Interviews 研究者 まちを形づくるのは、そこに生きる人々のつながりだ

Introduction紹介文
人と人のつながりが希薄になりつつある現代社会において、「まちをつくる」ことは何を意味するのでしょうか。山崎教授は地域に暮らす人々が互いに関係性を育み、自発的に動き出せるような「コミュニティデザイン3.0」を提唱・実践する第一人者です。日本各地、さらには海外でも数々のプロジェクトを手がけ、今も現場の最前線に立ち続けるその姿からは、研究者としての確かな信念と挑戦心が伝わってきました。
コミュニティデザイン3.0とは何か?
「建物をつくる」のではなく「人と人の関係性をデザインする」
私の専門はコミュニティデザイン。一言で言えば、地域に暮らす人々が心地よく関わり合いながら生活できるような“人間関係のデザイン”です。従来の都市計画や建築設計とは異なる「形をつくらないデザイン」に特徴があり、私はこのコミュニティデザインの概念の変遷を「バージョン1.0」「2.0」「3.0」と区別しています。1960年代に登場した1.0は、道路や建物の配置などに主眼を置いた物理的な地区設計にコミュニティの存在を加味した考え方でした。1980年代からは言葉の意味が「公共建築物を建てる過程で地域の声を取り入れる」というものに変わり、私はこの動きを2.0と呼んでいます。そして2000年代以降、私が提唱する3.0では、施設を設計するのではなく人々の関係性そのものをデザインの対象にしています。
そもそも公共空間には、使う人(地域の人々)とつくる人(行政)が別々という構造的な課題があります。その結果、せっかくの施設が「使いにくい」と感じられることも少なくありません。建築設計事務所に勤務していた頃にこのギャップに着目した私は、住民の声を起点に、彼ら自身が地域で動き出せるようにするプロセス全体をデザインする取り組み(コミュニティデザイン3.0)を始めました。

国内外で地域の多様性と向き合う「実践型研究」。
正解のない現場で挑み続ける、住民と未来を描くプロジェクト。
現在は約30の地域プロジェクトを、事務所スタッフと共に進めています。1つのプロジェクトはおおよそ3年間。1年目は調査と関係づくり、2年目はワークショップなどの実践、3年目には住民が自立して活動を続けられるよう支援します。活動は北海道から沖縄まで全国各地、海外でも展開してきました。たとえば大阪府茨木市では「おにクル」という文化・子育て複合施設に関わりました。施設内の図書館や子育て支援センター、市民活動スペースなどが互いに連携できるよう、地域の人々と一緒に運営の仕組みや活動のきっかけを設計。今や読み聞かせイベントなどを通じ、空間を超えて人が行き来する工夫が育ちつつあります。また台湾・台東では「台東デザインセンター」の設立に関わりました。多様な民族が暮らす地域で文化や歴史、価値観の違いに向き合い、生活様式も理解しながら、人々のつながりを支える橋渡し役を担いました。
一言でコミュニティデザインと言っても、地域ごとに背景や価値観は大きく異なります。そこがこの研究の難しさであり、同時に面白さでもある。正解のない状況で、いかに住民自身が納得して動き出す環境を整えるか。いつも、その問いに向き合いながら現場に立ち続けています。

「コミュニティデザイナーなんて不要」そう言われる時が研究のゴール。
地域の未来を、自分たちの手で描ける社会へ。
私がこの研究を通じて目指すのは、最終的に「コミュニティデザイナーがいらない社会」です。矛盾して聞こえるかもしれませんが、本来、地域の未来を考え、行動するのはそこに暮らす人々自身であるべきなのです。今の社会では地域のことを行政に任せたり、専門家に委ねたりするのが一般的です。ですが、もし一人ひとりが「自分にもできる」と自然と動き出すようになったらどうでしょう? そこには助け合いが生まれ、税金も時間も無駄にしない、地域の人々が主役の豊かな暮らしが待っているはずです。私の使命は、その“最初の一歩”を後押しすること。やがてその背中を押す役目が不要になったときこそ、コミュニティデザイン3.0が本当に根づいた証なのだと思います。


次の世代へバトンを渡すための学びの拠点づくり。
“かかわりのデザイン”の連鎖を育てたい!
コミュニティデザインは、建物を建てる時だけに必要な考え方ではありません。企業や行政でも会議の進め方や人のつなげ方に応用できます。そこで私は、次世代のコミュニティデザイナーを育てる挑戦を始めました。そのための新たな拠点「コミュニティデザイン・ラーニングセンター」も今秋に開設予定。泊まり込みで実践的なワークショップを学べるこの施設で、社会人を中心に“かかわりのデザイン”を広めていきたいと考えています。