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Interviews 研究者 聖書への、尽きることのない興味を胸に

東 よしみ准教授
掲載日:2025.08.25
神学部

Introduction紹介文

聖書を、信仰の書としてだけでなく、学問的に読み解く……そんな視点に出会ったことが、東先生の研究人生の始まりでした。新約聖書学を専門に、いつも複数のテーマを抱えながら研究に没頭しています。世界中の論文を追いかけ、誰かの一言にヒントを見いだし、思いがけない発見に心を震わせる日々。「研究の世界は、驚きと喜びに満ちています」そう語る東先生に、研究者としてのやりがいや経験した困難について聞きました。

常識とされる聖書の読み方・解釈から解き放たれた時、
多角的なアプローチを試みる「学問としての面白さ」に気付いた

大学に入学した時に関心があったのは国際関係学。新約聖書学を専門にしようとは少しも思っていませんでした。ですがある授業で出会った「学問としての聖書の読み方」が、私の進路を大きく変えました。聖書には小さい頃から親しんでいましたが、その授業ではそれまで教えられてきた「聖書とはこう読むべき」という枠組みから自由になり、多角的に聖書を読み解く面白さを知ったのです。さらに授業での発表やレポートを評価してもらう中で、文献を調べることや言葉の背後にある思想を探る奥深さにのめり込み、やがて「研究者として、もっと聖書に向き合いたい」と考えるように。研究者となった現在は、ヨハネ福音書やヤコブの手紙などをテーマに研究に取り組んでいます。

始業礼拝

なぜ、この書は長く軽んじられてきたのか?
今を生きる私たちに響く、ヤコブ書のメッセージの再発見へ

私が今、特に力を注いでいるのは「ヤコブの手紙」の注解書の執筆です。注解書とは、聖書などの古典に対して語句の意味や背景を解説し、読者がその本を深く理解できるよう手助けする書物のこと。依頼を受けた時は戸惑いもありましたが、引き受けたからには誠実に取り組みたいと長い年月をかけて研究を進めてきました。
ヤコブの手紙はヤコブ書とも呼ばれており、少し特徴的な文書です。
イエスの復活や十字架などキリスト教の中心的な教えに触れておらず、過去には宗教改革者マルティン・ルターから「藁の書簡(価値のない書)」と酷評されました。その影響もあって、とくにプロテスタントの世界では長い間あまり重視されてこなかったのです。
しかし私自身、ヤコブ書を丁寧に読み込む中で、実は非常に現代的なメッセージが含まれていることに気づかされました。たとえば宗教とは、「困っている孤児や寡婦(夫と死別したり離婚したりした独身の女性)を助けること」と記されており、社会的に弱い立場にある人々に寄り添う倫理的な実践を求めています。宗教は個人の救いだけを目指すものではなく、共同体や社会全体のあり方を問いかけるものであるとされており、現代にも通用する倫理を提示していると言えるでしょう。
研究の過程では英語やドイツ語で書かれた先行研究を読み、論文や専門書を日々追いかけています。膨大な量の文献を前に圧倒されることもありますが、「この解釈はここに繋がるのか」と新たな視点が開ける瞬間は本当にわくわくします。「軽んじられてきた書に新しい光を当てる」そんな使命感が、私の研究を支えています。

越えられない壁なんてない。
異分野の知に助けられた経験から、まだまだ成長できる自分を実感

研究者としてのこれまでの仕事の中で、特に印象に残っているのが、アメリカの著名な学者リチャード・B・ヘイズ氏の翻訳を引き受けた時のことです。彼の著書はパウロ書簡における旧約聖書の引用を文学理論の観点から読み解く……というとても難解なもので、聖書学の知識だけでは歯が立ちませんでした。特に英文学やレトリックの理論が絡むところは、どう訳せばよいか悩みました。そんな時、私を助けてくれたのが、学内行事で偶然隣り合わせた英文学の先生でした。訳に迷っていた単語について軽く相談すると、その先生はその後、訳語を調べて発見し、私の研究室に「レトリック事典」という本を持ってきてくださいました。この本が突破口となり、私の理解が飛躍的に進み、翻訳作業が大きく前進したのです。この経験を通して、専門を超えた対話や偶然の出会いが研究を支える大きな力になると実感しました。研究は孤独な作業に見えるかもしれませんが、実は多くの人との繋がりの中で育まれるもの。自分の発見を人と共有し、誰かと感動を分かち合うことができるととてもうれしいです。これからも、新しい出会いに開かれながらテキストのより良い理解を目指し、自分の研究を深めていきたいです。

神学部教員の集合写真

私にとってのミカンセイノカノウセイ

コロナ禍を乗り越えて頑張る学生たちの姿に感動。
自らも活動の幅を広げ、成長し続けたい

2017年から、学生の課外活動団体である文化総部混声合唱団エゴラドの顧問を務め、成長し続ける学生たちの活動を見守る中で多くの刺激を受けています。コロナ禍を経て開催された5年に一度のOB・OG合同演奏ステージでは私自身も舞台に立ち、学生や卒業生たちと共に歌うことができ、感無量でした。様々な曲と出会い、歌詞の意味について考えて学生と語り合うことは研究にも生きる貴重な機会となっています。また最近は、研究を長く続けるための体力作りにも挑戦中。学問に向き合う姿勢を、日々の暮らしの中でも育てています。