に前向きな人々に対しては、社会全体の健康を守るという公衆衛生的な意義を強調するメッセージ(図-B)が比較的有効でした。一方で、感染予防に消極的な人々では、公衆衛生的なメッセージに社会規範を組み合わせたもの(図-E)が、社会規範のみのメッセージよりも行動意図を高めることが示されました。
また、これらのポスターは、特に感染予防に消極的な人々にとって、強制的でストレスフルなものと受け取られやすいことも明らかになりました。これは、感染予防行動を促す広報が、少数派への批判や反発を強めないよう慎重に設計される必要があることを示しています。

図:本研究で使用したポスター。マスクと手洗いの推奨とともに、その感染予防行動を正当化するメッセージが添えられた。A:自分と他者の保護による正当化。B:公衆衛生的観点の正当化。C:社会的規範による正当化。D:自分と他者の保護+社会的規範による正当化。E:公衆衛生的観点+社会的規範による正当化。なお、アメリカでの調査では英語版のポスターを使用した。
今後の展開

本研究は、感染予防を促すメッセージの効果が、国や文化的背景だけでなく、受け手がもともとどの程度感染予防に前向きであるかによっても異なることを示しました。今後は、こうした違いを踏まえ、どのようなメッセージが行動を促しつつ、反発やスティグマ、社会的分断を強めにくいのかをさらに明らかにしていく必要があります。特に、感染予防に消極的な人々に対しては、単に平均的な効果が高いメッセージを選ぶだけでなく、強制的で押しつけられているように受け取られにくい表現や、自律性に配慮した伝え方を検討することが重要です。感染症に限らず、災害や公衆衛生的危機全般におけるリスクコミュニケーション*4へと対象を広げ、より包摂的で対立を生みにくい広報の設計に貢献することを目指します。

研究助成

本研究は、2023 年度 CiDER 部局横断型「感染症」研究促進プログラム、日本財団・大阪大学 感染症対策プロジェクトの支援により行われました。

用語解説

*1 社会規範
 ある集団や社会の中で、多くの人で共有されている、あるいは望ましいと考えられている行動や判断のこと。
*2 スティグマ
 特定の属性や立場、行動をもつ人に対して向けられる否定的な評価や偏見のこと。
*3 反復横断調査
 同じ集団に属する異なる対象者に、複数時点で実施するオンライン調査のこと。
*4 リスクコミュニケーション
 感染症や災害などの危機に関する情報を、行政や専門機関と市民のあいだで共有し、行動の判断に役立てるための伝達や対話のこと。

論文情報

タイトル:Side messages, side effects: Justifying infection prevention but fuelling social polarisation
著者  :Tomoyuki Kobayashi*, Michio Murakami, Asako Miura
       *責任著者
掲載誌:SSM - Population Health
DOI  :10.1016/j.ssmph.2026.101922
URL  :https://doi.org/10.1016/j.ssmph.2026.101922