そうせいTIMES 第3号 ポスト3.11 これからの地方行政~復興に向けて自治体ができることとは~(2011/12/01 発信)

[ 編集者:総合政策学部・総合政策研究科 2015年6月11日 更新 ]

崩れ去った地方自治。復興の要とは

村上教授

村上教授

町の復興計画を進めるには、従来の自治体が執っていた自己完結型のスタイルから、開放型の行政運営の視点を加えていくことが重要となります。これまでのまちづくりは、災害時や危機管理対応などを含め、市町村などの地方自治体が担っていました。しかし、今回の震災は、そうした責任を圧倒する被害をもたらしました。これまでの行政運営に足りなかった点をいかに補うかだけではなく、隣町や民間企業などと関係性を強め、総合的な視点で計画・立案することが必要です。

また、充分な住民サービスを提供するためには、都道府県というバイパスを通じての国からの金銭的な補助が不可欠です。国、都道府県、自治体それぞれの分権制を確立し、自治体が動きやすいような仕組みづくりが求められています。

古川教授

古川教授

地方自治体には、住民サービスをきちっと行っていくという役割があります。そのために欠かせないのが、民間企業からの財源徴収です。企業による雇用の促進は地域の活性化にも繋がります。自治体は企業の所在地をしっかり把握して連携の強化を図り、企業の流出を防ぐほか、産業を再生するのか廃止するのかといった根本からの見直しを行う必要があります。

例えば、原子力発電所についても、稼働させるか廃炉にするかで自治体の運営方法が変わります。廃炉を選択する場合、エネルギー問題や雇用問題だけでなく、国から地域へ支給される財源が失われるという問題もあります。かつて、多くの人が働いていた岩手県釜石市の溶鉱炉は廃炉の道を選択しました。自治体は他産業への労働者のシフトを行い雇用の支援と確保を促した歴史があります。
また、企業誘致という方法もあります。東北にはもともと産業が少なく高齢化も進んでおり、新産業を興すことは難しいと考えられています。他都道府県から企業を誘致するための、目玉となるような優遇案の検討も鍵となるでしょう。

李准教授

李准教授

今後は、「命を守る」という確固とした目標のもとで行政が進んでいくと考えられます。その際、住民と自治体の温度差が障壁となるのではと心配されるため、お互いがコミュニケーションをしっかり取ることが大前提です。

「水・食料が欲しい」などの緊急時のニーズに対して、回復過程でのニーズは「仕事をしたい」「家族と穏やかな日々を過ごしたい」など時間の経過に伴い変化していきます。社会福祉を充実させるにはこうしたニーズの吸い上げが必要です。住民と自治体が一緒になってまちづくりについて議論してこそ、リスクを踏まえた再生を語り合うことができると考えます。
今回の震災は、多くの人がこれまで持っていた価値観を大きく変えたといいます。被災地での結婚や離婚の増加も価値観の変化が一因です。東北の原子力発電所が注目されたことで、自分たちの生活がこうして支えられていたのかと気付いた人も大勢いたと思います。

角野教授

角野教授

これからのまちづくりには、産業、福祉、インフラ整備、教育などあらゆる政策をトータルでコーディネートし、いかに実施・進行するかという「編集力」の強化が大きな課題です。たとえ計画ができたとしても、お金などの裏付けが取れないと絵に描いた餅になってしまいます。このため、思い描く町の形を事業につなげる職能を持ったトップの編集力と、生活者である住民レベルでの編集力の二つが相互関係を強めることが必要です。
震災前から、行政の仕組みをスリム化しようとする流れがありましたが、全国の自治体は日常的な業務に追われ、手一杯の状態でした。今後はこのスリム化した行政の中に、救援・計画立案・事業実施という3段階の体制を構築し、内包する必要があります。同時に、平時の日常的体制と緊急時の非日常的体制の整備も求められています。

地方自治の再建には、都道府県に基本的権限を与えるのも一つでしょう。きめ細かい情報収集は自治体が行い、密に連携した都道府県が広い視野で采配や調整を行うという仕組みです。例えば、阪神大震災ではおよそ9000億円の復興基金が、自治体の意思で配分や使用がフレキシブルに使えるお金として機能しました。いわゆる国の補助事業ではないため、都道府県や復興の中心となる組織がニーズを汲み取り、自らの意思で配分や使用ができる利点があります。