Interviews 研究者 社会を支える仕組みを、防災の現場から描いていく
Introduction紹介文
巨大地震をはじめとする自然現象によって災害が繰り返し発生する日本において、防災・減災研究は暮らしを支える重要な学問分野です。建築学部の照本教授は、工学分野を出発点に災害時の対応や復興までを含めた「災害対応システム」の研究に取り組んできました。能登半島地震の被災地調査や、南海トラフ地震を見据えた事前防災の研究など、現場に立ち続ける研究姿勢に込める熱意とは。照本教授が見つめる防災研究の意義と、その展望を聞きました。
大きな構造物への憧れが人の暮らしを守る研究へと変わった
少年時代、大規模な建設事業に強い憧れを抱き、高校生の頃は大鳴門橋や明石海峡大橋といった巨大構造物を眺めては、そのスケールや技術力に胸を躍らせていました。そして大学では土木工学を選び、構造物をつくる側の視点から社会基盤について学びました。ところが学びを深めるにつれ、単に“大きく・強くつくること”だけでなく、それらが都市の中でどのようにつながり、人々の生活の中でどういった役割を果たすのかという空間的なシステムに関心が移っていきました。そんな中、関東大震災を扱った書籍を読み、災害が都市や人の暮らしに与える影響の大きさを強く意識するようになったことが、現在の研究へとつながる発端に。決定的だったのは、1995年の阪神・淡路大震災の発生です。この経験を通して、防災とは構造物を強くすることだけではなく、人々や社会の仕組み全体で災害に向き合うことだと痛感。災害大国である日本において、防災・減災研究は人命と日常を守るために不可欠な分野だと、強く考えています。
被災地で学び、社会へ還元する。
現場と研究をつなぐ防災の実践
研究では、災害が起こる前の予防策と、災害発生後の対応の両面を対象にしています。
今注力しているのが、2024年1月に発生した能登半島地震の被災地調査。この調査はゼミの学生と共に実施し、学生たちと地域を歩いて、被災された方々の声を直接伺いました。私たちが注目したのは、仮設住宅に入らず、自宅で生活を続けている方々の状況です。家屋の被害が一部損壊や準半壊であっても、生活上の困難は少なくありません。しかし、このような方々は支援や調査の対象からこぼれ落ちやすいのが現状です。現在の生活環境や、どういったことに困っているのか、また今後の不安や要望について丁寧に記録しました。被災地の方々へのヒアリングで留意しているのは、質問が過度にならないように配慮すること。センシティブな話題を扱うので、言葉運びを慎重に、また不用意に踏み込まないように、学生たちにも意識を共有して臨んでいます。こういった調査結果は論文としてまとめるだけでなく、有用な情報は回覧板などで地域の方々へ共有したり、自治体にも提出して具体的な対策提言につなげたりしています。
また予防策の研究では、南海トラフ地震を想定した事前防災のフィールドワークを実施。和歌山県印南町切目地域を対象に、もしものときの避難生活への不安や性別による認識の違いを調査し、緊急対応から復旧・復興までを一連の流れとして捉える必要性を明らかにしました。
問い続ける姿勢こそが防災研究を前進させる力になる
研究者というとコツコツと研究を進めている姿を想像されがちですが、実際は悩みの連続です。特に私の研究では、複雑な災害の課題をどう構造化するかが大きな壁になりがち。それでも試行錯誤を重ねながら考え続けることこそが、研究の面白さでもあります。
将来の目標は、災害対応システム全体をアップデートすること。事前防災から災害発生後の緊急対応、避難生活、復旧・復興までの“時間経過に応じた一連の対応プロセス”がより良く連動する仕組みを実現したいと考えています。特に事前防災の強化は、災害発生後の被災者の負担軽減に大きく貢献するので、そこからの連動強化を含めて社会における災害対応システムを捉え直したいです。
大人数で挑んだ能登半島での調査。
研究と教育を同時に前に進める新たな一歩
能登地方での実地調査では、19人のゼミ生を連れて現地に入りました。これほど多くの学生と遠方で調査を行うのは初めてで、私自身にとっても大きな挑戦。移動時の安全管理や、住民の方々に配慮した関わり方など、学生への指導にはこれまで以上に気を配りました。現在は学生と共に調査結果の整理に取り組んでいて、今後も継続的に調査を行えるよう、より良い進め方を模索しています。