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Interviews 研究者 分子設計で切り拓く、円偏光発光の世界

森崎 泰弘教授
掲載日:2026.02.01
生命環境学部

Introduction紹介文

生命環境学部の森崎教授が手がけるのは、光の性質を分子レベルで自在に操ろうとする先端的な有機材料研究です。2012年に円偏光を発する分子を報告して以来、この分野のパイオニアとして高い評価を受けてきました。新しい分子を思いつき、合成し、確かめる。そのシンプルな営みの中に無限の可能性を見いだしてきた教授が大切にするのは、湧き上がる好奇心と研究の独創性だそうです。

分子の形から光の未来を描く
円偏光発光分子開発が拓く新しい世界

「円偏光」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。光には右巻きと左巻きという2つの向きがあり、通常の光では、どちらか一方に偏ることはありません。ところが分子の形を工夫すると、どちらか一方の向きを強くすることが可能になります。このような状態の光を円偏光と言い、私が取り組んでいるのは、その偏りを意図的につくり出す分子の設計です。特に発光する有機分子の中でも「円偏光」を放つ材料の開発を通じて、光と物質の相互作用を制御する最先端の研究を進めています。
この研究の面白さは、分子という非常に小さな世界で起こる変化が、将来、社会で利用される技術へとつながる可能性を秘めている点にあります。たとえば、高精細な3Dディスプレイや情報セキュリティ通信、ウェアラブル端末、医療診断技術、植物成長促進材料など、応用の幅は非常に広い分野に及びます。もともとは「こんな分子を合成したら面白いのではないか」という純粋な好奇心から始まった研究ですが、社会の未来につながる可能性を実感できるところに、大きな魅力を感じています。

開発した分子を石英基板上に成膜しました。高輝度に青色発光しています。特別な装置でしか分かりませんが、右巻きに大きく偏った光(円偏光)を放っています。

有機合成で生まれる可能性を秘めた物質。
“思いつき”を発見に導くのは独自の発想

原料となる分子同士を反応させ、生成した物質を丁寧に取り出して純度を高めていきます。研究は地道な作業の積み重ねですが、ほんのわずかな条件や形の違いによって性質が大きく変わることがあり、その点に尽きない面白さがあります。「こうしたらどうなるだろう」「この形にしたら、別の現象が見えてくるかもしれない」。そんな疑問が次々と湧いてくるところに、有機合成の醍醐味があります。
円偏光の研究を始めたきっかけは、助教になりたての頃に思いついた、ある分子骨格のアイデアでした。学生時代に読んだ論文に登場した構造が長く頭に残っており、その骨格をもとに、さまざまな分子を合成してきました。約10年にわたり試行錯誤を重ねる中で、「円偏光を放つ可能性があるのではないか」と考えるようになり、その仮説に基づいて分子を設計・合成しました。幸運なことに、当時、隣の研究室にはその現象を精密に測定できる装置がありました。実際に測定してみると、まさに狙っていた性質を示し、その成果を2012年に論文として発表することができました。現在では、円偏光発光性分子の研究は世界中に広がっていますが、私がこのテーマに取り組み始めた当時はまだ黎明期で、同じ方向を目指す研究者は世界でも稀でした。いまでも当時の論文がこの分野で多く引用されているのを見ると、大きな誇りを感じます。
最初は小さなひらめきであっても、追究を重ねることで新しい材料が生まれ、その成果が新たな研究分野を切り拓いていく。その過程こそが、私にとって最大のやりがいです。

好奇心を原動力に、自分らしく進む
学生と歩むオリジナリティの探求

私の原動力は、昔から変わらず“好奇心”です。特定のゴールを決めてそこに向かうというよりも「見たことのない現象を発見したい」「新しい材料をつくりたい」という思いが常にあり、研究でもオリジナリティをとても重視しています。学生にもよく「一番を目指さなくてもいい、独自の視点を大切に」と話します。悩みながらも自分の力で道を切り開いていくことこそが、研究者として、そして人として成長するうえで重要だと考えているからです。
日々の積み重ねが、いつか思いもしなかった発見につながる。その瞬間を信じて、これからも新しい分子や現象との出会いを楽しみに研究を続けていきたいです。

私にとってのミカンセイノカノウセイ

研究室にて学生指導中。

分子が描く“お椀”の新世界。
結晶構造を自在に操る結晶工学への挑戦

円偏光発光性有機分子の開発を続ける中で、共同研究者との研究により、固体化した際に「骸晶(がいしょう)」と呼ばれるお椀型の結晶を形成する分子を見つけました。大きさ・形・成長方向までそろったこの結晶は、骸晶の成長を精密に制御した世界初の例として評価され、共同研究の成果として『Science』誌に掲載されました。現在は、この特徴的な構造をマイクロサイズの器として活用できないか検討しつつ、他の分子でも同様の成長制御が可能かを探っています。分子設計で結晶配列や分子間のすき間を自在に操り、新たな機能をもつ結晶を創り出す「結晶工学」への挑戦です。