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2026.05.28

2025年度個人特別研究費研究成果報告(石原俊彦・経営戦略研究科教授)

英国政府の公監査政策と公検査政策-わが国自治体の財政民主主義への示唆

本研究の着眼点

地方自治体における公検査と公監査は、自治体等における政策形成に寄与する有用な分析データを提供する手法、すなわち、政策科学の一つであると捉えることが重要です。公検査と公監査のロジックを政策科学としてより一層効果的に導入するには、自治体が置かれている監査環境を理解し、それに合致した検査と監査のフレームワークに準拠して、内部統制手法の導入を検討(あるいは、体系化)することが重要です。1990年代以降、英国では地方自治体等の公検査と公監査の構築には、内外環境の変化を踏まえたNPM (New Public Management)という公共部門の経営理論が導入されてきました。NPMは従前の行政管理と比較すると、住民を顧客として位置づける斬新な発想をもち、顧客志向や競争原理、成果志向などの原理までも公共部門に展開されています。こうした英国流の公検査と公監査の理論と実践を、どのようにわが国自治体の財政民主主義と関連付けるかが、本研究の着目点です。

本研究の学術的な特徴

本研究の学術的な特徴は、以下の10件の学術的な研究課題の解決に取り組むことです。これらは、以前に採択された科研費研究の研究期間において取り組んだ英国の公検査と公監査に関する融合研究とその外延で、新たな研究課題として認識されたものであり、新たなリサーチ・クウェスチョンです。

①英国政府監査委員会の設置と廃止の理由
②同監査委員会の34年間の活動内容(特に、公監査政策と公検査政策の推進母体として果たした役割)
③包括的業績評価(CPA)制度の詳細なシステム把握
④BVPI(Best Value Performance Indicator)の詳細な分析と関連業績指標との整理・構造化
⑤CPA制度の本質(政府による自治体への中央統制か否か)の検証
⑥包括的業績評価の高い自治体の英国政府の優先政策との関連性
⑦VFM(Value For Money)監査(公監査政策)とCPA制度(公検査政策)が政府の公的ガバナンス政策として目指すべきす方向性
⑧両政策が自治体におけるアカウンタビリティの拡充に貢献できる可能性の解明
⑨連合王国イギリスとしての公監査政策と公検査政策の本質の解明
⑩わが国にCPA制度のような公検査制度を導入する意義・有用性と課題の集約

なお、これらの考察は基研究課題に「基礎理論と実務実践」の視点を加えることで本研究課題として申請するものです。

本研究の結論

2005年頃から公共経営のフレームワーク研究において、NPMは自治体内部の利害関係者への働きかけには積極的である一方で、自治体外部の利害関係者への働きかけが不十分なのではないかという指摘がなされてきました。外部環境の変化を常に意識しつつも、働きかけの対象を内部の主体を中心としている点が、NPMの今日的な課題であり、これを克服する公検査と公監査のフレームワークが求められようとしています。このことは、地方自治体においては特に重要で、強く意識すべきは外部環境の変化です。すなわち、インターネットの普及やSNSを活用する住民・政治家・NPO(NGO)等が顕著に増加してきたことで、現代社会は多様な価値観が瞬時に世界中を駆け巡り、さまざまな意見が発信されている状況にあります。たとえば、高度経済成長の時代には、住民の多くが同じ夢を追求していたのに対して、今日では多様な価値観が存在しており、自治体経営においても、個々の住民が行政に対して期待する内容も、非常に多様化しています。価値は主観的なものであり、この多様な価値を自治体は行政活動を通じて実現してゆかねばならないことが本研究では明らかにされました。ここにおいて、NPG (New Public Governance) という多様な価値の創造(Value Creation)とその方法論としての共創(Co-Creation)を実現する公共経営の手法が2010年前後に誕生したことと本研究の結論は一致しています。ポストNPM時代のNPGを提唱したのは2025年に関西学院大学に客員教授として招聘されるエジンバラ大学の Dr.Stephen Osborne教授です。Osborne教授は、自治体における価値共創で重要なことは、住民と行政の交渉(negotiation)であり、行政が果たすべき責任は、NPM時代の「結果責任」からNPGでは「プロセス責任」に変化していると主張されています。そして、プロセス責任を遂行するには、住民と行政の接点である情報公開や情報提供のプロセス(広義の財務報告のプロセス)を、自治体内部の公検査や公監査のデータと連動させることが重要であると主張されています。本研究では、こうした教授の示唆に追加するものとして、外部報告を取り上げ、外部報告である統合報告(Integrated Reporting)と公検査や公監査との有機的な関連付けが、公共サービスのイノベーションと財政民主主義には不可欠であることを解明しました。本研究はOsborne教授の一連の問題意識の外延として企図し構想され実現されたもので、その学術的意義は非常に大きいと考えられます。

(左)石原俊彦教授(右)Stephen Osborne 教授 石原教授はUniversity of Edinburgh Business School Honorary Professor を兼任

Researcher's Information 研究者情報

経営戦略研究科 教授
石原 俊彦さん

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