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Interviews 研究者 経済学者として挑む、環境問題を動かす政策の研究

朴 勝俊教授
掲載日:2026.02.17
総合政策学部

Introduction紹介文

環境問題と経済政策を結びつけ、新しい社会のかたちを探究する朴教授。経済学の視点から再生可能エネルギーや財政政策を研究し、社会に活かす道を模索しています。研究の原点となったのは、学生時代に留学先のドイツで政権交代を目の当たりにした経験。以来、自らの研究領域と社会のつながりを強く意識するようになったのだそうです。現実の課題に向き合いながら、未来に希望を描き、志を胸に歩む研究者の思いを聞きました。

現代社会が抱える課題の解決に、環境と経済を結ぶ研究で挑む

地球温暖化やエネルギー問題は自然環境だけの課題ではありません。私たちの暮らし、産業のあり方、雇用や地域経済とも密接に関係しています。私の研究の中心にあるのは「環境問題を経済学の視点からどう解決できるか?」というクエスチョン。環境と経済を切り離さず、両方を同時に考える環境経済学を専門にしてきました。
学生時代は環境税制改革をテーマに、税や補助金をどう設計すれば環境に優しい行動が社会全体へ広がるのかを学びました。その後も一貫して再生可能エネルギーの普及やエネルギー消費を減らす政策について研究しています。最近は、環境対策と経済成長、雇用創出を同時に目指す「グリーン・ニューディール政策」と「積極財政政策」の可能性を研究しています。従来の「環境を守ると経済が弱くなる」といった考え方を乗り越え、環境と経済が支え合う社会の姿を示すこと。それが強い関心を持ち続けているテーマです。

BIG ISSUEでのインタビュー記事(2013 Nov. 15)

ドイツ留学で見た政治の変化が私の研究人生を大きく動かした

研究者としての方向性を決定づけたのは、大学院生時代に経験したドイツ留学でした。もともとエネルギー問題に関心があったのですが、1990年代後半、ドイツで環境政策を重視する政権が誕生する瞬間に現地で立ち会ったことで、研究に対する考え方が大きく進化しました。環境税制改革や脱原発といった政策が、研究者の議論だけでなく、市民の支持を背景に実現していく。その過程を目の当たりにして「環境問題とは政治と政策によって現実に変えられるんだ」と強く実感。政権交代が社会の進む方向を変える力を持つことを、肌で感じた経験でもあったと思います。
一方で日本に目を向けると、環境問題がなかなか政策の中心に据えられない現状があります。多くの人が環境を大切にしたいと考えていても、景気や雇用への不安が強いと、どうしても環境問題への関心の優先順位は下がってしまいます。東日本大震災と原発事故を経て日本でもエネルギーの安全性や持続可能性が強く意識されるようになったものの、再生可能エネルギーを本格的に広げるには、新しい産業を育て、安定した雇用を生み出す力強い経済政策が不可欠です。この点に気づいたことが私の研究テーマをさらに深めました。
研究活動を通じ、政策の現場に立つ人と議論を交わす機会もあります。理論を社会でどう生かすかを考え続けることが、研究者としての私のミッション。ドイツでの経験は今もなお私の原動力であり続けています。

新たなマクロ経済モデルの分析から、
誰もが安心して暮らせる社会への道筋を描きたい

現在は、環境政策の研究と並行し、マクロ経済の新しい分析手法にも取り組んでいます。その一つが「ストック・アンド・フロー一貫型マクロ経済モデル」です。マクロ経済のモデルといえば、これまで金融市場を詳細に反映させたものがありませんでした。しかし近年、一部の学者が提唱しているのがこの新しいモデル。家計・企業・政府・金融機関といった経済主体の資産や負債、お金の流れを一体としており、財政赤字が財政破綻を招くことなく経済内の貨幣循環を増やすことができることを示すものです。
私はこのモデルをコンピューター上で構築し、財政政策や公共投資が経済全体にどのような影響を与えるのかをシミュレーションしています。環境対策を進めるための財政支出が、雇用や所得を通じて経済を活性化させる可能性を示すこともできます。
今後の目標は、研究成果を通じて“誰もが安心して暮らせる社会”の選択肢を増やすこと。環境を守りながら経済を豊かにする未来は、決して夢物語ではありません。数字と理論を積み重ねながら、その道筋を示し続けていきたいです。

私にとってのミカンセイノカノウセイ

2013年に京都大学で開かれた環境税国際大会(14th GCET)

研究成果を社会へ届けるために。
“自分の言葉”で始めた新しい対話のかたち

研究成果を社会に生かすには、論文を書いて発表するだけでなく、地道な発信も大切だと考えています。近年、SNSでは真偽が分かりにくい情報があふれ、議論がすれ違ってしまう場面を多く見かけるようになりました。そこで私は環境問題や経済政策について、できるだけ分かりやすく伝える情報発信を始めました。考えが近い人も異なる立場の人もいる中で、研究者としての知見を共有し、冷静に考えるきっかけを届けたい。その試みは、研究と社会をつなぐ新たな挑戦でもあります。