Interviews 研究者 包摂性と多様性のある社会を目指して。

Introduction紹介文
大学時代に出会った社会言語学という学問に魅了され、日本とイギリスの大学院で学びを深めた難波先生。イギリスで博士課程に進学する際に「研究者の道に進む」と覚悟を決め、博士論文を書き上げるという大きな課題も乗り越えました。多様な社会的カテゴリーに関わる人々のコミュニケーション摩擦や関係構築のあり方を研究することで、包摂性と多様性を尊重する社会を目指す難波先生に、これまでの歩みや今後について伺いました。
多様な社会的要素とコミュニケーションの関係性を研究することで、包摂性と多様性を尊重する社会への可能性を見出したい。
私の専門は社会言語学と異文化コミュニケーション論です。人種や民族性、ジェンダー、世代、社会的立場、地方/都会といった多様な社会的カテゴリーに関わる人々のコミュニケーション摩擦や関係構築のあり方を研究しています。この研究を通じて、普段は特に意識することのない、社会文化的視点に根差した無意識的な言語/非言語行動の重要性を提示できることに、大きな価値があると考えています。包摂性と多様性を尊重する社会へと導いていくことを目指して、研究・教育に取り組んでいます。
最近オーストラリアで開催された国際学会では、子どもと大人のやりとりに着目し、子どもたちの疑問や質問に専門家が答えるラジオ番組を、「言語社会化」という視点に基づいて分析して発表しました。この番組内のやりとりには、「社会の中でどう振る舞うか」「どのようにして人間関係を作っていくか」に関わるさまざまな要素が含まれています。子どもたちは他者とのコミュニケーションを通じて、「こういうときはこのように振る舞えば良いんだな」と学んで社会文化的知識を習得し、感性を育んでいきます。これがまさに「言語社会化」です。今回の研究では、子どもの社会化に直結する言語(あるいは非言語)実践が、やりとりの中に多層的に散りばめられていることを提示しました。


大学4年生のときに出会った、社会言語学という学問。日本とイギリスの大学院で学びを深め、研究者の道を歩み始めた。
研究者としてのこれまでの人生を振り返ると、人との出会いが私を突き動かしていると実感します。始まりは大学4年生のとき。アイロニー(皮肉や反語)の認知言語学を専門とする研究者の講演を聞いて、言語学と日常の結びつきを感じ、「こんな面白いものがあるんだ!」と興味を持ちました。その先生に自分の関心について話したところ、「それは社会言語学という分野だよ」と教えていただいたのです。そこで、社会言語学を学ぶため、大学院に進学することを決めました。日本で修士・博士課程を修めた後は、イギリスのエディンバラ大学に留学。日本でもイギリスでも指導教官に恵まれ、熱心な指導のもと、日常にある無意識の振る舞いと社会文化のつながりを社会科学の分野から実証的に見出す面白さと重要性を体感することができました。
研究者の道に進むと決心したのは、イギリスで修士課程から博士課程に進学したときです。当時の指導教官だけでなく、日本でお世話になった先生にも相談し、背中を押していただいて、社会言語学の研究者として歩む覚悟を決めました。その瞬間を今でもよく覚えています。
イギリスで博士論文を書き上げることは、人生における大きな挑戦だった。周りの人たちに支えられ、困難も乗り越えられた。
研究活動の過程で最も大きな課題に直面したのは、イギリスで博士論文を書き上げるときです。指導教官からの膨大なコメントを一つひとつ見直し、地道に修正に取り組みました。「もう諦めようか」と思ったことは何度もありましたが、なんとか乗り越えられたのは、たくさんの励ましや助言をくれた指導教官や家族、周りの仲間のおかげです。自分自身に向き合い、自分の欠点や課題にも気づかされた貴重な経験でした。
現在も、支えてくれている周りの人たちへの感謝の気持ちを、いつも噛み締めて過ごしています。また、家族や学生、友人との何気ない会話や、日常の中で見聞きするニュースや雑誌、広告といったものも、すべて研究のインスピレーションや原動力になっています。

研究・教育活動を通じて目指しているのは、「違い」を超えて人がつながる「ま~るい」社会
「違い」を「つながり」や「絆」に発展させることを目指しています。人種や民族性、ジェンダー、世代差、地域差、社会的立場といった多様な要素に基づく「違い」の境界を超えて、もっと人がつながる「ま~るい」社会にしていきたいという思いを持っています。この思いは、私の研究の主軸であり、ゼミ運営における軸でもあります。ゼミ生たちとの協働は私のライフワークの一つ。私自身もゼミ生と共に成長していけたらと願っています。