Interviews 研究者 豊かな社会のための公共のあり方を探求

Introduction紹介文
石田先生は本学の高等部を卒業後、総合政策学部に進学。修士課程を修了した後、大阪大学で博士課程を修め、いくつかの研究・教育機関を経て2023年から母校となる本学で研究・教育に携わっています。NPOのガバナンスとマネジメント、寄付やボランティアをテーマに、さまざまな分野の研究者や専門家と共同で研究を進めると同時に、認定NPO法人の代表として団体を運営しNPO支援活動を実践している石田先生に、現在の研究内容やきっかけとなった学生時代の経験、研究が社会にもたらす価値について、お話を伺いました。
豊かな社会を実現するために、公共に何が求められるのか。
NPOのガバナンスとマネジメント、寄付やボランティアに着目して研究。
「社会において豊かに生きるために、どのように公共サービスを供給することが可能か」というテーマについて、NPOのガバナンスとマネジメント、寄付やボランティアに着目して研究を進めています。NPOはボランティア団体のようなイメージを持たれがちですが、持続的に活動するためには資金と人材が必要です。特に対価獲得型でないNPOは、共感と支援を社会から得る必要があります。そこで、「いかに社会的支援による資金を獲得するか」といったことをデータから分析しています。
また、持続的に活動できているNPOはどのような組織なのか、内閣府や都道府県などが公開している情報を集めて、NPOの財務データをデータベース化し、組織のガバナンス構造やマネジメント戦略との関係を解明。さらに、NPOの実践にも参加し、データ分析から得られた結果と照らし合わせ考察しています。
加えて、社会起業や地方創生という観点から、学生と共に地域でのフィールドワークを行い、課題を解決することのできる事業は何か、その事業を持続するための資金と人材のマネジメントやガバナンスはいかに実現できるかを考える社会起業(ソーシャルアントレプレナー)教育研究にも取り組んでいます。
高校時代の留学や、大学での卒業研究。
学生の頃に培った経験が、地域問題の解決を目指すNPOを対象とする研究につながっている。
高校時代、アメリカ・インディアナ州にある小さな街の高校に1年間留学しました。人口2万人ほどの街でしたが、高校には州で最大のバスケットボールジムがあり、1万人近く収容でき、スタンドが試合のときには観客で埋め尽くされました。住民が地域のことを自然に応援し、それが彼らにとっての楽しみや生きがいにもなっている。そんな姿を目の当たりにして感動した経験は、地域問題の解決を目指すNPOを対象とする現在の研究につながっているのではないかと思います。
また、大学時代に卒業論文を書く中で、ノーベル経済学賞受賞者のアマルティア・センが提唱した潜在能力アプローチという考え方に出会ったことも、研究に取り組むきっかけの一つです。潜在能力アプローチは、所得や資源の量だけでなく、社会的・文化的要素も含めて、人々の幸福や福祉を評価する方法です。この考え方を知り、NPOが何か不自由のある人がチャレンジできる社会をつくるツールとなれば、地域の社会的関係資本の源泉になり得るのではないかと考えたことが、現在の研究に結びついています。
国内外の研究者や実務者、地域の人や学生たち。
仲間の輪を広げ、互いに協力しながら、地道に研究・教育に取り組んでいく。
研究を進める中で、解決策を見つけるための時間や活動資源が足りないと感じることはあります。それでも地道に活動を続け、研究成果を国内外で発表していくことで、思いや考えを共にする仲間の輪が広がってきました。現在は、東アジアやインド、フィリピン、タイの研究者との共同研究や、日本の企業との共同プロジェクトも進行中です。研究者や実務者、地域の人たちや学生と一緒に、今後について語らいながら一緒に食べたり飲んだりする時間は、息抜きや楽しみであり、そこで語り合ったことが研究の原動力にもなっています。
近年は、「社会に貢献したい」「地域の問題を解決したい」と思う人たちが増え、NPOで活動しようという動向も大きくなっています。NPOのガバナンスとマネジメント、寄付やボランティアといった研究テーマは、多くのNPOが直面し得る問題であり、日々の経営に与える示唆は大きいと言えるでしょう。社会問題が山積みの日本社会、そして世界の地域社会において、価値のある研究を目指して引き続き取り組んでいきたいと思います。



研究成果の社会実装と研究への還元を繰り返し、豊かな社会の実現を目指し続ける。
私が目指しているのは、研究成果の持続的な社会実装です。研究から得られた成果をもとに、NPOや政府・自治体に対して提言を行い、実装する。そして実装から得た社会のインパクトや変化を研究に還元して理論化し、また実装する。そうやって持続的に循環していくことが、みんなが豊かに生きられる社会へとつながっていくはずだと考えています。課題がゼロになることはありませんが、未完成のままずっとチャレンジし続けたいです。