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Interviews 研究者 物質から生命へ。尽きぬ興味で進む化学研究の最前線

佐藤 浩平准教授
掲載日:2026.02.10
理学部

Introduction紹介文

原子と原子をつなぎ新しい物質を生み出す。その先に“生き物のように振る舞う人工物”を思い描き、研究を進める佐藤准教授。有機化学と超分子化学を専門とし、医療や環境問題への応用も視野に入れた先進的な研究に取り組んでいます。学生時代は部活動に打ち込みながらも、ある出来事をきっかけに研究の世界へ。失敗を楽しみ、好奇心を原動力に進み続ける研究者の姿に迫りました。

挫折がきっかけで進んだ研究者への道。
私のエネルギーの行き先は化学の世界になった

私は、もともと研究者を目指していたわけではありません。高校までは野球、大学ではラクロスと部活動に全力を注ぐ学生でした。しかし大学3年生の頃にケガが重なり、思うように体を動かせなくなってしまったんです。行き場を失ったエネルギーを、何か別のことに向けたい。そんな時に出会ったのが大学の先生の熱意あふれる授業でした。「本気で勉強をやってみよう」と思い、集中して取り組んでみたところ、驚くほど面白かった。知らなかった世界が次々に開けていく感覚に夢中になり、気付けば大学院へ進学、研究者を志すようになっていました。
専門領域は、有機化学と超分子化学。原子をつなげて分子を作り、その分子同士を組み合わせて新しい機能を生み出す学問です。実験を重ねるたびに新しい発見があり、「研究ってこんなに楽しいんだ」と感じ続けています。

物質が生き物のように振る舞う有機化学×超分子化学が拓く未来

私の研究は、新しい物質を生み出す有機化学を基盤にしています。ただし物質を作って終わりではありません。作り出した分子同士が集まり、互いに影響し合い、生き物のような振る舞いを示すところまでを目指しています。これを可能にするのが、超分子化学という分野です。
大学院時代は半導体や液晶といった物質そのものに強い関心を持っていたのですが、その後、アメリカの大学病院で研究を行う中で生き物に近いテーマに触れ、「自分が作った物質で生命現象に働きかけられる」という面白さに気が付きました。そこから、人工的に生体分子の機能を再現し、さらに組み合わせることで細胞のようなシステムを作りたいと考えるようになりました。
これまでの研究者人生における具体的な成果としては、たとえば切れた神経を再生させる研究があります。哺乳類では一度切れた神経は元に戻らないとされてきましたが、マウスの実験で回復させることに成功しました。また、体内のタンパク質をヒントに、完全に人工的でありながら自然界のものよりはるかに高性能な分子を作り出すことにも成功しました。この分子は水をろ過する機能を持ち、将来的には海水から飲み水を作る技術につながる可能性があります。研究室での実験が、医療や世界の水問題の解決につながるかもしれない。そういった点に大きなやりがいを感じています。

99%の失敗を超える、1%の大きな喜び。
尽きない好奇心と共に走り続けていきたい

複数のテーマを同時に進めることも多く、その分、勉強し続ける毎日です。起きている間はいつも研究のことを考えていて、アイデアが出ない時はまだまだ知識が足りないサインと認識。研究の原動力は、尽きることのない好奇心からきています。
正直に言えば、研究の99%は思い通りにいきません。実験が失敗したり、結果が出なかったりして落ち込むこともあります。そんな時は、研究仲間と食事をしたり、分野の違う人と話したりして気分転換。その中から新しい発想が生まれることも少なくありません。
苦労しても研究を続けたいのは、うまくいった1%の瞬間には、全て報いてくれるほどの喜びがあるからです。これからも好奇心を持ち続け、楽しみながら研究を続けていきたい。その積み重ねが未来を少し変えると信じています。

私にとってのミカンセイノカノウセイ

研究室で実際に作成した人工細胞を蛍光顕微鏡という装置で観察した際の写真。緑色に光っている丸い物体が人工細胞です。

物質から生命が生まれるとはどういうことか?
生・死・心の境界を見つめる哲学を胸に

最近は、研究を通して「生きているとは何か」「死とは何か」「心とは何か」を考える時間が増えています。私の研究は、物質を上手に集めれば生き物のような振る舞いが生まれるのではないか……という挑戦です。一つひとつの物質は生きていませんが、それらが集まることで生命が立ち上がる。その境目を探ることは、生と死の違いを理解することにつながります。少し哲学的ですが、こうした問いを大切にしながら、日々研究に向き合っています。