Interviews 研究者 厚みは原子一層分。二次元材料、その極薄の世界に挑む
Introduction紹介文
次世代の電子デバイスを変える可能性を秘めた、究極的に薄い「二次元材料」。その最前線で研究を進めるのが工学部の日比野教授です。グラフェンをはじめとする原子一層の極薄材料は、シリコンが抱える限界を越えうる存在として世界中が注目する存在。教授はその実用化の鍵となる大面積かつ高品質な合成に挑み続けています。手を動かしながら考え、未知の現象を探り当てる。そんな研究の面白さや描く夢についてお話を聞きました。
今のアタリマエを超えていく。
二次元材料がもたらす未来の可能性
私が取り組んでいるのは、原子一層分という薄さの「二次元材料」の合成と制御です。とりわけ炭素が一層だけ並んだシートである「グラフェン」は、基礎科学でも応用でも世界的に注目されている素材です。これらを実用化するには、広い面積で、かつ結晶の欠陥が少ない、完璧に近い構造を作り出さなければなりません。そこで私は二次元材料を大きな面積へ成長させる方法や、形を自在に設計できる仕組みの開発に取り組んでいます。
二次元材料の何がすごいかといえば、次世代の半導体としてシリコンを越える可能性があることです。シリコンは微細化によって性能を上げてきましたが、これ以上新たな加工法の開発には限界があると言われています。二次元物質のように非常に薄い材料が登場し、もし工業レベルで安定して作れるようになれば、スマートフォンやパソコンの性能は大きく変わり、まったく新しいウェアラブル端末が生まれるかもしれない。そうした未来の基盤をつくることが、私の研究テーマの核になっています。
原子層の世界を読み解く面白さ。
積み重ねた実験が拓く発見に向けて
研究のメインテーマを二次元物質に定めたのは、表面科学の研究に携わっていた頃のこと。2004年にグラフェンが初めて取り出された後、ほどなくその特異な性質が明らかになり、世界が大きく動いた瞬間を目にしました。驚きを胸に抱くとともに、表面科学との関連を直感。二次元物質はいわば「全てが表面」という材料なので、自分の専門を活かす絶好の舞台だと感じ、研究の軸を二次元材料へと移すことを決めました。
現在は、金属のような性質をもつグラフェン、電流のオン/オフに使える半導体的な二硫化モリブデン 、そして電気を通さない絶縁体として六方晶窒化ホウ素の3種の二次元物質を扱っており、一つひとつを研究しつつ、それらを組み合わせて新しい機能を持つ構造を作り出すことにも挑んでいます。
従来、二次元物質を作成するにはテープで薄く剥がして層を積み重ねていましたが、サイズが小さく再現性に欠けるため、産業応用には不向きです。そこで私は、原子が規則正しく並び成長する“結晶成長”を利用し、大面積で積層構造をつくるアプローチを研究しています。
二次元材料は厚さが原子一層なので、少しの条件差でも構造が大きく変わります。だから反応条件を丁寧に調整しながら材料を成長させ、特殊な顕微鏡でその構造を観察し、性質を一つひとつ確かめていくことが重要。その積み重ねが、予想を越える発見につながります。
これまでの成果として、特殊な顕微鏡技術を用いてグラフェンの層数を正確に数える手法を明らかにし、世界中の研究者が使う“標準的な方法”として広まりました。こうした基盤技術があることで、研究はより深く速く進んでいきます。
私を突き動かすのは「研究が好き」という思い。
未知の構造が生まれる瞬間を楽しみに走り続ける
私の研究の原動力は、やはり「好き」という気持ちです。思いついたら手を動かし、予想外の結果が出たらそこから深掘りする。そんなふうに走りながら考えるタイプなので、気づけば一日中実験をしていることもあります。作業をスムーズにするための治具づくりのような工夫も含めて、研究に関わることなら何でも好きです。
実験で得た結果をより深く理解するために、理論研究者と積極的に協力する時間も面白さにつながっています。自分にない知識を持つ仲間と議論しながら、背後にある物理現象を読み解く。そうして見えてくる景色には、何度出会ってもワクワクするものがあります。
二次元物質の実用化まではまだ時間が必要ですが、世界中が着実に前へ進んでいます。
私の夢は、大面積で高品質な二次元材料を実現し、その技術がいつか社会実装の一部に使われること。未知の構造が生まれる瞬間を楽しみに、自らの好奇心と走り続けていきます。
二次元研究から広がった新たなテーマ。
「三次元を薄くする」発想が拓く未来
二次元物質の上で結晶を成長させ、成長後に膜を剥がすことで、これまでにないほど薄い三次元物質の自立膜を作る研究にも挑戦しています。三次元物質は原子どうしが立体的に結びついているため、本来は薄くすることが難しいのですが、その壁を越えられれば硬い材料でも柔らかなシートとして扱えるようになります。すると、新たな三次元物質として折りたたみ端末などに応用できる可能性も。二次元とは異なる特性をもつ物質を相手に、新しい機能を探る面白さを感じています。