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Interviews 研究者 社会・経済の進化を導く「万有引力」を見つける。

図斎 大教授
掲載日:2026.03.31
経済学部

Introduction紹介文

図斎先生の研究領域は「進化ゲーム理論」。その中でも様々な数理モデルに共通して働く、物理学でいう万有引力のような統一的な理論を立てることを、先生自身のテーマとされています。自身の研究がAIと人の共存する未来へと貢献していく期待を寄せる中、講義では数式の意味を丁寧に読み解くことを教えられています。ゼミでは更にプログラムやゲームデザインといったモノづくりとして表現することに取り組まれています。

ゲーム理論は経済から生物まで様々な駆け引きを分析する。様々な進化の背後にある統一理論を立てることが研究課題。

ゲーム理論とは、「駆け引き」全般を分析する学問です。駆け引きは,実際にも理論上も経済の根本ですし、また国家間などの政治・外交でも、SNSでのコミュニケーションでも、あるいは生物の生存競争・淘汰でもカギになります。そこで自分の戦略を立てる時に、ゲームのように相手の出方を予想しますよね。ゲーム理論はまさにこれを数学的なモデル、言わば連立方程式に落とし込みます。方程式の「解」では両辺の間で=(等号)がぴったり成立しますね。ゲーム理論では、この「解」が予想と結果の間や、取りえる戦略の間でバランスが取れている「均衡」だと解釈します。
しかしシーソーを想像するといきなりはバランスは取れませんね。ゲームのプレイでもお互いの出方を観察し試行錯誤しながら、戦略を学習し進化させるでしょう。私の研究領域である進化ゲーム理論は、その進化の過程を分析します。ダイナミックな過程自体というのは、これまでに様々な数式で分析されてきました。そこで均衡に辿り着くか否かは数学的にも分かれており、謎になっていました。物理学では万有引力は、地上での物体から空の上の天体の動きまで説明する根本原理です。そのような「万有引力」を見つけて、これまでの謎に答える統一理論を立てるのが私の研究課題です。

進化ゲーム理論が伝統的に考えてきたモデルがAIのプログラムとしてリアルになっていく。

カギとなる数学がリャプノフ関数の理論です。ウォータースライダーのような3次元空間での複雑な動きも、万有引力が働く「高さ」の軸に注目すると、単純にどんどん下がるだけですね。このように複雑な動きを単純化する指標がリャプノフ関数です。経済学では1960年代に需要・供給の数理分析に応用されました。私は高校生の頃に『経済解析』(宇沢弘文)という本でリャプノフ関数を知りました。私が進化ゲーム理論を研究し始めたのは米国での博士課程からですが、そこでリャプノフに再会し、いま私の武器にしています。
私の課題は、様々な進化の過程における「リャプノフ関数」を統一的に見つける原理です。数学の問題になりますが、私は経済学者としての直観を活かそうとしています。それはまさに駆け引きの中の損得勘定です。この損得を指標とするというアイデアは既に少しづつ論文として発表しており、いまは更に細部を練って発展させている段階です。
経済学というと経済を分析するだけだと思われがちですが、進化ゲーム理論に関してはむしろ、これまでの理論モデルがAIのプログラムとして現実になりつつあります。サイバーネットワークや自動操縦車が走る交通網ではAI同士が駆け引きをします。進化ゲーム理論はこうしたシステムの制御やセキュリティなど工学・安全保障への活用も企図されています。私の研究課題である統一理論も、様々なプログラムで動くAIと、また直観で動く人間自身をうまく協調させる基盤として貢献するものです。

大学での経済数学は数式の意味を見出す。
プログラミングやゲームデザインで理論を形にする。

ゲーム理論は「ゲーム」という名前で親しみやすそうな割に、「理論」としての数学が心理的に難しく感じられるようです。これは日本に限りません。私は10年近く米国の大学で教えましたが、そこでも同じでした。中学・高校で学ぶ数学は計算中心でしたが、大学の経済学では数式の背後にある論理や意味を見出します。このギャップに戸惑う学生も少なくありません。数学のモデル・データと経済の直観の間の往復こそが、経済学部で得られるアカデミックスキルです。私が教える中でも、計算をただ難しくするのではなく、数式の意味を読むことに主眼を置いています。本学での授業はもちろん、大学院の先輩方と共著したゲーム理論の教科書や、また執筆中の経済数学の教科書で、世に広めようとしています。
私自身も数式の裏にある、意思決定や社会の構造に興味があります。私のゼミでは、より丁寧にこの構造を読み解くことを学んでもらっています。それをプログラムで表現してシミュレーションをしたり、また(文字通り)ゲームを自分たちでデザインするのが活動の軸です。新月祭でもゲームを出展しましたが、ゲームバランスのため設定を細かく調整し、そして背後のロジックをゲーム理論で解説するところまで、ゼミ生たちが成し遂げてくれました。経済学部での「モノづくり」というのはユニークなことです。将来的にはプログラミング・理論と融合させて、AIを組み込んだゲームアプリを開発することを、ゼミでの夢としています。 

2年生ゼミ(プレ演習)。市場競争モデルの中で、自動で戦略を決めるプログラムをゼミ生がデザインしているところ。
ゼミ生が新月祭で出展したゲーム。それぞれ市場競争、不確実性・情報伝達に関する理論を反映。

私にとってのミカンセイノカノウセイ

最近行ったダンスの公演と芸術祭・展覧会。京阪神、そして西日本のアクセスの良さも阪神間ならでは。

アートやダンスの営みと理論家の営みを重ねる。精緻を積み重ねて生まれる美からの刺激。

プライベートでは現代美術やコンテンポラリーダンスの鑑賞によく足を運びます。表向きは軽やかに見えるものも、制作時は色・筆の使い方や腰・腕の振り方の一つ一つで試行錯誤しているはず。そんな細部を精緻化しながら、これまでの作品との違いを生み出すことは、私たち理論家にも通ずるものがあります。そんな労苦を乗り越えて、圧倒的な美が生まれます。そのような場に居合わせると刺激を受け、私も研究へと背中を押されます。