Interviews 研究者 分野を超えた研究で、次世代の可能性を広げる
Introduction紹介文
学生時代に地球科学を専攻した河野教授は、アメリカでの研究経験を通して、幅広い人脈と知識を得てきました。その経験が、現在の多角的な研究スタイルにつながっています。河野教授が特に強調するのは、物理・化学・地学といった枠にとらわれず、分野を横断して学ぶ姿勢を持つことの大切さ。培ってきた学びを生かし、次世代の可能性を広げる研究に挑んでいます。多様な視点をもとに進められる研究の背景や今後の展望について伺いました。
惑星内部のマグマから、日常のガラスまで。
SiO₂を主成分とするケイ酸塩の非晶質構造を突き詰め、その物性を解き明かす。
私の研究では、二酸化ケイ素(SiO₂)を主成分とする物質を扱っています。具体的にはマグマやガラスを指し、これらの物質が高圧・高温下でどのような構造や性質を示すのかを研究しています。
一見すると、地球内部のマグマと日常生活で用いられるガラスはまったく別物のように思われるかもしれません。しかし、どちらもSiO₂を主成分とするケイ酸塩の非晶質構造物質であり、共通する構造や物性を持ちます。
SiO₂は地球や火星などの地球型惑星を構成する主要成分であり、惑星内部で形成されるマグマの主要成分でもあります。そのため、マグマの性質を理解することは、火山噴火のメカニズムなどの自然現象や自然災害の理解にもつながります。
一方で、ガラスはマグマが急冷して生成される物質です。ガラスは、先端科学技術から日常社会まで幅広く利用されている物質です。
研究では、原子・分子レベルの配置や構造といった基礎化学を突き詰め、配置や構造がガラスの物性(弾性率、粘性率、密度など)にどう影響するかを調べています。
このように、地球や惑星の科学としてのマグマの研究と、材料物質としてのガラスの研究、という2つの分野を隔てることなく、共通の視点から研究を進めています。
研究の視野を広げたアメリカでの経験。
分野に囚われず挑戦する、現在の研究スタイルへ。
現在の研究テーマに取り組むようになったきっかけは、地球科学分野の博士号を取得したのちに、アメリカの放射光X線施設 のビームライン HPCAT に研究員として就職したことです。以前から日本の放射光施設 SPring-8 を利用して高圧・高温実験を行っていましたが、主に扱っていたのは結晶の弾性波速度などの物性測定でした。一方、アメリカのビームラインでは液体やガラスの構造を測定や、その物性を研究できる実験設備の開発が求められていました。こうした環境で研究を進める中で、液体・ガラスの研究が自身の主要な研究テーマへと発展していきました。
さらにHPCATには、地球科学だけでなく材料科学や物理学など、異なる分野の研究にも触れる機会が大きく広がりました。
その結果として、専門分野にとらわれず、幅広いテーマに挑戦する現在の研究につながっていると感じています。
分野を横断して培った知見をもとに、
次世代につながる研究基盤を築いていく。
現在は月の岩石・鉱物組成を用いた液体やガラスに関する研究を進めています。この研究は、将来的な月への居住に必要となる材料開発など、次世代にとってより身近になる宇宙空間での材料研究へと発展する可能性を秘めています。もちろん、今すぐにこの研究が実用化につながるとは限りません。しかし、未来の世代に向けた基盤を築いていくことが、研究にとって重要だと考えています。
このような宇宙に関わる研究では、物理や化学だけでなく、地学を含めた総合的な視点が欠かせません。私自身、学生時代に地球科学を専攻してから、アメリカでの研究経験を通して、分野に囚われない幅広い知見を培ってきました。この多角的な視点こそが、現在の月や宇宙空間に関わる研究に取り組むための土台となっていると確信しています。
今後も、枠を超えて問い続ける姿勢を大切にし、次世代へとつながる研究の可能性を広げていきたいと考えています。
地上では不可能だったマグマ実験を宇宙で実現。その挑戦が未来の技術を拓く。
最近では、国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟に搭載された静電浮遊炉を用いて、宇宙でのマグマ実験に取り組んでいます。鉄に富むケイ酸塩マグマは、地上では重力の影響を受けやすく、正確な実験が難しい物質です。しかし、地上よりも重力が小さい国際宇宙ステーションの環境を生かすことで、これまで不可能だった測定が可能となりました。こうした研究は、宇宙空間での材料開発や、将来的な月での生活を支える技術へとつながる可能性を秘めています。